16-4 暗殺計画


「帰る前にさ、これだけはやっておかなくちゃならない」


 アランはこう前置きすると、外に視線をやった。

 終わらない夕闇の中に立ち上る黒煙、それが茜色を覆って夜にしていた。それを見てか、ここも夜になるのだとエイジは勘違いした。


「ペローの暗殺だ」アランは言った。「民兵共はペローというカリスマに頼りきりだ。あいつがいなくなれば、いさかいが起きるぞ」

「なるほどな。シャングリ・ラ市民防衛軍はペローでつなぎとめられているのか?」

「そうだが――それも少々、緩くなりつつある。お前がナーガラージャというレジスタンスの象徴をボコボコにしてくれたおかげで、ペローに反発するやつも出てきているみたいだ。目覚めは近いってところかね?」


 ペローに反発するやつがいると聞いて、エイジはその情報がどこから来ているのか気になるのであった。

 アランに視線を戻し、鼻をすすった後――。


「それはどこからだ? どこで聞いたんだ?」


 エイジは質問した。


「シャングリ・ラ市民防衛軍の本部近くだな。ここから40キロ先の場所にあるんだ。そこで戦闘になった時にさ、不意に聞いちまったんだんだよ。副司令官のフィリップとかいう男がさ、身内に言っていた。ペローにつっかかる民兵がいたり、影で死ねだの何だの言われていたりしているとかね。サイファーの感染者の攻撃が激しくって、地球に行くっていう無謀な作戦に異を唱える者も現れているみたいだよ」


 アランはシャングリ・ラ市民防衛軍の本拠地を知っているようだ。

 場所がわかっているなら、あとはそこに行くだけだ。ペローを殺し、ひとつの思想のもとに束ねられた民兵たちをバラバラにする。バラバラになっている間、エイジとアランは艦隊に帰って、スペースコロニー616『シャングリ・ラ』がいかにヤバいところかを語る。

 サイファーというとんでもないエイリアンを抱えているスペースコロニー616『シャングリ・ラ』を何とかするため、艦隊が出撃する。そして、ミサイルの雹と荷電粒子の雨によって何もかもが終わるだろう。それによって、スペースコロニー616『シャングリ・ラ』は宇宙の藻屑になる。

 それが、ジョンとマックという2人の戦友を失って――行き着くべき、帰結すべき結末であるとエイジとアランは考えている。

 ただ、


「どうやって、ペローを殺すかだよな」


 エイジは続ける。


「もう二度と、あいつとタイマン張りたくない。オートバリアーモジュールだっけか? あれ、すげぇうっぜぇぞ。でさ、俺、タコ殴りにしたせいで、あいつの絶対防御は絶対に強化されているはずだ」


 また出会って、同じようになぐればいいというものではない。絶対に対策を練られているはずだ。一度やったことは、二度通用しない。そうアランに伝えた。


「兵は詭道なり……知ってるか?」

「知ってるぜ、エイジ。孫子の言葉だろ?」


 アランは血の気が多く、英雄然としているジョンとは違う。だから、気兼ねなく暗殺という手段を嬉々として話せる。


「そうだ。戦争の基本は所詮騙し合いだ。状況というか空気を呼んで敵の目を欺いて、メロンを食うかだ」エイジは引き笑いをすると、「さて、どうするかだよなぁ。どうやってペローをこっそりぶっ殺そうかね。レジスタンスのリーダーだから、きっと警備は厳重だと思われる。いくら民兵が愚連隊でも、それくらいは徹底しているはずだろう」

「確かになぁ」と、アラン。

「まぁ、行ってみなければわからないかね? EFFが仕込んだ人間爆弾が起動し、状況はがらりと変わっているはずだ」


 ここでエイジは気になった。


「人間爆弾って、感染者の体にナノマシンを入れるのか?」

「そうだ。人間の血液に反応する弾丸――ブラッドボムって知っているか? 原理はそれと一緒。血に反応してドカン! って、やつだ」


 ブラッドボムとは?

 30年前に開発された、血液に反応して爆発する弾丸である。どんな距離で撃とうが、弾頭が人体にかすりさえすれば、体全部が吹き飛ぶ。あとに残るのは、なま臭い臭いと蒸気だけ。別名、悪魔の弾丸と呼ばれている。

 人間の体に、時限式のブラッドボムを仕込んだEFF第66歩兵大隊。彼らがどれだけ追い詰められているのか、エイジは理解した。


「コキュートスに攻められたら、ヤバい状態なのか?」

「EFFはさ、3日前の戦闘でかなり消耗したらしい。コマンド・モーフが20機しかない。それに比べて、民兵共は50機近くある。おまけに、お前が殴りまくったプロトタイプ機は健在だ。兵士の絶対数も、民兵の方が多い。だから、さっさとペローを暗殺しないといかん。地球の危機、人類の存亡がかかっているという状況だ」


 エイジとアランは考える。

 しばし、沈黙する2人であった。


「ブラッドボムの話をしたからかな? こんなことを思い付いたよ」


 そして、エイジは思いつく。


「どんなことだ?」

「シャングリ・ラ市民防衛軍に潜入してだなぁ。ペローのコマンド・モーフの中に爆弾を仕込むってのはどうかな? 酷い案であることはわかってる。けれども、それしかマシな策が思いつかん」


 アランは沈黙する。

 良策がない以上は、エイジの策を敢行するしかなかった。


「……やるしか、ねぇよなぁ」


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