第十三話 双子の決意

「まさか、妖魔が二人も……」


 ルチアは、愕然としていた。

 まさか、二人同時に、妖魔が、現れるとは、思ってもみなかったのであろう。

 これは、予想外の出来事だ。

 二人の妖魔は、嬉しそうな笑みを浮かべている。

 勝ち誇っているかのようだ。


「ねぇ、お兄様、あの子が、例の子なんでしょ?」


「らしいな」


 妖魔の女性が、妖魔の青年に尋ねる。

 しかも、兄弟のようだ。

 妖魔に兄弟がいたなど誰が予測できたであろうか。

 事もあろうか、妖魔達は、ルチアの事を知っているようだ。

 一目見て、気付いたようだ。

 ルチアの正体に。


「殺していいかしら?」


「もちろんだぜ」


 妖魔の女性は、構える。

 ルチアを殺そうとしているようだ。

 妖魔の青年も、待ちきれんと言わんばかりの表情で構えた。

 ルチアも、構える。

 だが、今、ルチアは、変身していない。

 変身したいところではあるが、隙を作らなければ、変身することは不可能であろう。

 クロス達の守らなければならない。

 となれば、ルチアにとっては、圧倒的に不利な状況であった。

 それでも、妖魔達は容赦なく、ルチアに襲い掛かろうとする。

 だが、その時だ。

 クロスとクロウが、ルチアの前に出て、剣で、防いだのは。


「な、なに!?」


「クロス!クロウ!」


 妖魔の青年は、戸惑いを隠せない。

 まさか、クロスとクロウが、前に出て自分達の攻撃を止めるとは、思いもよらなかったのであろう。

 妖魔達は、クロスとクロウの剣をはじき後退した。


「力もないクズが、邪魔すんな!!」


 妖魔の青年が、二人を罵りながら、斬りかかる。

 妖魔達の力は、驚異的だ。

 今のクロスとクロウでは、歯が立たないだろう。 

 それでも、クロスとクロウは、ひるむことなく、立ち向かっていく。

 ルチアを守るために。


「ルチア、今のうちに!!」


「うん!!」


 クロスが、ルチアに、変身するよう促し、ルチアは、目を閉じて、集中し始める。

 ヴァルキュリアに、変身するために。

 しかし……。


「邪魔しないでよ、ゴミが」


「がっ!!」


 妖魔の女性が、クロスとクロウを吹き飛ばす。

 その間に、妖魔の青年が、ルチアに襲い掛かろうとしていた。

 しかし、次の瞬間、ルチアは、ピンクの光に包まれる。

 妖魔の青年は、ピンクの光に遮られ、吹き飛ばされそうになるが、体勢を整え、後退する。

 その直後、ルチアは、ヴァルキュリアに変身した。


「よくも、二人を傷つけたね……」


 ルチアは、怒りを露わにする。

 許せないのであろう。

 大事な家族を傷つけたのだから。

 その目は、鋭く、普段の彼女からは、想像できないほどだ。

 妖魔達は、恐怖を怯え、体が硬直しそうになった。


「絶対に、許さない!!」


 ルチアは、構える。

 クロス達を守るために。

 その間に、アレクシアは、クロスとクロウを連れて、右の通路へと入っていった。

 妖魔達に、気付かれないように。


「そう来なくっちゃ!!」


「楽しみましょう!!」


 ルチアに対して、恐怖を感じた妖魔達であったが、その恐怖を押し殺すように、笑みを浮かべる。

 たとえ、ヴァルキュリアであっても、二対一では自分達に適うはずがない。

 そう、思いたいのであろう。

 妖魔達は、ルチアに襲い掛かる。

 だが、ルチアは、跳躍し、体をひねらせながら、回避する。

 しかも、妖魔達の背後に着地して。


「はっ!!」


「ぐへ!!」


「いやん!!」


 ルチアは、豪快に、回し蹴りを放つ。 

 蹴りは、妖魔達の顔に直撃し、妖魔達は、吹き飛ばされる。

 やはり、オーラを刃と化していなくても、ヴァルキュリアの攻撃は、彼らに通用するようだ。

 立ち上がった妖魔達は、ルチアをにらみつけた。


「よくも、私の顔に……」


「やるじゃねぇか。このアマ」


 妖魔達は、怒りを露わにしている。

 まさか、顔面を蹴られ、吹き飛ばされるとは、思いもよらなかったのであろう。

 それでも、ルチアは、怖気づくはずもなく、構える。

 ここで、逃げるつもりなど毛頭ない。

 真っ向から挑むつもりだ。

 クロスとクロウの為に。

 妖魔達が、襲い掛かる前に、ルチアは、勢いよく、地面を蹴って、妖魔達に向かっていった。


 

