13-3 エイジというケダモノ


「よってたかって俺を虐めやがって……ゼッテー赦さんからのぅ。テメーらのシリ穴ァ、ぶっといミサイルで[ピー]のガバガバの腐れ[ピー]みたいになりやがれぇぇぇぇ! ひゃっはぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 対空システムの認識コードを書き換え、絶叫するエイジ。

 これにより、対空システムは近づくシャングリ・ラ市民防衛軍のコマンド・モーフらを敵と認識した。マイクロミサイルが一斉に吐き出され、コマンド・モーフ『ナーガ』のケツを、好きな男と心中したくてたまらない女ストーカーのように、しつこく追いかける。

 死にたくないパイロットたちは、必死に逃げ惑う。が、しかしミサイルのほうが速い。コマンド・モーフが密集しすぎていたこともあるが、一番はパイロットの経験不足が原因であった。

 あっという間の出来事だった。

 永遠に続くシャングリ・ラの夕闇に、30機ものコマンド・モーフがはじけて混ざる。花火のようにパチパチ弾け、跡形もなく消えた。コマンド・モーフ30機、あっという間もなく爆散した。


「どんなもんじゃい、クソ野郎共! あの世で獄卒やってる鬼のきったねェパイオツ拝んでシコってろ! それで鬼にカマ掘ってもらうといいぜ! 嫌なら、自分のチンチン噛み切りやがれ!」


 汚い絶叫が轟く。

 なまりになまったエイジの日本語。繕っていた理性がほどけ、むき出しになる闘争本能。誰もこの男を止めることは出来ない。


「だぁっはっはっはっはっは!」


 そして、絶叫は爆笑に変わる。

 エイジの頭の中で、大量のアドレナリンとドーパミンがセックスしまくっていた。混ざり合う二つの物質が、脳の中で大乱交を繰り広げている。それによって本能が理性を犯し、歯止めが利かなくなっている。

 この上なく過酷な戦場で、エイジの心はおかしくなっていた。常に戦況はエイジにとって悪い方向へと転がって行く。この地獄を切り抜けるために、脳内麻薬が大量放出。エイジは戦争に酔いしれていた。

 シャングリ・ラ市民防衛軍とEFF第66歩兵大隊との戦闘は、規模を増している。

 息つく間もなく、対空システムの元へと。


「おもぇらぁもたいがいにしゃーがれや! てめぇらぁのせいで民兵なんてできたんだよ! おめぇらがしゃんとせんからバカ丸出しクソ学生が出てきゃーがったんだよぉ! チックショーめぇ! おれが、おれがてめぇらぁをぶっち殺したるぅけぇの! 首をちゃぁんとあろぅてまっとれや! ゴラァ!」


 やって来るEFFのコマンド・モーフは20機。

 すぐさま、エイジは識別コードを書き換える。

 ミサイルの残弾はちょうど1つ余る。ニコニコしているイカれた戦士は、両肩を震わせながらコンソールを叩きまくった。


「俺の[ピー]ミサイルを食らいやがれ! ケツアナをガバガバにしろ! うなれ、我がムスコどもよ!」


 無茶苦茶――自分でも何を言っているかわからない。

 エイジはそんな状態にある。

 目を見開き、アゴがはずれんばかりに大口を開けて卑猥な言葉を発する。

 20機のEFFのコマンド・モーフがやられる瞬間がとてつもなく面白くてしょうがない。しょうがなかった。

 腹という地底から、こみあげるのは甲高い引き笑い。


「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは……」


 そんなエイジの元へ――。


「いたぞ! こっちだ」


 シャングリ・ラ市民防衛軍の兵士たちがやって来た。

 ハイになったエイジは屋上にやって来たシャングリ・ラ市民防衛軍の兵士たちと銃とナイフで、サンボを踊る。死を呼ぶ神聖な儀式、鋼の左腕を持つシャーマンは絶叫調だった。彷徨う刃は人の喉笛を求め、ほとばしる銃口からは熱い弾丸が放たれる。弾丸は人の体に入って、それはもう見事な花を咲かせた。転がる屍はクチナシの花を咲かせ、そこから、どくどく赤い汁が滴る。そして、赤い池を作った。池は広がり、川となり――海に変わる。

 血の海などに、構うことなく、エイジは嬉々として殺戮に興じる。血を浴びた男は、完全に悪鬼羅刹の体を成す。

 足を撃ち、手を吹き飛ばす。芋虫のように身をよじらせる敵の頭を、銃床で潰す。普段はやらない残虐行為をやってのける。

 そこには舩坂栄士という男はいない。人間もいない。

 舩坂栄士という鬼がいた。

 鬼は暴れ狂う。逃げ惑う民兵たちを猛追し、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ――を繰り返す。彼らの阿鼻叫喚は、遠くにいるリーダーにも届いているのだろうか? と、気にする頭は今のエイジにはない。ただ、ひたすら――殺戮する。

 血を浴び、舌なめずりをする鬼は1階を目指す。

 ところかしこに敵がいる。

 シャングリ・ラ市民防衛軍とEFF第66歩兵大隊の兵士が、どこからともなく現れた。

 拮抗する2勢力は、手を結んだのか? もしくはエイジという鬼を共通の敵とみなしたのか。両勢力の兵士たちはエイジを見るなり、絶叫しながら撃って来た。彼らの手の中で暴れる自動小銃は、まるで意志でもあるかのように身をよじり、エイジから逃げようとしていた。


「にがさんぞぉ~にがさんけんのぉ! おどりゃぁ!」


 しかし、逃れられない。生きるため、エイジは誰も彼も――戦う者は殺さねばならなかった。死ぬわけにはいかない、死にたくないという思いが誰よりも強いから。死ぬのが恐ろしくて仕方がない。

 故に足掻く。

 だから、血に溺れた。凶器の色に染まってしまった。

 弾が無くなったら人の銃を拾う。もしくは奪う。ナイフが折れたら、側にあった鋭いガラス片や尖った針金を拾い、それで人を突き刺した。


「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!」


 獣のような雄たけびをあげ、狂戦士は地獄を疾走する。エイジが作る風は鎌鼬。鋭い鎌を持つエイジというケダモノは一匹だけだ。転ばせる者、薬をつける者はいない。だから、背には屍しか残らなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます