16-3 人間爆弾


 闇の中に二人。

 あぐらをかき、うなだれた兵士が二人。


「止めたかったが、もうダメだったか……」アランは言った。「俺は人間爆弾っていう凶行を止めたかったんだ――エイジ。でもなぁ、ジョンが……サイファーの患者は地球の為に死ななければいけないと言っていたんだ。サイファーという未知の存在に対処するために必要な措置だって言っていた」


 地球にサイファーが蔓延ると大変なことになる。

 EFFの行動は人道的によろしくない。が、サイファーの感染速度を考えると正しい行動をとっているのかもしれない。軍隊というものは、ある時は民衆を救うヒーローとして、またある時は人類を救うためにヒールに徹しなくてはいけない時があるのだから。

 それでも、だ。軍隊を構成しているのは1人の人間だ。1人の兵士たちが身を寄せ合って、部隊という単位を作っている。ゆえに、機械のように割り切れないこともあるのだ。


「言っていたから、俺にあいつを始末させたのか?」


 そう、今のように。

 ドスの利いた声でエイジは、ジョンを始末させた理由を問い質した。


「それもある」アランは頭を抱えると、「が、エイジ……一番はあいつが裏切っていたっていう証拠を握っていたのもあるんだ。ほら、俺がお前に見せたデータだよ。証拠はあった……でも、俺に仲間を撃つ覚悟なんてなくって、屈強な兵士だと思っていたけど。いざって時に、何にもできなかった。あいつの言いなりになっていたんだ」

「わかるよ。お前じゃ、どうにもできなかったんだよな?」

「あぁ……あぁ!」


 アランは呻くような、かすれた声でどうにもできなかったと返答した。大の大人が子供のように泣きながら、だ。アランも相当参っていた。彼もまた、エイジのようにギリギリで踏みとどまって、戦っていた。

 それを酌むエイジは気にするなとも、泣くなとも言わなかった。

 気を紛らわせることに――そう、エイジは仕事の話を再開することにした。


「このスペースコロニーで何があったのか、だ。少しだけ、話をしようじゃないか。アラン、べそをかきながらでもいい。話をしようじゃないか?」


 なるたけ努め、エイジは声色優しく訴えた。

 本当のところはささくれ立っている。泣きたいのはこっちだと、エイジは頭を傾けたいところであった。

 マックを目の前で殺され、エリーと赤ん坊を化け物にされた。挙句、長年一緒に戦っていた戦友が裏切っていた。裏切り者であるジョンをやむなく始末した。

 だが、何も文句は言えない。

 先ほど、自分の悩みをアランに聞いてもらった。そのこともあったから、エイジは沈黙していた。


「わ、わがっだ。は、話すよ」


 鼻をすする音がした後、集めてきた情報の整理にかかる。

 今後、どうすべきか。指針を決めるためだ。


「ここであったこと、まとめてる……全部頭の中に叩き込んでるぞ、エイジ」

「よし、それじゃあ。話してくれるな?」


 もちろんだと、アランは返事をした。

 しばし、間が空いた後――。


「2125/11/20――大型コルロリアクターが完成した。


 2125/11/26――大型コルロリアクターの試運転を行うと、大量の肉の塊のような未確認生物が沸いたらしい。その翌日、襲ってきた未確認生物を”サイファー”とEFF第66連隊の連中は呼称した。ほいで、コロニー治安維持部隊が対処に当たった。2日かけて研究施設を封鎖し、炉ごとサイファーを凍結処理したそうだ」


 アランはめまぐるしい3日間の戦闘で得た情報を端的に語るのであった。


「炉ごと凍らせたのか?」

「みたいだな。でないとサイファーが一気に街に放たれるとかで。ちなみに封印された場所は、コキュートスと呼称されている」


 闇の中、明かりが消えて目が慣れ始めた。向かい合う2人互いのシルエットを認識始める。

 話は続く。


「同日、リアクターの実験が失敗したことをTVで公表したらしい。それからすぐに、研究施設周辺の住民が体調不良を訴え、何人かの体がサイファーに乗っ取られてゾンビ化。次第に変異し始める。


 2125/12/12――だったかな? その後、駐在していたEFF第66歩兵大隊が『市民を化け物から守る』 とな。ほいで、地球との通信が途絶した」

 地球と通信ができなくなったのか、それとも自発的に断ったのかはわからない。

 そう付け加えた後、アランは言った。


「それからだよ。EFFがさ、サイファーを患っている市民を集めて、密かに始末しはじめたのはさ。


 それが明るみに出て、2125/12/18――暴徒と化した市民が、シャングリ・ラ防衛軍を結成する。この日から、シャングリ・ラ防衛軍とEFF第66歩兵大隊との戦闘が始まった」

 どこから仕入れたかについて、おいおい聞くことにしたエイジ。腕を組んで眉間にしわを寄せた。


「なるほどな。警戒態勢を敷いて、だ。EFFはさ、リアクター実験の失敗にして、穏便に処理を行おうとしたんだな」

「そうそう」


 おそらく、マリンソンがこの騒動を引き起こしたのだとエイジは踏んでいた。

 マリンソンとは、久しく話していない。姿を見たこともない。しかし、あの男ならばやりかねない。そんな狂気が声に宿っていたのだ。だからか、エイジはあのだみ声が忘れられない。自分に酔いしれ、哲学を語る謎の男に苛立っている。

 あの男が、すべての元凶ならば自分の手で終わらせたいとエイジは考えていた。


「アラン、俺はこう考えている。何らかの情報操作があったように思えるんだ」

「それな。あ~そうだ。薬によって症状の進行を止められること、EFFは知らないみたいだ。それにより、ガスマスクをして感染者の頭を撃ちぬくという措置を敢行していた」


 唸った後、エイジはこんなことを尋ねる。


「話ぶつ切りになって悪いが、コンウェイ・ハミルトンは?」

「行方不明だよ」


 コンウェイ大佐の所在は不明。

 一呼吸置いた後、エイジにアランはこんなことを語る。


「EFFは、だ。感染していない市民たちを集め、別のコロニーへ脱出させていたが、全部失敗していたらしい」

「それは本当か?」

「本当だよ、脱出しようとした船はコロニーの防衛機構にやられているからな」アランは肩をすくめると、「エイジ、市民軍の目的は何だ? サシでやり合ったんだろ? その時に何か言っていなかったか?」


 こんな質問が飛んできた。

 正直に言って、答えるのは嫌だった。


「もちろん。市民軍は地球へコロニーを移動させようとしているみたいだ。地球に助けてもらうために」

「バカか!? 助けるどころが殺されるぞ」


 そう、アランが驚くのが目に見えてわかっていたからだ。


「だろ? たちが悪いことに、連中はバカで救いようがない。言ったが、全く聞き入れてくれなかった。それに、このスペースコロニーには、サイファーがある。戦闘で感染者が出れば、地球が大変なことになっちまう。そいつは避けなくてはいかん。どうにかして、さっさと帰っちまわないとな」


 シャングリ・ラ市民防衛軍がやろうとしていることを、さっさと知らさなくてはならない。すぐに、艦隊に帰る必要があるのだと訴えたエイジ。


「悪い、それはちょっと無理かもな。こんな情報を拾っちまったんだよ。近日、コキュートスに民兵共は勢力を上げて進撃するって言っていた」


 エイジは唖然とした。

 急に耳鳴りがして、激しい頭痛に苛まれるのであった。

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