第二十六話 帝国兵の脅威

「く、クレイディアさんが、シャーマン候補だったんですか?」


「ええ」


 ルチアは、戸惑いながらも、クレイディアに尋ねる。

 クレイディアは、笑顔でうなずいた。

 どうやら、間違いないらしい。

 まさか、こんなにも、早く、シャーマン候補と出会うことになるとは、思ってもみなかったのであろう。


「だから、貴方の事は、頼りにしてるからね」


「は、はい」


 クレイディアは、ルチアに期待しているようだ。

 おそらく、ヴィクトルから、話を聞いているのだろう。

 ゆえに、信頼しているようだ。

 ルチアは、プレッシャーに感じながらも、うなずいた。

 本当に、皆が、ヴァルキュリアを待っていたのだと、感じ取って。


「だが、シャーマン候補は、どうやってなるんだ?」


「あら、聞いてないの?」


「うん、俺達、何も知らなくて……」


 クロウは、疑問に思った事を口にする。

 これから、帝国と戦うためには、様々な知識が必要になる。

 ゆえに、シャーマンとは、どのようになるのか、知らなければならないと思ったのだ。

 前に、フォウに尋ねたが、ルーニ島は、大精霊がいないため、力の強い人間が、選ばれると、答えられた。

 具体的な回答は、得られなかったのだ。

 クレイディアは、意外だと、言わんばかりの表情を浮かべている。

 ルチア達が、何も知らないとは、思わなかったのだろう。

 クロスは、申し訳なさそうに、答えた。


「そんなの決まってんだろ?大精霊・イフリートが、認めれば、なれるんだよ」


「まぁ、私の場合は、幼い頃から、一緒だったからね」


「幼い頃から、ですか?」


 バニッシュは、クレイディアの代わりに説明する。

 大精霊が、認めれば、シャーマンになれるらしい。

 クレイディアの場合は、幼い頃からの知り合いらしい。

 ルチアは、不思議に思い、尋ねた。


「ええ。私の父が、シャーマンだったのよ。殺されたけど……」


 クレイディアが、火の大精霊・イフリートと幼い頃から、一緒だったのは、彼女の父親が、シャーマンだったからだ。

 しかし、殺されてしまった。

 帝国の暗殺者に。

 クレイディアは、悔しそうな表情を浮かべる。

 憎いのだろう、帝国が。

 ルチアは、辛い事を思い出させてしまったと、責任を感じた。


「すみません」


「ルチアちゃんが、謝らなくていいのよ?気にしないで。それに、もう、こんな生活は、おさらばできるんでしょ?」


「もちろん」


 ルチアは、謝罪するが、クレイディアは、笑って、答える。

 ルチアが悪いと思っているはずがないからだ。 

 悪いのは、全て、帝国。

 帝国が、自分の父親を殺さなければ、このような事にはならなかった。

 それに、ルチアが、来てくれたという事は、帝国の支配から、解放される。

 クレイディアは、そう推測しているようだ。

 クレイディアの問いに、ヴィクトルは、うなずいた。


「で、いつ、決行するの?」


「明日だ」


「速いな」


「もたもたしてられないからな」


 クレイディアは、ヴィクトルに尋ねる。

 気になっているのだろう。

 いつ、大精霊の核を取り戻すのか。

 ヴィクトルは、明日、行動に移すと告げる。

 これには、さすがのクロウも驚いているようだ。

 ヴィクトルは、時間をかけていられないと、思っているらしい。

 確かに、商人が、長く、滞在するわけにもいかない。

 それに、いつ、帝国が、ルチアが、ヴァルキュリアである事を気付くかも、わからない。

 ゆえに、すぐさま、行動に移そうとしているようだ。


「いける?ルチア」


「うん、もちろん」


「よし、なら、明日、頼んだぜ」


 クロスは、ルチアを気遣い、尋ねる。

 もちろん、ルチアは、いつでも、準備万端だ。

 ヴィクトルは、にっと、笑みを浮かべ、明日、決行することを改めて、決意した。


「で、船長、これから、どうするんだよっ」


「まずは、この村の状態を把握しとかないとな。情報収集も、必要だ」


「わかった。私、行ってくる」


 ルゥは、この後、どうするか、ヴィクトルに尋ねる。

 ヴィクトルは、情報収集するつもりのようだ。

 情報収集は、前からやっている。

 だが、常に、状態は変化している場合はある。

 小さなことでもいい。

 ゆえに、村に潜入する時は、必ず、情報収集をやっているようだ。

 ルチアは、自ら名乗り出る。

 村の状況を知りたいのだろう。


「俺も行くよ」


「俺もだ」


「任せるぜ」


 クロスとクロウは、自分達も行くと、名乗り出る。

 当然だろう。

 ルチアが行くのだ。

 ついていかないわけがない。

 ヴィクトルは、情報収集をルチア達に任せ、自分達は、明日の為に、準備をすることとなった。

 怪我を負う場合もあるかもしれない。 

 ゆえに、薬の配合などもしなければならないのだ。

 ヴィクトル達は、地下に入り、ルチア達は、外に出て、情報収集を始めた。

 しかし……。


「さすがに、簡単にはいかないか」


「そうだよな……」


 一時間ほど、情報収取をしていたが、有力な情報は、得られなかった。

 帝国兵や妖魔の数が、増えたというくらいだ。

 これは、かなり、厳しい情報であろう。

 属性は、何か。

 何人もの帝国兵と妖魔が、火山にいるのかさえも、不明だ。

