5-2 兵士の辛い所

 延々と続く逢魔が刻。

 ジョン・アラン・エイジの3人は日が落ちようとして、止まったままの街に舞い降りた。

 闇の中、忍び、情報を集めることに徹する。このスペースコロニーで何があったのかを知るために。また、ここから脱出するためにEFF第66歩兵大隊とシャングリ・ラ市民防衛軍の所在を知る必要があった。

 ここから出るのにコマンド・モーフが必要だ。それを持っているのはEFFという軍隊。もしくはシャングリ・ラ市民防衛軍という民兵組織。


「さっき、俺が殺しちまった……あんたの戦友が持っていた情報だ」エイジは痰を切ると、「それ以外には何もなかったのか? ジョン」


 ジョンの戦友バーナード、彼はジョンを殺そうとしていた。だからエイジは仕方なく。

 ちなみに情報というのは、船舶や脱出ポッドが全て破壊されていたことだ。


「……あの時は、お前の選択が正しかったと思う。俺らの目的は情報を持って帰ることだ。偵察だ」


 淡々とエイジに答えるジョン。

 仕方なく戦友を殺してしまったとはいえ、何も思っていない訳でもない。ナノマシンで感情調整はしているものの、若干の憎悪は感じている。隊長の矜持でそれを見せないようにしている。

 なるべくエイジはジョンの前を歩かないようにしている。

 後ろ頭が、気が気でない。殺したいほどムカつく将兵を戦乱の最中、撃つことは昔からよくあることだ。エイジはそれを警戒していた。エイジの不安を斟酌し、アランはジョンの前を歩く。気を使ってのことだ。


「とにかくネットに接続できる場所が好ましい。こんな時、マックが子守をしているのは頂けないが……」

「エイジは子を泣かせるし、無茶をやる。俺はガキが嫌いだ。ジョン、あんたにあのコマンド・モーフを操縦させると、大好きな大佐の元へ飛んで行っちまう。あの二人を、外に放り出してな」


 辛辣なことを言った後、路地を覗くアラン。

 何もいないことを確認すると、ゴーサインを出した。ジョンが路地に出る。ここも全く人気が無い。このスペースコロニーには100万人住んでいるらしいが、そうは思えない。神経を張りつめさせながら歩いているが、どこもがらんとしている。警戒する必要はないのかもしれないが、死神は気を抜いた時に現れるものだ。油断はできない。

 3人が身に纏う強化外骨格はスーツ足裏に特殊な加工がされている。そのおかげで、走っても足音は全くしない。


「ここに100万ほど住んでいるみたいだが、どう思う?」

「生きているはずだ。おそらく、大佐が匿っているはずだ。あの人だから絶対に匿っている。500人、1人で助けた人だからな」


 アランは振り返り、エイジと目配せする。肩をすくめると、再び、前を向いて目的地を目指すのであった。

 3人が目指している場所はタワー。このスペースコロニー内の情報を司る通信施設。テレビ局だ。そこに行けば、確実に情報を拾える。EFF第66歩兵大隊が何をして、シャングリ・ラの市民を怒らせるに至ったか、知ることができる。


「バーナードが持っていた情報は少なかったな。船が全部壊されてるってだけ」

「だな」


 エイジは少し思った。情報が小出しにされているような気がすると。あの部隊が持っていた情報……集団にしては持っている情報が少なすぎる。戦闘中に何者かが介入しているのかもしれない。


「なぁ、マック――今、いいか?」

「大丈夫だ、エイジ。何かあったか?」


 3人はテレビ局の入口に差し掛かっていた。

 何があるかわからない。マックと通信途絶してしまう可能性があった。エイジは左肩を素早く回すと、質問をした。


「バーナードってやつから拾った情報だが、なんか情報を消されたりとかは?」

「痕跡はどこにもない。あったら、あそこで言っているぜ」

「なるほど……ありがとう」


 機械に強いマックが言うのなら。違和感は残るも、エイジは信じた。今までマックに助けられてきているから。

 3人はテレビ局の中へと進む。

 正面エントランスではなく、裏口から。非常階段は破壊されているため、使用不可。


「正面からは入れないよな?」アランは言った。「従業員でもないのに、どうしてここから入ろうってんだ」

「泥棒だからだよ」と、エイジは答えた。「俺らはテレビ局に情報を盗みに来た犯罪者だ」


 裏口――こと、従業員入口からそっと中に入る。

 当然のことながら、施設内は真っ暗だ。街以上に不気味で、耳鳴りが酷い。さらに神経が研ぎ澄まされているように3人は感じている。聞こえないはずの足音が聞こえてきそうで、怖ろしかった。

 ヘルメットに備わっている暗視装置のおかげで、前は良く見えている。角から人が飛び出さないか心配だ。今なら急に民間人が出てきたら、撃ってしまいそうで。


「暗いな」アランは片方の口角を上げると、「そういや、こないだドイツの売春宿に行ったんだがな……これくらい暗かったなぁ」

「何がだ?」ジョンは少し口角を緩ませた。「お楽しみか?」

「そう、お楽しみだよ。バックをついてやった。最高だったぜ」


 あまりにも緊張しすぎていた。軽口を飛ばし合いジョンとアランは緊張で強張った体をほぐす。

 純粋な童貞のエイジは黙々と、2人の背後と自分の後ろを気にしていた。

 突然現れたサイコホモ野郎にカマを掘られないか気が気でない。

 上階を目指すための階段に差し掛かるが、バリケードで塞がれている。持ち合わせのグレネードで破壊しようかと思ったが、やめた。会議イスと机で拵えられた些末な柵があるということは、上の階に生存者がいるかもしれない。

 そう判断を下すと、別の方法で上の階に行く必要があった。という訳でエレベーターを探してみるも施設内の電源は落ちている。配電盤は施設の地下にあるので、そこへ向かう。だが、入口は瓦礫で塞がれていたため、修理不能。

 エントランスから行くという手があったが、リスクが高い。敵が潜伏していたら集中砲火を受けてしまう可能性があった。

 そこで、マックの出番だ。


「マック、悪い」

「なんだ、ジョン?」

「テレビ局の見取り図はないか? 通気口とかだ。出来れば細かいやつ」


 ジョンが見取り図を欲していることを知ると、3人が何をしようとしているのかを察す。


「あ~ひょっとして裏口から入ったものの……上の階に行けないってやつか? それなら――正面玄関、エントランスから行くしかねぇぞ。敵は――ちょっと待てよ――ダメだ……ネットワークが死んでる。調べられん」


 どうも、道はそこしか残されていないらしい。


「行くしかない。行こう」


 隊長であるジョンは茨の道を行くことを選択した。エイジとアランは嫌ではあったが、何も言わず、ジョンの命令に従うのであった。

 クソだろうがなんだろうが、上官の命令に従わなければならない。

 そこが兵士の辛い所ではある。

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