14-2 難民キャンプにて

 目覚めた時、エイジは非常に焦った。

 起き上がった時、左肩から向こうがごっそりない。これほど恐ろしいことはなかった。

 すぐさま周りを見渡すと、部屋にいることを確認した。小さな部屋――今、エイジはベッドの上にいる。見回すと、自分と同じように6人の人間が寝転んでいた。中国が作ったスペースコロニーだからか、ほとんど中国人だ。

 左の袖がしぼんで寂しい。それが我慢ならなかった。

 わき目もふらず、ベッドから出る。部屋の外へ出ると、仄暗い廊下。だが、あたたかみがある。人が行き交っていた。

 人が歩いている。ただそれだけで、たまらなく愛おしく感じられた。赤の他人であるというのに。エイジは訳がわからなかった。こんな気持ちになったことはない。故郷の日本に帰ってもだ。

 すぐにエイジは思い出す。左腕が無くなって無くなっていること。誰よりも頼りになる戦友がいなくなっていることを。

 そばを通っていた人を尋ね回り、エイジは左腕の行方を追う。

 歩くにつれてここがどういう所かわかった。ここはどうやら、難民キャンプのような場所らしい。それと、ここにいるEFFの兵士たちは難民たちに結構フレンドリー。話せば陽気に言葉を返してくれた。

 仕方がなかったとはいえ、エイジは彼らの仲間を殺していた。喉に魚の骨が引っかかったような感覚に苛まれながらも、彼らと会話し、義手の場所を探り当てた。

 そして――見つけた。

 市街地のとある一角を占有しているEFF、そのはずれにたたずむガレージ。そこにエイジの戦友はいた。


「呂曉燕(ルー・シャオイェン)だな?」


 ガレージに入るエイジの眉間は険しい。

 背を向ける、セーターとジーンズの女性。彼女が触っているのはエイジの左腕。


「ナノマシンが何でも叶えてくれる時代に義手ね。いい趣味しているわね?」


 シャオイェンはエイジに顔を向けず、言った。

 流暢な日本語であった。

 今は――ナノマシンで細胞を活性化し、腕を再生できる科学技術が確立されている時代だ。なのに、時代錯誤か。エイジは義手を使っている。


「ありがとう。生憎、俺はナノマシンが苦手でね、細かいのが体の中に入っているのが嫌いなんだ。だから、そいつを使ってんだ。返してくれ。左腕が無いせいか、ここに来るまでに何度も転びかけた」


 エイジは適当にウソをついて、腕を返すように訴える。

 悟られたくはない。ナノマシンが体に定着しない稀有な病のことを。


「そう」シャオイェンはエイジに顔を向け、言った。「ごめんなさいね。純粋に興味があって――それと、面白いものをあなたは持っていた。個人で作ったものながら、かなり高性能なウェアラブルデバイス。技術者として、何だか――そそられてしまって、今、ちょっとした改造を行っていたの」


 友人の形見を――と思ったが、エイジは一旦停止した。少し間をおいて、怒りを冷ますとこう考えるのであった。マックのウェアラブルデバイスと、自分の義手。それらが一体化することの意味を。

 なんだかマックが側にいてくれるように感じられ、それはそれでありかもしれない。

 マックのことを偲び、エイジは視線を落とした。


「ごめんなさい。つい……でも、そっちの方がいいかなって。ダメだった?」


 心配そうにのぞき込むシャオイェン。

 美しい顔立ちだ。まっすぐ伸びて艶やかな黒髪に、大きな目の中にある黒真珠のような瞳。顔を上げたエイジは、その瞳に吸い込まれそうになった。凛として、まっすぐひかれた美しい眉。桜色の唇。透き通る白い肌に、高い鼻。

 ここで彼女が美人なことに気付くエイジ。女になれていないのか、思わず目を背けてしまう。


「あぁ、いや……あんた――美人だ。それに免じて許すとしよう」


 あろうことか、許してしまった。


「日本人はつまらないって聞いたけど、あなたは面白い人ね。この義手と同じくらい」


 太陽のような笑顔だった。

 眩しくてエイジはシャオイェンの顔をロクに見られなかった。


「まぁ、世界を股にかける仕事をしていたからなぁ。おかげか、日本人にないユーモアを培うことができた」

「それは何より。ところであなた、義手を使っている理由なんだけど――ナノマシンを受け付けない体質だったりする?」


 真顔になるエイジに、シャオイェンは頬杖をついて言った。

 これには驚かずにはいられない。エイジは唖然とした。


「私のこと、機械いじりが好きなだけの美人だと思った? 残念、私はナノマシン工学・生理学の博士よ」

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