 クロスとクロウは、途方に暮れていた。


「どうにか、情報が手に入れば……」


 ルチアも、焦り始める。

 情報を手に入れたいところではあるが、皆、絶望している。

 ゆえに、情報収集は、困難を極めた。

 一度、ヴィクトルの所に戻り、作戦を立てなおす事も、考えたルチア達。

 だが、その時であった。


「た、助けて、許してください!」


 どこからか、女性の声が聞こえる。

 まるで、悲鳴を上げているようだ。

 ルチア達は、あたりを見回すと、少し、離れたところで、女性が、帝国兵に絡まれていた。


「駄目だ。私にぶつかったんだ。それなりの覚悟は、できてるだろうな?」


「ひっ……」


 帝国兵は、女性を脅し始める。

 どうやら、女性が、帝国兵にぶつかってしまったようだ。

 もちろん、故意にではない。

 女性も、気付いていなかったのだろう。 

 すぐ近くに、帝国兵がいたなどと。

 それほど、絶望していたのだ。

 帝国兵は、女性に迫る。 

 女性は、怯えるが、逃げようとしない。

 いや、逃げられないのだ。

 恐怖で、体が、動かなかった。


「あいつ……」


 女性と帝国のやり取りを聞いていたクロスは、こぶしを握りしめる。

 怒りで、体が、震えているようだ。

 クロスは、今すぐにでも、女性を助けようとしている。

 しかし、彼よりも、先にルチアが動き始めた。


「待て!!」


 クロウが、制止しようとするが、時すでに遅し。

 ルチアは、クロスとクロウから、遠ざかっていった。


「ひひひっ!!楽しみだぜ」


「いやあああっ!!」


 帝国兵が、不敵な笑みを浮かべて、手を振り上げる。

 女性に殴り掛かろうとしているようだ。

 女性は、悲鳴を上げるが、誰も助けようとしない。 

 帝国兵には、逆らえないようだ。

 それをいい事に、帝国兵は、女性に殴り掛かろうとした。

 だが、それは、できなかった。

 なぜなら、ルチアが、蹴りを放ち、帝国兵を食い止めたのだ。


「なっ!!」


「え?」


 帝国兵と女性は、驚愕する。

 誰も、予想していなかった。

 女性を助ける者がいるとは。


「ルチア!」


「……」


 クロスは、驚愕する。

 予想外の事だったのだろう。

 クロウは、黙って、ルチアを見ている。

 困惑しているようだ。

 どうするべきか、悩んでいるのかもしれない。

 帝国兵に、気付かれてはならないが、ルチアを助けたいという想いが、先走りそうになり、葛藤しているのだろう。


「な、なんなんだ、お前!!」


「女の人に、殴り掛かるなんて、最低」


 兵士は、戸惑っているようだ。

 当然だろう。

 まさか、誰かが、止めに入るなど思ってもみなかったのだから。

 この島の者は、皆、帝国に支配されているも同然。

 逆らえば、命がない。 

 ただ、ぶつかっただけで、殴られそうになっているのだから。

 だが、ルチアは、違った。

 たとえ、自分が、傷を負っても構わない。

 皆を守りたいのだ。

 命がけで。

 ルチアは、怒りの言葉を兵士に向けて吐き捨た。


「許せない!!」


 ルチアは、構える。

 兵士と戦うつもりだ。

 もう、我慢ならなかったのだろう。


「こ、このガキっ!!」


「はあっ!!」


 兵士は、再び、ルチアに殴り掛かろうとする。

 しかし、ルチアは、兵士よりも先に早く動き、兵士の顔面に蹴りを放つ。

 兵士は、勢いよく地面に倒れた。

 それを見ていた島の民は、驚きを隠せない。

 兵士を蹴りを入れたのだから。


「ってぇ!!」


「おい、そこで、何をしている!!」


 蹴られた兵士は、苦悶の表情を浮かべる。

 すると、ほかの兵士が、ルチアの元へと迫った。

 騒ぎを聞きつけ、駆け付けたのだろう。


「正当防衛ですけど」


「せ、正当防衛だと?」


「女の人が、ただ、ぶつかっただけで、殴ろうとしたんです。しかも、私も、殴られそうになったので、蹴った。ただ、それだけです」


 ルチアは、兵士に向かって堂々と告げる。

 これは、正当防衛だと。

 ルチアは、殴られそうになった女性を助けた。

 ただ、それだけだ。

 さすがのクロスとクロウも、驚きを隠せない。

 あのルチアが、冷静に、そのような事を話すのだから。

 相当、怒りを露わにしているのだろう。


「それが、正当防衛?そんな事、通じると思うか!!」


 兵士は、剣を鞘から引き抜き、ルチアに斬りかかろうとする。

 蹴られた兵士も、立ち上がり、剣を鞘から引き抜く。

 ルチアは、再び、構えた。

 二人の兵士は、ルチアに斬りかかった。

 しかし……。


「なっ!!」


 二人の兵士は、驚愕する。 

 なぜなら、クロスとクロウが、ルチアの前に出て、古の剣を引き抜き、二人の兵士の剣を食い止めたのだ。

 クロスとクロウも、我慢できなかったのだろう。

 ルチアまでも、傷つけようとするのだから。

 自分達の正体が、ばれてしまうかもしれない。

 それでも構わなかった。

 ルチアを守るためなら、覚悟さえも、できるのだから。


「ルチアを傷つける奴は……」


「俺達が、許さない!!」


 最初に、クロウが、剣をはじき、続いて、クロスも、剣をはじき、構える。

 ルチアと共に戦う為に。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る