4-4 おしゃべりマック

 マックはおしゃべりだった。

 左腕を失い、右足がまともに動かなくなる大怪我を負ったのにもかかわらず、拳銃と手りゅう弾を携え、5時間這って敵のコマンド・モーフを奪い、敵の補給基地を制圧した時のエイジの逸話をした。

 このコロニーに入る前に、アランが話した内容だ。

 それから、


「エイジおじちゃんはな、任務中の時に背中を撃たれちった。その時は心臓が止まっていて死んだと思われ、遺体安置所にしまっちゃわれたんだけどな。なんとびっくり、蘇生しちゃったんだよ。そいでさ、敵のコマンド・モーフを奪って、補給基地をドカン! ……って、したことがある」


 こんな逸話も。

 少女のノリは良かった。楽しそうにエイジの話を聞いていた。


「ウソかと思ったらさ。ところがどっこい全部実話というね……お前、どういう体をしてんだよ?」


 アランに尋ねられ、エイジは首をかしげた。


「さぁ? わからんよ。当の本人もどうして死んで生きかえったのかね」

「二度目の人生はどうだい?」

「最悪だ。女に全くモテん。何度も死にかけた。チンチンもげそうになった。どうすりゃいい? アランさんよ」

「美容整形でもするんだな。何なら俺がやってやろうか? 拳で」

「……タダでも遠慮するよ」


 アランはクスクス笑う。

 エイジとしては微妙な所。生きていて良かったと思うこともあるが、たまにあそこで死んでいたらよかったのにと思うこともあった。

 それはきっと生きるのが辛いからだろう。


「そういえば――」ジョンは質問した。「心臓が止まっていたのだろう? 臨死体験はしたのか?」

「していないな。憶えていることは何もない。気がついたら死体安置所でブルブル震えていた。クソ寒かった。そっから先は背中の燃えるような痛みに耐えながら、フリチンでスペースコロニー連合軍との死闘だ」

「すっぽんぽんコマンダーという訳か」


 ため息をつくエイジ。

 戦争にロクな思い出はない。むしろ、次々にトラウマが増えていく。

 そのおかげか、プライベートではナイフを持っていないと落ち着かないし、いちいち人の反応が気になる。大きな物音がしたら、神経質に体が反応してしまう。夜歩く時、必ず忍び足になってしまう。

 夜、眠りにつくと悪夢を見る。戦っている時の夢だ。これを見た後の目覚めはすこぶる悪い。

 原因はわかっている感情調整がうまく行っていないせいだ。

 戦闘前に、ちゃんと感情調整を行わなければならない。そのために、体にナノマシンを入れなければならないのだが、エイジは体質のせいでナノマシンが入れられない。入れたとしてもすぐに排出されてしまう。


「そういや、お前さ……今までナノマシン抜きで戦っているよなぁ? 大丈夫か? PTSDとか」

「大丈夫だよ、アラン。日本人は戦闘民族だからな。侍っていう――」


 もっともエイジの家はただの農民なのだが。


「アランおじちゃんは?」


 エリーにせがまれ、マックはアランの話をし始める。


「あぁ、アランか。アランおじちゃんはアフリカ系アメリカ人だけど、アメリカで生まれた訳じゃない。コロニー出身なんだ」

「そうなんだ。私と一緒だね?」


 ニヤッと笑うアラン。少女の口から自分の名前が出て、少し気を緩ませる。

 ションとエイジは、マックが操縦しているコマンド・モーフのレーダーと目視で敵、もしくは人がいないかを確認している。


「アランおじちゃんの生まれたコロニーはな、シェルビーチってんだ。なんか……確か、100年前くらいのSF? ホラー? ……とにかくそんな映画があってな。それに出てくる、ディストピアだっけ……。とにかく、あ~海岸の名前だ」

「よくわからないけど、そうなんだ」


 アランが産まれたコロニー323『シェルビーチ』。100年前のSFホラー映画で、記憶障害を持つ主人公が目指していた場所である。映画にちなんで、その名がつけられた。

 マックが言った通り、そこは海岸。

 映画の物語としては、シェルビーチを目指すという物語。

 シェルビーチは亜熱帯の気候が再現されているスペースコロニーで、ここ、シャングリ・ラと同じくリゾート地として有名だ。


「アランおじちゃんはな、お金持ちだったんだけどよ。お父ちゃんがお仕事に失敗しちゃってスラム街にぶち込まれちまった。ほいで、すったもんだの末に軍隊に入って、今に至る訳だよ」

「ふ~ん、そうなんだ」


 笑っていたが、自分の身の上を勝手に話されてムッとするアラン。

 彼は投資家の家に生まれた。15歳のころまでは幸せだったが、父親が事業で失敗し、そこからどん底に。

 父は1人でせおった借金返済を。アランは母について行き、シェルビーチの高級住宅街からスラム街へ。奨学金で高校を出た後、返済の為にEFFコロニー323防衛隊に入隊。4年後、ここEFF第601分隊『シヴァ』に抜擢された。それから4年戦ってきている。


「ジョンおじちゃんはどんな人なの?」


 エリーの質問が飛んできた後、


「言わなくていい。エイジやアランのように波乱万丈じゃない」


 ジョンは遠まわしに、おしゃべりなマックを制した。

 今は作戦行動中だ。幼女とはいえ、特殊部隊員がベラベラ情報を話していい訳じゃない。


「ジョンおじちゃんは……カナダの人だな。僕らと違って白人だ。ビバリーヒルズのような青春を送った後、EFFの士官学校へ行ったんだよ」

「おい! ……おい! 話すなって言ったのに」


 怒鳴られても、マックは続けた。エリーの笑顔のため。


「俺こと――マックおじちゃんと奥さんは仲がいいんだけどね。ジョンおじちゃんは奥さんと仲が悪いみたいだ。苦労人だな」

「なんで?」

「まぁ、あれだ。奥さんが悪い人らしい。あと、ジョンおじちゃん自体――まぁ、不器用な人だから愛情表現がうまくない。俺らの仕事的に、家を空けることが多いし、危ない仕事をやっている。だからか、特殊部隊員はね、離婚率が高いのよ」


 ジョンと同じ考えではある。が、特に注意することはなかった。一緒に連れて帰ればいい。記憶はナノマシンで消せる。凄惨な出来事をなかったことにして、エリーは新しい人生を踏み出すことができる。


「アラン、マックのことだけど――」

「わかっているぜ、エイジ。先に還してやろう」

「あぁ、そうしよう」


 戦闘が激しくなるようであれば、このままマックたちを先に艦隊へ還すつもりでいる。

 ここはもう楽園でない。地獄だ。

 マックには待つ人たちがいる。自分たちにもいなくはないが、マックの方が優先だ。この偵察任務を終えれば彼は退役する。エイジとアランはこんな危ない所から、さっさと地球に帰してやりたかった。

 もっとも、帰りたくない男もいるのだが……。

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