13.屍を啄む怪鳥の背に乗って

13-1 死闘

 森林地帯の上空にて、エイジとペローは死闘を繰り広げる。永遠に続く夕闇の中、2機のコマンド・モーフは刃を交わし、互いの銃口を突きつけ合っていた。

 戦闘開始から、5分。戦いは拮抗していた。

 ペローの攻撃を巧みにかわし、確実に仕留められる一撃を見舞うエイジ。しかし、自動障壁機能(オートバリアモジュール)のおかげで、ペローに攻撃が通じない。敵の機動は速いが、単調で予測できるものなのだが。


「攻撃が当たらないことほど煩わしいことはないな。動きは素人に毛が生えたくらいか。こう、中途半端なのは好かん」


 エイジはむずがゆくて仕方がなかった。こうも攻撃が当たらないとは思わなかったからだ。

 想像している以上に、ナーガラージャの動きは速い。このスピードに目は慣れたが、攻撃が当たっても自動障壁機能(オートバリアモジュール)で防がれる。それに向こうも人間だ。学習し、次第にエイジの攻撃を避けるようになりつつある。


「イライラする。さっさと沈めや、クソガキめ」


 徐々に苛つくエイジ。

 メインウェポンである25mm口径荷電粒子銃のエネルギーは、もう尽きかけている。機体に備わっている8mm機関砲では、どうにも対処できない。現在、エイジが搭乗しているコマンド・モーフ『ナーガ』のレーザーソードは、コマンド・モーフ『ガルーダ』のレーザーソードのように出力をいじってレーザーを遠くへ飛ばすようにはできない。

 コマンド・モーフ『ガルーダ』ならば、もっとマシに立ち回れるのにと、エイジは悔やむ。

 そして、ついに荷電粒子銃のエネルギーが尽きた。

 換えのバッテリーパックは存在していない。荷電粒子銃の砲身を持ち、こん棒のように振り回せば――ワンチャンスあるかもしれない。そう考え、エネルギーの切れた荷電粒子銃を振り回すが、当たらない。


「クッソォ!」


 腹が立って、エイジは荷電粒子銃を放り投げたら、軽やかに避けられてしまった。

 もはや、打つ手なしか?


「もう諦めてください。ここから逃げるというのであれば、僕はあなたを見逃します」


 だがしかし、エイジはどこまでも諦めの悪い男だ。


「諦めてたまるか、ボケがぁ! まだ誰も試していない手がある!」


 それは何だとペローが問う前に、エイジはスロットルを全開にした。

 最大出力、荒ぶるブースター。凄まじい加速とともに、ペローが搭乗しているコマンド・モーフ『ナーガラージャ』へ、右の拳を繰り出した。


「うぉっ!?」


 この一撃は避けられた。


「ペロー!?」

「だ、大丈夫だ!」


 心配するリリーナに、ペローは上ずった声でこう言った。

 エイジの急な行動に慌てふためいているようだ。


「これだけで終わると思うなよぉぉぉ!」


 凄まじい重力で内蔵が締め付けられ、狭まり黒く染まる視界。そんな状況下でも、培ったこれまでの戦闘経験が、エイジを強くした。追い詰められた毒蛇のような、しつこいマニューバでペローを翻弄する。

 すべてはペローへ牙を突き立てるため、猛追する。

 一発殴るため――ただそれだけなのに、ここまでやれるのか? 信じられないといった様子のペロー。エイジの猛攻を避けるペローにふつふつと恐怖が湧いてくる。


「くたばれ、ブタ野郎!」


 エイジに対する恐怖が、ペローの体を強張らせた。

 それにより、反応が一瞬遅れてしまう。


「オラァ!」


 刹那、エイジはなりふり構わず、ナーガラージャの頭に一発ぶちかました。

 幸運か。ナーガラージャの頭を鉄拳が撃ち抜いた。


「そのバリア、言うほど絶対じゃあないようだなぁ! オメーの奥歯ガタガタいうまで、ぶっ壊したるけぇのぉ!」


 なまった日本語が、エイジの口から漏れ出した。

 ケタケタ笑うと、エイジはさらにナーガラージャに攻撃を加える。高速の拳で頭を粉々に砕いたおかげか、右手のマニュピレーターが、生理的におかしくなっている。にも関わらず、エイジは攻撃を加え続ける。

