13-2 嗤う鬼

 エイジの勘は鋭く冴えていた。

 彼の背中を狙う者が、長距離狙撃用25mm口径荷電粒子銃のスコープを覗いていた。

 その引き金を引こうとした瞬間を第六感で感じ取るエイジ。ブースターをふかし、敵の不意打ちをギリギリで回避した。


「クソ、今いいところだったのに……」


 文句を言った後、エイジはレーダーを見てみる。


「うぉ、こんなにいたんかい!?」


 知らぬ間に、大勢の敵に囲まれていたようだ。薄ら口が開いてしまった。エイジの目が泳ぐ。また、冷や汗でエイジの頭は濡れ始めた。


「しまった。ちょっとやりすぎたな」


 熱くなりすぎていたことをエイジは反省するのであった。それから、ちょっとどころではないことに気付く。

 視界には、わらわらと湧くシャングリ・ラ市民防衛軍のコマンド・モーフ『ナーガ』の一群が。ナーガラージャを助けにやってきたらしい。ずっと、ほぼ一人で戦い続けているエイジと違って、ペローは慕われているようだ。

 敵の規模はかなり多い。思っていた以上にヤバいことになってきたと、エイジは恐々とした。

 レーダーの点は計30。目の前には30機ものコマンド・モーフが飛んでいる。

 全員、自分を殺しに来た。

 ならばどうすべきか? これからどうやってこの30ものコマンド・モーフを相手取るか。これだけの数いたら、森に隠れても確実にばれる。EFFの陣地に突っ込むということも考えたが、その前に撃墜されるかもしれない。

 どうしたらいいものかと頭を抱えそうになった時、エイジの目の前にはビル。数十キロ先にビルがあった。対空ミサイルが屋上設置されている、あのビルである。


「いや、これなら何とかなりそうだな。あれを使おう」


 エイジが搭乗しているコマンド・モーフの両腕は、使い物にはならない。ナーガラージャをなりふり構わず、殴りまくったせいだ。そのせいで、両腕のレーザーソードは使い物にはならない。頭についている機関砲は生きているが、先ほどの戦闘でほとんど使い切ってしまった。

 戦うよりかは逃げるしかない。

 しかし、逃げようにも今のエイジの状態は、網の中の魚のような状況だ。追い込まれて、水から揚げられるのを待つしかない大きな魚。晩飯にされる前に、何としてもこの包囲網から出なければならない。

 そう、その――網を破る方法をエイジは見つけたのだ。


「やるべきことは決まった。じゃあ、さっさと終わらせるとしよう」


 EFFのコマンド・モーフ『ガルーダ』に搭乗していた時、対空ミサイルが飛んできた。自分を追ってきたコマンド・モーフも対空ミサイルがある市街地から飛来してきた。だから、あの対空ミサイルはシャングリ・ラ市民防衛軍が所有しているものだとエイジは目くじらを立てていた。

 ならば、このコマンド・モーフであれば問題ないはずだ。シャングリ・ラ市民防衛軍の認識コードを放っている。近づいてミサイルを撃たれる心配はない。

 すぐさまブースターをふかし、例のビルへと急ぐ。

 待てと言わんばかりに、敵も音を超える速さで猛追する。仲間の命を奪い、あろうことか、シャングリ・ラ市民防衛軍のリーダーであるペロー・ディラマを倒した。傷つかないはずのナーガラージャをボコボコにした。

 ナーガラージャはシャングリ・ラ市民防衛軍のシンボルであった。そうと知らず、エイジはシンボルに唾をひっかけ、泥を塗ったくった訳だ。


「待てゴラァ! お前が、お前がやったようにお前もぶんなぐってやる! 殴り殺してやらぁ」

「ペローを、ナーガラージャを……よくもぉぉぉ、絶対に許さねぇ!」

「やってくれたなEFF、やっぱりお前らはみんなクソ野郎だ! ぶっ殺してやらぁ!」


 これに腹が立たない訳がない。

 シャングリ・ラ市民防衛軍のパイロットたちはカンカンだ。各々、めちゃくちゃな言葉を喚き散らし、親の仇と言わんばかりに罵っている。先ほどのエイジほどではないが。


「そう言えるのも今のうちだぞ」


 エイジは鼻で笑った後、ビルに突っ込む。

 対空システムを守っているビル内のシャングリ・ラ市民防衛軍の歩兵たちはこれに驚いた。一連の動きは通信で知っている。全員、コマンド・モーフが突っ込んだ上の階へと急ぐ。やって来たEFFの特殊部隊員――エイジという敵を殺すためだ。エイジを殺さなければ、対空システムを奪われる。苦労してEFFから奪ったものだ、これほどの痛手はない。

 ビルに体をめり込ませ、


「プレゼントをやろう。とっておきだ! ありがたく頂いてくれよ」


 プレゼントは8mm機関砲。エイジが突っ込んだフロアにいた市民防衛軍は、それで皆ミンチにされた。

 コクピットから降りると、最上階へとエイジは突っ走る。

 強化外骨格の男は恐ろしいほど強かった。現れるシャングリ・ラ市民防衛軍を片っ端から始末していく。

 走り、撃ち、殴って黙らせる。


「うおおおおおおおおおおお!」


 このイノシシのような男をだれも止められなかった。さながら暴走している大型トレーラーのようだった。

 気付けばあっという間に、エイジは屋上へと駆け上がる。


「あの暴走トラックを食いとめろぉぉぉぉぉ!」

「屋上へ絶対に行かせるなぁ!」

「あいつにミサイルを奪われるわけにはいかない! 絶対にとめろぉ!」


 エイジの捨て身の突貫を止めるべく、敵も必死だ。

 自分たちの陣地を守るための対空ミサイル。それを失うわけには行かない。残虐なEFF第66歩兵大隊の魔の手から、サイファーに感染している家族を守らなければ行けなかった。そのために絶対に必要だった。

 エイジに敵わない。

 それはわかりきっている。しかし、わかっていてもやらねばならない。背中に守らないといけない存在があるから、シャングリ・ラ市民防衛軍の兵士たちは無謀にもエイジに立ち向かう。

 そして、ことごとく殺されていく。


「邪魔だァァァどきやがれェェェェェ」


 エイジという狂戦士は荒ぶる。

 大口を開け、敵の血を浴びるエイジは鬼そのもの。エイジにたかる敵も鬼のような形相をしていた。

 互いに譲れないものがあった。執着するものがあった。それをどうしても欲しがった。死にものぐるいで奪い合う。

 死闘の末――とうとう、エイジはついに屋上へたどり着く。

 爆走の末――屋上にたどり着くと、対空システムの周りにいた敵を殴り殺す。4人いたが、1人は高い所からブッ飛ばされ、100mのヒモなしバンジー。2人は左拳に打ち抜かれ、顔が爆ぜ、脳みそが潰れた。もう1人は金的で大事な所を潰され悶絶した。悶絶している男の頭を、奪った自動小銃の銃床で砕いた。

 誰もいなくなり、対空システムのコンソール引っ張り出すエイジ。乱暴に叩きまくり、システムの書き換えを速やかに済ませる。


「よっしゃ、これで終いといこう!」


 エンターキーを叩くと、やって来たコマンド・モーフ『ナーガ』の一群へミサイルの嵐が吹き荒れる。

 これに巻き込まれ、なにもかもが無茶苦茶になった。

 それを見て、赤ん坊のようにエイジは喜んでいた。ケタケタ笑い、殺戮に興じようとしている男。その人間性は、悪化の一途をたどる戦況によって奪われた。ゆえに、そこには一人の兵士ではなく、嗤う鬼がいた――。

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