 その頃、クロスとクロウは、アレクシアに連れられて、右の通路を走り抜ける。

 すると、部屋が二人の視線に映った。


「クロス!クロウ!こっちだよ!」


 アレクシアは、クロスとクロウを奥の部屋へと導こうとする。

 だが、アレクシアは、気配を察したのか、急に立ち止まった。

 すると、虎の姿をした黒い毛並みの妖獣たちが、クロス達の前に立ちはだかったのだ。


「っ!!」


「妖獣が!!」


 妖獣達は、部屋の入り口の前に立ち、クロス達の行く手を阻んでいる。

 どうやら、あの妖魔達の差し金であろう。

 二人を騎士にするつもりは、毛頭ないようだ。

 クロスとクロウが、前に出て、背中に背負っている剣を鞘から引き抜き、向ける。

 妖獣達は、一斉にクロス達に襲い掛かった。

 すると、クロスが、クロウよりも、先に動き、妖獣達に向かっていった。


「退け!!」


 クロスが、感情任せに、剣を振るう。

 まるで、冷静さを失っているようだ。

 妖獣を切り裂いていくクロスであったが、決定的なダメージにはなっていない。

 むしろ、妖獣達は、クロスをあざ笑うかのように、回避し始めている。

 一匹の妖獣が、クロスの剣を回避し、クロスに噛みつこうとした。

 クロスは、回避する事も、できず、襲われそうになる。

 だが、その時だ。

 クロウが、クロスの前に出て、かばったのは。


「くっ!!」


 妖獣の牙は、クロウの右腕に食い込み、右腕から、血が流れ始まる。

 クロウは、顔をゆがめたが、ひるむことなく、冷静に、噛みついた妖獣を剣で突き刺し、妖獣は、消滅した。


「クロウ!!」


「冷静になれ、クロス。焦ると、俺達も、やられるぞ」


「わかってる。でも……」


 クロウは、クロスを諭す。

 冷静にならなければ、妖獣でさえも、勝つことはできない。

 クロウは、そう言いたいのであろう。

 クロスは、クロウの言いたいことは、理解している。

 だが、頭では、どうすることもできないのだ。

 一刻も早く、騎士にならなければ、ルチアが妖魔達に殺されてしまうかもしれない。

 そう思うと、クロスは、居てもたっても居られなかった。

 妖獣達は、クロス達に襲い掛かるが、クロスとクロウは、妖獣たちを切り裂いていく。

 だが、その時だ。

 アレクシアが、魔法で、妖獣達を吹き飛ばしたのは。


「二人とも、ここは、私に任せて、早く!!」


「わかった。すまない」


「ありがとう、アレクシアさん!」


 アレクシアが、妖獣達の相手をしてくれるようだ。

 本当は、アレクシアを残して、先に進むのは、気が引ける。

 だが、そうしなければ、二人は、騎士になれない。

 クロスとクロウは、アレクシアに謝罪、感謝し、部屋へと入っていった。

 部屋に入った二人。

 部屋の奥には、二つの剣が置かれていた。

 一つは、白い宝石が埋め込まれた剣。

 もう一つは、黒い宝石が埋め込まれた剣だ。

 おそらく、この二つの剣が、騎士のみが使えるという古の剣であろう。

 クロスとクロウは、その二つの剣へと歩み寄る。

 しかし、妖獣の一匹が、アレクシアの魔法を回避して、二人を追いかけてしまった。


「ま、待て!!」


 アレクシアは、二人を追いかけている妖獣を魔法で、食い止めようとするが、他の妖獣に、邪魔されてしまう。

 その間に、妖獣は、爪で、二人の背中を引き裂いた。


「ぐっ!!」


 背中に激痛が走り、二人は、顔をしかめる。

 だが、ここで、立ち止まるわけにはいかない。

 クロウは、強引に、振り向き、妖獣を引き裂く。

 そして、ひるむことなく、古の剣へと向かっていき、古の剣をつかんだ。

 その時であった。

 二人の脳裏に、ある光景が、浮かび上がる。

 それは、島で、祭をやっていた時だ。

 屋台が立ち並び、クロスとクロウは、祭を楽しんでいる。

 二人の隣には、ルチアがいた。

 だが、もう一人、彼らの隣にいたのだ。

 その人物は、菫色の髪の少女だ。

 ルチアと共に楽しそうに、微笑んでいる。

 まるで、祭を楽しんでいるかのようであった。


「い、今のは……」


「あの子は、誰だったんだ?」


 二人は、互いの顔を見合わせる。

 あの菫色の髪の少女が誰なのかは不明だ。

 思いだそうとしても、思い出せない。


「わからない、けど……俺達、騎士になったんだよな?」


「ああ」


 菫色の髪の少女の事は、不明だ。

 だが、わかる事が、一つだけある。

 自分達は、騎士になったのだ。 

 もう一度。

 クロスは、確認するように、クロウに尋ねると、クロウは、冷静にうなずいた。


「行くぞ、クロス!」


「ああ!!」


 クロスとクロウは、古の剣を握りしめ、部屋を出る。

 通路でアレクシアが、魔法を放ちながら、妖獣と戦っていた。

 だが、やはり、数匹を相手にするのは、難しいようだ。

 アレクシアは、追い詰められていた。

 一匹の妖獣が、アレクシアに襲い掛かる。

 アレクシアは、魔法で、防ぎきる事もできないほど、追い詰められてしまっていた。

 だが、その時であった。

 クロスとクロウが、アレクシアの元へと駆け付け、アレクシアの前に現れたのは。

 

「「せやっ」」


 クロスとクロウが、同時に、剣で薙ぎ払い、一気に、妖獣達を蹴散らしていく。

 たった、一撃で、いとも簡単に妖獣達は、倒れ、消滅してしまった。

 アレクシアは、あっけにとられているようだ。

 二人の威力に。


「すごい、今までとは、違うみたいだ」


「そうだな」


 クロスは、感じているようだ。

 古の剣を手にしたことで、今までとは、違い、力が、みなぎってくるのを。

 クロウも、同じように感じていた。

 そして、これで、ルチアを守れると、二人は、確信していた。


「行こう、クロウ」


「ああ」


 クロスとクロウは、地面を蹴る。

 妖獣を全て、倒して、ルチアの元へと急ぐために。

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