17-2 メトロ

 シャングリ・ラ市民防衛軍のアジトは地下鉄にあった。蜘蛛の巣のように張り巡らされた場所から、EFF第66歩兵大隊とゲリラ戦を行っている。

 エイジとアランは地上で装備を整え、この地下迷宮に潜入した。

 地下鉄は大空洞になっているからか、音がよく響いた。石ころを蹴る音がこだまし、横たわる奈落そのものだ。何がいるのかわからない、何が出てきてもいいように神経を尖らせ、音をさせぬように足を運ぶ。よく響くから。

 闇も深く、照明を手にしていても心もとない。慰めに手にしているのは拳銃だけ。対人用の代物だ。化け物相手には、決定打が欠けている。

 それでも、何もないよりはマシである。


「中は感染者が多いな」

「みたいだな。背中が痒くって仕方がねぇ。かいてくれねぇか? エイジ」

「無理だ。右手にゃ銃、左手にはライトだ。諦めな」


 拳銃を構える一組の男たち。エイジとアランだ。2人とも口に何かを詰めているのか、声がくぐもっている。

 2人の設定はこうだ。

 アジア人とアフリカ人の観光客が、サイファーの感染者――いわゆるゾンビやクリーチャーが闊歩する場所に迷い混んでしまった。そんな時に2人は出会い、一緒に行動しているという設定だ。ゆえに、手にしている銃は鉄道保安からくすねたものである。

 そんなエイジとアランが目指す場所は近いのだが、その道程は遠く感じられていた。

 ゆっくり進んでいっているというのもある。が、一番の理由としては暗い上に、襲撃してくる存在がいることだ。それと集中しているせいか、時間が永く感じられていた。いつまでも――いや、いつになっても闇が切れない。2人の緊張の糸は、張りつめたままだ。


「ミイラみたいなアランさんよ、気分はどうだい?」


 気を紛らわせるために、時たま2人は会話をする。エイジはガチガチに緊張した顔をしていた。一方で、アランの顔は包帯でグルグル巻きにされており、闇の中で布地の黄ばんだ色が蛍光の――そう、緑色に光っているかのように見えていた。


「最悪だね」アランはそっと息を吐いた。「まさか自分がホラー映画の主人公みたいな真似をしなくちゃならんとはな」

「だな。それに蒸し暑い。サウナにでもいるみたいだ。こんなことなら、強化外骨格を壊さなきゃ良かった」

「お前がそんなことを言うなら、下に着込んで来れば良かった。なんで全部捨てちまったんだろ? あのスーツ気に入っていたんだけどなぁ。辛いもんがあるぜ。一番つらいのは、ナノマシンの例の機能のおかげで顔がヒリヒリすることだがな」


 ここでエイジは額の汗を拭う。左の口角を上げ、そっと息を吐いた。


「今のお前、女のマ○コみたいにグチュグチュか?」


 アランが嫌う卑猥な冗談。

 普段ならカンカンに怒るのだが、


「それ以上だ。これだけベチャベチャなのは初めてだ。困ったことによ」


 これまでにない過酷な状況に身を置いているからか、怒る気は失せたらしい。チラッとエイジがアランの顔を見た時、薄ら笑いを浮かべていた。本当に余裕がないらしい。なんだか、いつもとは違うのでエイジはしっくりこなかった。

 いつもならばと考えた時――突如、闇の中からサイファーの感染者が現れた。

 末期の感染者である。タコのような風体をした化物が迫りくる。錆びた自転車のブレーキの甲高い音のような奇声を上げ、エイジに触手を伸ばす。


「おわッ!?」

「エイジ!」


 横に飛び、なんとか攻撃を避けるエイジ。


「ととと……このっ野郎!」


 すぐさま、核に弾丸を叩き込んで黙らせる。けたたましい音がトンネル内に響き、まだ人間の形をかたどっている感染者たちの声がした。それはまるで、犬の遠吠えのようであった。


「エイリアンがうようよいるようだな。想像以上だ。気をつけなきゃならんな。弾をなるたけ、節約するように――とぉ!?」


 エイジがこう言ったあと、アランの方に3人のゾンビ、サイファーの感染者が現れる。

 彼らは感染して日が浅いようだ。感染して、理性は完全に吹き飛んでしまっているが、まだ人間の形を保っていた。


「しつけぇ連中だ。こないだヤり捨てした女かよ。メンタルヘルスに行きやがれってんだ!このクズどもめ!」


 アランはすかさず3人の脳天を撃ち貫く。はじける音が三つ、トンネルの壁に染み渡る。

 このトンネルのどこかにいるであろう――徘徊者たちは、遠吠えをした。

 アランが脳を撃ち抜いた感染者たちは、その場に崩れ落ち、ものいわなくなってしまった。

 この襲撃者たちを淡々と処理した後、アランはため息をついた。それから、首を回し、小気味よい音をさせる。


「ゾンビもいやがるぜ、エイジ。女のマ○コにしちゃあ、酷いのなんの……テンション下がるぜ。どうしたもんかな? こいつら、シャングリ・ラ市民防衛軍の連中だよな?」

「だろうか?」

「断言はできないが、そうだと思う。民兵どもの物資は潤沢とは言えないから、対処しきれなくなったんじゃないのかとね。急激に増えたんじゃないのかね、感染者にさ。だから、敵さんは焦っているのかもしれんな。総力戦を仕掛ける~あ、いや……そうじゃないな。総力戦をしようとしているのはだな」

「まぁ、そうだよなぁ」


 会話する2人は、なるたけ弾を節約するように心がける。しかし、サイファーの感染者たちは減ることはなかった。エイジとアランが持つライトに惹かれ、襲いかかった。それはもう火にたかる蛾のようであった。

 弾は無限ではない。まずいなと思いつつ、2人は進んでいく。

 消費する弾の数とともに、会話も減っていった。

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