12‐3 略奪

 エイジを追いかけるのは、ミサイル2発とシャングリ・ラ市民防衛軍のコマンド・モーフ『ナーガ』が8機。ピラニアのように喰らいついてきた。

 エイジが搭乗しているコマンド・モーフ『ガルーダ』は右腕だけで、あらゆるところが壊れかかっている。

 そんな状態だ。いつ、敵に撃墜されてもおかしくはない。

 あと、通信は敵の罵倒でいっぱいだ。それと、恨みつらみ。先程エイジが味方を倒したことを深く根に持っている。

 暇ならば、言いたいことは山々だ。

 しかし、そんな余裕はどこにもなかった。重くのしかかる重力と、狭まる視界。敵から追われているという恐怖にエイジはさらされていた。

 あえぐ間もない、怒る隙間もどこにもない。うめき声を上げ、歯を食いしばっている。

 勝利――いや、生き抜くことというのは、いつも苦悶や煩悶の果てにある。

 エイジが駆る片腕のコマンド・モーフは、ソニックブームが発生していた。空気を裂く轟音とすさまじい衝撃。壊れかけた機械の体はガタガタ言って、きしんでいた。少しずつ、コマンド・モーフ『シヴァ』の装甲がはがれつつあった。音速域を超えた戦闘によって確実に摩耗していっている。

 そして、最悪なことに右足がもげてしまった。


「ぬぉ!」


 右足がもげてしまったことにより、バランスを崩す。エイジのコマンド・モーフ。機体が大きく跳ね上がり、空気という激流の中でのたうち回る。


「ぬぅぅぅぉおおおおおおおおおおお!」


 幸運なのか?

 もげてしまった右足にミサイルが着弾し、爆発。同じく音速を超えたスピードで全力疾走していたコマンド・モーフ『ナーガ』のパイロットたちが慌てふためくも、時すでに遅し。爆発の中に突っ込み、エイジを追いかけてきた2機がこの爆発に巻き込まれて、墜落した。

 また、急激に止まろうとした機体に、後ろに続いていた機体が激突。この玉突き事故により、敵のコマンド・モーフが2機、爆散した。

 残るのはミサイル1発に、コマンド・モーフ『ナーガ』が4機。


「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 コントロールを失って、さらに残っていた左腕と左足もどこかに行ってしまった。

 幸か不幸か? 今度はエイジ機を追っていたミサイルが、もげた左腕に当たって爆発。

 これで、エイジを追ってくるミサイルはなくなった。しかし、シャングリ・ラ市民防衛軍の4機のコマンド・モーフが猛追していることは変わらない。

 4機、味方を失ったわけだ。親の仇だと言わんばかりにエイジの機体に荷電粒子を射かけている。

 立て直しをはかるも、コマンド・モーフ『シヴァ』はだるまの状態になってしまった。

 背中のブースターだけではどうにもならない。


「ちっくしょぉぉぉぉ!」


 気を見計らい、泣く泣くコマンド・モーフから脱出したことにしたエイジ。せっかく手に入れた、コマンド・モーフという足を手放すしかこの場を切り抜ける方法がなかった。

 外に出た瞬間、どうなるかは目に見えている。

 シャングリ・ラ市民防衛軍にはEFFが決めた交戦規定などというものは知らない。パラシュートが開いた瞬間、連中が自分を狙うのはわかりきっている。かといって、ゆっくり地面に落ちるのを祈りながら待つのは、エイジとしては癪だ。

 どちらにせよ、何かしようが――何もしなくても――死んでしまうのは、明確だ。

 ならば足掻くのみだ。泥水を飲もうが、血反吐を吐こうがやるべきことを最大限までやって死ぬ。

 その結果、今がある。

 ここに来るまでにいろいろあった。何回も死にそうになったが、決死の覚悟で地獄のような状況を切り抜けてきた。おかげで傷だらけになってしまった。左腕もどこかに行ってしまった。しかし、それでもエイジは死なずにいる。


「死なばもろともじゃぁぁぁぁぁ! このクソタレがぁ!」


 故郷の言葉で気合いを入れると、緊急脱出装置を起動した。

 空中に放り出されるエイジ。やはり、敵はエイジを狙い撃つ。しかし、民兵たちの射撃の腕は悪い。それでも、当たったら死ぬ極太の荷電粒子がエイジのすぐそばをかすめていく。心臓に悪いったら、ありはしない。


「この野郎! 今に見ていやがれ!」


 エイジはムササビのように滑空すると、敵に一直線。荷電粒子が飛ぶ中でも、死ぬこともいとわない。

 鬼というか、ケダモノのような形相の男が飛んでくる。敵はすくみ、その場に釘付けにされた。仲間の逃げろという声が耳に入らない。未熟なまま、戦う覚悟もできていない、ファッションで兵士なったパイロットは、ただ闇雲に撃ち続けた。


「っしゃあ!」


 間一髪で、コマンド・モーフ『ナーガ』の足にしがみつくエイジ。すぐさま、コクピットハッチへと向かう。

 敵も必死だ。無理やりエイジを引きはがそうとするのだが、ままならない。ゴキブリを彷彿させるような所作で、エイジは敵パイロットを翻弄する。


「なんて野郎だ……」


 呆然とするシャングリ・ラ市民防衛軍のパイロットたち。

 無論、撃つ訳にはいかない。仲間がピンチだというのに何もできない。シャングリ・ラ市民防衛軍のパイロットたちは、そんな歯がゆさを味わっていた。


「よし、ここだな!」


 エイジはハッチを探り当て、無理やりこじ開けた。

 急にコクピットハッチが開いたことに驚くパイロット。

 あの男はどこにいるのか?

 コクピットから身を乗り出して探すのだが、見当たらない。

 一体、どこに行ったのか? ひょっとしたら、ハッチが開いた拍子に、機体から落ちてしまったのか? それともまだ、この機体のどこかにしがみついているのだろうか? やっぱり、振り落としたのだろうか?

 ……わからない。わからないから、余計に不安になる。というか、どうしてあんなむちゃくちゃな真似をしたのかも。普通は逆に逃げる。なのに、なぜこの機体に飛んできたのか、全然わからない。

 わからないことだらけで、パイロットの頭はおかしくなりそうだった。

 パイロットの不安が最高潮に達した時だった。


「おい、後ろだ! 後ろ、後ろ!」


 仲間の怒声を耳にするパイロット。振り返ろうとした時、頭を撃ち抜かれ、そのまま外に放り出されてしまった。


「お笑いだったら、死なずに済んだものを……」


 コクピットシートにつくと、エイジはコマンド・モーフ『ナーガ』の腹へと収まる。

 仲間が死に、つんざくような怒声がコクピットに響く。うるさくてかなわない。手にしていた25㎜口径荷電粒子銃で、叫びながら斬りかかってきたコマンド・モーフのコクピットを撃ち抜く。


「新型とあって、性能はなかなかだな。扱いやすい」


 この一言のち、エイジに襲い掛かってきた2機のコマンド・モーフ。2機のコンビネーションは巧みだ。

 慣れない機体ではあった。

 が、それでも何とか乗りこなし、エイジは攻撃をかわす。



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