 武器を使ったものではない。パンチとキック、非常に泥臭い攻撃だ。

 ナーガラージャの装甲は脆い。機体の機動を高めるために、あえて装甲を薄くしている。この薄い装甲のために、自動障壁機能(オートバリアモジュール)とよばれる自動防衛システムを搭載している。

 しかし、絶対ではなかった。

 バリアシステムの弱点は、物理攻撃。特に格闘攻撃が有効である。

 先程のEFFとの戦闘――EFF第66歩兵大隊との小競り合いで無敵だったのは、ビーム兵器がメインの戦闘であったため。また、ミサイルといった爆発する兵器を使用していたことによる。

 8mm機関砲は実弾兵器だ。これでコマンド・モーフを撃っているEFFのパイロットもいたが、基本的に機関砲は対人兵器である。対コマンド・モーフ戦闘においては、牽制や威嚇が目的で行うこともあるが、基本的には機体に当てない。機関砲の精度自体あまり良くないこともあるが、この兵器が主に対コマンド・モーフ戦で用いられない理由としては、装甲が8mm弾くらい容易く跳ね返す程度の強度を兼ね備えているからだ。もちろん、装甲は弱いと言われているナーガラージャの装甲強度でも8mm弾は効かない。ただし、コマンド・モーフの構造上、弱い所は8mm弾でも有効打になることはある。

 それはさておき、自動障壁機能(オートバリアモジュール)についてだ。絶対防御ではあるが、人が作ったものだ。どこかしら泣き所というものは存在する。

 自動的に張られるバリアの構造から、爆発といった強い衝撃を緩衝するようになっている。しかし、飛来する鉄の塊から身を守るようにはなっていない。反応するのは荷電粒子やレーザーといった光学兵器や爆発する兵器など。エイジが振り回し、投げた荷電粒子銃が当たっていれば、ナーガラージャにダメージを与えることができていた。


「ミサイルからも、荷電粒子やレーザーからも守ってくれたのに。どうして、ただのパンチやキックからは守ってくれないんだ!?」


 エイジにタコ殴りにされ、ペローは吠える。

 相変わらずの――耳をつんざく絶叫。このだみ声に、エイジはうんざりしていた。


「自分の身は自分で守るもんだ。この[ピー]野郎! バリアばっかり頼るんじゃねぇよ、このセコい雑魚め」


 殴りまくって、蹴りまくって――ひるむペローのナーガラージャ。

 コマンド・モーフ『ナーガ』はさほど頑丈ではない。コマンド・モーフ『ガルーダ』と比べ、馬力も弱い。しかし、ナーガラージャの薄い装甲くらいは拳で凹ましたり、歪ませたりすることは可能のようだ。騎士然としていた機体は、コマンド・モーフ『ナーガ』の拳やら足でベコべコになり、みっともない体をさらす。

 興奮し、闘争本能がむき出しになっているエイジ。殴って大丈夫だと知り、一気に畳みかける。

 ペローも無抵抗なわけではないが、エイジの方がコマンド・モーフの操縦がうまかった。あとは、エイジの決死の突撃。

 勝因は、奇しくもたったそれだけだ。


「ペロー! ペロー!?」


 先ほどから、ペローの恋人の声がうるさい。恋人の安否を呼びかける声が、癪だったらしい。


「クゾガァ! 調子に乗りやがってコンチキショウ!」


 エイジの攻撃は次第に激しくなっていく。聞くに堪えない卑猥な言葉を並び立て、休む間もない攻撃を加え続けていく。これはきっと、これまでの――ここのやって来てからの積もりに積もった鬱憤やら憎悪やらが、エイジを怒り狂わせたのだろう。形容しがたい、巨人同士のケンカが繰り広げられている。

 いいや、ケンカというよりも、これはリンチか――。

 ペローが搭乗しているコマンド・モーフ『ナーガラージャ』も、エイジが奪ったコマンド・モーフ『ナーガ』も互いに、次第に、コマンド・モーフという人型機動兵器から、スクラップへと変わっていく。


「オラァ! クソペロー、クソ[ピー]野郎! ここでお前を殺して、テメェをひき肉にしてやるぜ! テメェのママが死んだ場所にテメェの死体を、肉の塊を蒔いて、[ピー]させてやるからぁな! 楽しみにしてろぉ!」


 エイジがペローのリンチに熱を上げる間、この野蛮な男は背中に気付かなかった。

 背中を狙う、黒幕の存在に。

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