新婚旅行

「おお、美しい異国のお嬢さん、こちらは初めてですかな? 我が城へようこそ」

 古城の前で、ひとりたたずんでいると、明らかに『貴族』のような格好をした男性に声をかけられた。

 金髪碧眼で、とてもカッコイイ。しかも、流暢な日本語だ。ただ、なんとなく違和感を感じさせる。

 私は、あいてを観察した。悪意は感じられない。

「ええと」

 これはボランティアとかの観光ガイドと思うべきかな。

 日本の城にいる、武将隊みたいな?

「ぜひ、ご案内をさせてください」

 男は、丁寧に私の手をとって、キスをする。

 そのしぐさがいちいち気障で、決まっていて、恥ずかしい。この国では当たり前なのかもしれないが、大和民族の私には、恥ずかしくて仕方がない。

「あの……私、連れがおりまして」

 手を引っ込めながら、後ずさる。

「おや、美しいお嬢様のお連れとは?」

「マイ!」

 悟が駆け寄ってきて、ほっとする。

 悟は険しい目で男を睨みつけた。

「英霊が、我が妻に何の用だ?」

 男はにこりと笑う。よく見ると、彼の身体は透けている。

「美しい女性に我が城を案内しようとしただけなのだが」

 男は私の手を握ろうとして、悟に払いのけられた。

「……散らされたくなければ、去れ」

 悟の強い口調に肩をすくめ、男は消えて。

 悟は、ふーっとため息をつく。

「なあ、マイ」

「はい?」

「……古い史跡を回るのはやめよう」

「どうしてですか?」

 キョトンとした私を見て、悟がため息をつく。

「行く先々で、守護神クラスの英霊に妻がナンパされる身にもなってくれ」

「……みなさん、案内してくれるって、いっているだけですよ?」

 私の言葉に、悟はため息をついた。

 霊的魅力は、国境を超えるらしい。妖魔の類は、どこに行っても現れて、言葉も通じるというのがよく分かった新婚旅行であった。



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