17-4 ペローの告白

 ナノマシンの恩恵と口に入れたスポンジのおかげで、うまくシャングリ・ラ市民防衛軍のアジトに潜入することができた。

 地下の車両基地。調査では、ここはスペースコロニー616『シャングリ・ラ』最大の地下空間だとあった。

 ここに3万人もの兵士たちや市民が蠢いていると思いきや、そうではなかった。

 伽藍の洞、中はエイジたちが歩いてきた暗夜行路とたいして変わらない。

 3人は滅びを待つこの大空洞を歩いている。

 ペローが先ほど拾った2人、エイジとアランを案内している最中だ。

 不用心かと思いきや、そうではない。警戒は厳重である。エイジとアランの頭を執拗に狙うスナイパーの存在があるのだ。それも4人。変な動きをすれば、確実に仕留められるだろう。まだ死ぬわけにいかないから、2人はしおらしくしている。


「人がいないようだけど?」


 足場は悪い。揺れながら、やや下を向きつつペローは2人を案内する。


「デズモンドさん。ちょっと前にサイファーにかかった人たちが急に爆発しまして、密集していたから、その……みんな死んでしまいました」


 エイジ扮するデズモンド本田という日系アメリカ人の質問に、ペローは丁寧に答える。彼はとてつもなく悲しい表情をしていた。

 地下の車両基地は瓦礫の山で、本当にひどい状態だった。地面に光を当ててみれば赤黒いものが転がっていた。また、それにハエが群がっており、顔に、体にハエがタックルをかましてくる。

 ナノマシンで顔の皮膚の状態を変えているアランの顏にはびっしり張り付き、無数のハエがたむろしていた。


「な、なぁ……お、俺は、ここでおいとましていいか? 顏には、ハエが――鼻の中に入って来て――ぶぇくしょん!」


 辛そうなアラン、鼻の穴にハエが入ってしまったのだろう。盛大にくしゃみをした。

 見かねたエイジはペローに許可を求めた。アランをハエのいない場所に行かせてやってくれないか、と。ペローは快諾し、「コマンド・モーフがあるところに行くといい。電子機器があるから、ハエが入って来ないように蚊帳を設置している」と言った。それから、スナイパーにアランが自分たちから離れるという情報を伝えた。

 エイジとアランはスナイパーを探す。しかし、連中は巧みに隠れているからか見つからない。この場所のことを、エイジとアランの2人はあまり知らないということもあるが、相当な手練れが4人いると判断を下すのであった。

 コマンド・モーフがある場所をペローは指差した。

 指差した方向には、コマンド・モーフ『ナーガ』がずらりと並ぶ。明るい場所へアランはそそくさと走って行った。

 ペローとエイジが2人きりで歩くようになった後、、


「デズモンドさんはエンジニアだとさっき伺いました。人間が爆発したのは何がナノマシンによるものだと思いますが、わかりますか?」


 こんなことを質問されるのであった。


「いやぁ、もっぱら私は人型重機の技師ですから、ナノマシンはちんぷんかんぷんです」

「そうですか」残念そうな顔をすると、ペローは言った。「すみません、専門外のお話を振ってしまって」


 礼儀正しい青年だとエイジは思った。

 でも、ただそれだけだ。殺すことに変わりない。こいつが地球に災厄をもたらす。エイジはそう考えていた。だが、現在のシャングリ・ラ市民防衛軍の様子からして、これでどうやってコキュートスに総力戦をかけられるのか疑問に思うほど弱っている。

 見るからに兵士たちは50名ほどしかいない。で、その大半が傷ついた兵士たちだ。衛生状態の悪い所で寝っころがされている。対して、コマンド・モーフは健在で車両基地の端から端までずらっと並べられていた。その中にナーガラージャは存在しないようだ。どこにあるのだろうと、エイジは少し探すが何もない。


「どうしましたか?」


 尋ねられ、エイジはこんな質問をする。


「ペローさん。ここには市民がいると伺ったのですが、見た所、民兵さんたちだけでどこにもいないようですが?」


 この質問はペローの表情を重く苦しくした。

 歩いていたのだが、ここでペローの足が止まるのであった。


「……」


 エイジは演技する。

 しまったという顔をして、申し訳なさそうな顔をした。


「すみません」

「いえ、いいんです」


 ペローは無理やり笑顔を作ると、歩き出す。

 エイジの耳に鼻をすする音が聞こえた。一生まとわりつきそうな、粘っこい音だなと思うのであった。これを払しょくしたいが、ままならない。


「ここにいた市民は――その、一斉に……人が急に爆発した後、サイファーの感染者が急に……一気に襲って来たんだ。それで――僕らはやむなく、みんなに……」


 しどろもどろになりながら、ペロー話をするのであった。

 これに、


「殺しちゃった訳かい」


 思わずエイジの素が出てしまった。


「えぇ、えぇ、そうです、そうです……」


 目を細めるペロー。長く切れた双眸から、光るものがこぼれ落ちた。なのに、口角が吊り上っている。

 泣いているのか、笑っているのか分らない。おぞましい表情。

 相対するエイジの瞳はかぁっと開いている。隠していた自分が出てしまったことに対してだ。戦闘中に言葉を交わした訳である。ひょっとしたら、ばれたかもしれない。そう考えると気が気でない。悪寒がエイジの背を撫でた。


「……泣く泣く、殺したんです。僕に恋人がいました。でも……サイファーに体を乗っ取られ、死んでしまった。EFFに殺されてしまったんです。殺されたんだ。だからこそ、EFFが許せない。結婚を誓い合った仲だったというのに!」


 叫んだ後、ペローが崩れ落ちる。

 背中を丸め、唸りを上げる。車のエンジンのような声で恋人の名前を連呼した。男の喪失はそれほどまでに、深いものであった。

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