7-2 狂い始める兵士たち

 これで大方、敵は掃討した。

 敵のコマンド・モーフをすったもんだの末に奪ったエイジは、テレビ局へと戻る。なるべく急ぎ、アランとジョンの元へ。市街地で大騒ぎしてしまった訳だ。騒ぎを聞きつけて、EFF、もしくは民兵組織がやって来る恐れがあった。

 テレビ局に戻ると、そこはもうハチの巣のようだった。ところかしこ穴だらけになっており、いつ崩れてもおかしくない状態であった。

 普段なら笑っているだろうが、エイジにそんな余裕はなかった。

 いや、エイジたちと言った方が正しい。


「よう、調子いいじゃないの。さすがだ。サムライのチ〇ポは、ガチガチのようだな。ヒィヒィ言わせたか? え? どうなんだ?」


 卑猥を嫌うアランが、下ネタを口にしていた。

 ジョンはというと、先ほどスクラップにしたアンドロイドの残骸を調べているようだ。作業を邪魔してはいけないと判断を下すと、エイジはアランと少しだけ話をすることにした。やつれた顔を見ればわかるが、今の心境を知っておきたいと思い。


「らしくないな、アラン。相当追い詰められているみたいだな」

「見てのとーりだよ。マジでヤバい。何がヤバいって、マジでヤバい。どこかさんの誰かのせいで、ケツの穴がビチビチだ。チ〇コの先がビショビショで、半ダチになっててよぅ、妙に痛いっていうか……まぁ、そんな感じだな」


 ヘラヘラ笑うアラン。

 その場にへたりこむと、タバコを吸いたいという所作を見せた。


「生憎、俺はスモーカーじゃない。他を当たれよ」


 舌打ちするアラン。その様子を見たエイジは違和感を覚えた。任務中にしては、やけに感情表現が豊かだなぁと。どうして豊かなのか、エイジは察する。念のため、アランの口からその理由を聞くことにした。


「おまえにしちゃあ、かなり憔悴しているように見えるが? さしずめ、マックに言われてナノマシンを抜いたのか?」

「おうとも」アランはため息をついた。「抜いたよ。お前が話をしていた変態紳士さまだっけか? あいつを避けるためにね」

「そうか」


 エイジが重苦しく返事をすると、アランは白い歯を見せた。顏のしわを目いっぱい、伸ばし、目を細める。

 屈託のない笑顔で、少し狂気を孕んでいた。

 それもそうだろう。アランはここに来るまでに見ていた死屍累々に、苛まれている。ナノマシンというフィルターを無くしてしまった。だから、直視してはならぬものが頭を駆け巡っている。

 目が座っていた。だからか、アランは、こんな質問をエイジにしてきた。普段の彼には考えられないようなことを、だ。


「なぁ、お前――あいつ、どう思う?」

「どうって?」首をかしげるエイジ。「そもそもあいつって誰だ?」

「俺はぐっすり眠っていてわからんかったが――さっきな、全部ぅ~マックから聞いたぜ。へっへっへ、勝手に俺らの暗号通信に割り込んできたやつだよ。あんなことができんのEFIAくらいなもんだろ?」


 EFIA――Earth Federation Intelligence Agency、地球連邦情報局である。

 70年前のことだ。第三次大戦を経て、国際連合が地球連邦というくくりに変わった時、南極のどこかに作られた情報機関である。どこにあるかはわからないが、世界の平和を守るために作られた怖ろしい集団。

 どの国にも組せず、ただ世界の平和の為に奉仕し続ける。

 恒久的な平和を存続させるという信念のため、どこまでもストイックな集団だ。


「EFIAねぇ……確かに。あいつらなら、やりかねん」

「それとよぉ。あのクソ野郎だがな、俺は真性のカワカムリだと踏んでる。それが恥ずかしくってさ、きっと俺らの前に出られないと思ってる。マッパでチ〇チ〇をブラブラさせられねェ、短小野郎だぜ」


 普段だったら笑っているであろう。けれども、エイジの表情は硬かった。

 アランの言うEFIAであるのであれば、今の自分たちには勝てない。やり合うにしても、充分な装備とスパコンが必要だ。鹵獲したコマンド・モーフ2機のでは何ともならない。コントロールを乗っ取られて、コクピットの温度調整機能を狂わせられる。

 そして、蒸し焼きにされるか。カチコチに凍らされるか。EFIAの工作員のハッキング能力は異様に高い。

 それと、エイジは知っている。EFIAがどれだけえげつないことをしてくるのか。

 彼らと戦場で鉢合わせになり、胸を撃たれて一度死んだ。生き返ったから良かったものの……味方にも敵にもしたくないサイコ集団だと、エイジは認識している。

 しかし、EFIAならばこんな行為には走らないはずだ。

 平和主義に盲信的な人たちを世界、もしくは宇宙に浮いているスペースコロニーから、エシュロン(軍事目的の通信傍受システム)を使ってかき集めている。

 エイジが出会った二人のエージェントは頭がおかしい理想主義者だった。恒久的な……完全な平和を実現するという狂妄を抱いていた。

 その時のことを思い出し、エイジは嫌な気分になった。

 気を紛らわすためではないが、ちらっとレーダーを確認した。かれこれ、10分以上たっていたが何事もない。ハエの一匹はおろか、偵察ドローンの1機も飛んでいなかった。


「そういえば、お前――言っていたよなぁ、EFIAとかちあった時の話な」

「あ~言っていたなぁ」


 この妙な気分を晴らすため、話そうかなと思ったがやめておいた。誰かに見られている。そんな気がして、おっくうになった。

 それから、ジョンの調査が長い。今は敵が来るかもしれないと言うのに悠長だ。普通だったら、マックがけしかけているはずなのに、そういうそぶりもない。アランは言うまでもなく、おかしくなっている。

 ひょっとしたら、あの男が3人をと考えると――エイジは何も言えなくなった。

 これから、誰を信じたら……仲間たちはこんな調子だ。

 己以外の何者も信じられない気がしてきた。


「悪いけどな。そろそろ――調査が終わるみたいだ」


 仕事を終えたジョンがこちらへ。

 アランとジョンを手のひらに乗せると、エイジが操縦しているコマンド・モーフはブースターをふかし、別の場所へ。


「10分も使うとはなぁ……」


 途中、ごちるエイジ。

 そうしたら、ジョンとアランは素っ頓狂な声を上げた。


「何言ってんだよ、エイジ……あれから3分も経っていないぞ」


 どういうことだと思い、時計を確認すると3分しか経っていなかった。これを見て、エイジは自分の方が狂っているのかと、疑念を抱いた。

 狂気に染まりつつある。それでも、前へと進むしかない。五里霧中、いや、これは一寸先も見えない暗夜行路。このスペースコロニーを支配する宵闇が、人をさらなる狂気に突き落とそうとしているのだろうか?

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