3-4 赤子

 強引にコマンド・モーフを奪った後、エイジに3機のコマンド・モーフが立ちはだかる。

 どうやら、仲間が心配で追って来たらしい。奪った際に、荷電粒子砲はどこかに捨ててしまったらしい。武装は8㎜機関砲(実弾)と8㎜口径高出力レーザーソードのみ。心もとない。

 が、それでもエイジは戦うしかなかった。

 敵はまず、マイクロミサイルを放つ。エイジは全力で回避する。敵は猟犬のようにしつこかった。敵はエイジというウサギを追い込むため、手にしている25㎜口径荷電粒子銃でエイジの逃げ道をふさいでいくが、なかなかうまく行かない。同じ機体に乗っているとは思えない機動で敵を翻弄する。

 激しいマニューバにブラックアウトしかける。対コマンド・モーフ戦闘において、強化外骨格をパイロットモードにしなければいけないのだが、そんな暇はない。

 エイジは気合で何とか執拗に追って来るミサイルを全弾回避した。

 ミサイルの嵐を抜け、息をつく間もない。仲間の仇を取るため、敵は執拗に襲いかかる。エイジはその攻撃を回避すべく地面スレスレを飛ぶ。近くにあった標識を引き抜くと飛び上がり、ビーム攻撃の合間を縫って、標識をやりのように投げた。

 高速機動により、かなりの勢いがついていた。標識という槍はまっすぐ飛んで行き、コクピットの装甲を貫く。中にいるパイロットは当然、死に絶えた。

 仲間が死に、敵の動きに怒りが乗った。一機、銃を捨てるとレーザーソードを抜いて、斬りかかって来た。けたたましい絶叫とともに。

 冷静を欠いていたから、操縦技術でエイジに敵わないことなど忘れ、猪のように向かってきた。猪と化した敵のコマンド・モーフの一撃をギリギリで身をひるがえし、かわすとレーザーソードで動体を真っ二つに。

 胴を割られ、そのまま地面に落ちていった。


「っはっはっはっはっはっはっはっは……ひっひっひっひっひっひ……」


 嗤うエイジは圧倒的に強かった。

 恐れをなして、最後の一機は逃げたが――すかさず、エイジは距離を詰め、レーザーソードで木端微塵にした。

 仕事を終えると、3人がいるであろうあの飲料水を生成している工場へと降りた。

 捕虜の死体が並べられている場所に。捕虜を殺していたEFFの兵士たちの死体が転んでいる場所に。


「おい。一応、一機確保したぞ」


 エイジの声を聞いて、


「ごくろーさん」


 マックが労った。

 アランはというと、安堵の息を吐いた。その後、マックと同じように「お疲れさん」と、エイジの健闘をねぎらった。

 コクピットを開き、外に出ると怒り心頭のジョンがエイジに掴み掛った。


「どういうことだ! どうして殺したぁ!?」

「どうもこうもない。やられる前にやっただけだ」


 戦友を殺され、激昂するジョン。

 それに対してエイジはどこまでも冷徹だった。


「仕方がない。あんたの戦友だとしても殺すって言っていたんだ」

「説得すると言っていただろう!?」

「いたとしてもだ。俺は、アランもマックもこんなクソみたいなところで死にたかないぜ。だから、やる前にやっただけだ。悪いとは思っているが、やむ負えなかった。敵はあんたを撃てってはっきりと言った」

「冗談かもしれないだろ!」


 どこまで能天気なんだ。エイジは怒り狂うジョンに侮蔑の視線を送る。だが、ジョンはエイジの両肩を持ち、執拗に揺さぶってくる。


「お前……」

「よく冗談を言うやつだったんだ! 俺には分かる! わかるんだよぉ!」


 エイジをつき飛ばした後、思い切りなぐりかかるジョン。

 右頬に飛んできた拳を、半歩身を引き、エイジは避ける。体をさばき、相手の懐に踏み込むとジョンの右腕を引き出した。体を沈め、右肩を挟んで固定する。そして、ジョンの体を背負い、引き手を引いて投げ飛ばした。

 一本背負いが決まった。背中からコンクリートへ落ち、もだえ苦しむジョン。アランとマックはこれを見て、目配せをした。これで大人しくなればいいなと。


「俺もなぁ……マックもアランも、長いこと戦ってきてる。だから、わかる。相手が冗談を言っているか、そうでないか。で、アレはどう聞いても冗談言っている声色じゃなかった」


 よろめきながらも立ち上がるジョン。エイジは想像した。ジョンがどんな顔をしているのかを、それから言った。


「マックはこの偵察任務が終われば、退官だ。お前の家庭とは違って円満だ。だからよ、こいつの帰りを待っている家族の為に無事に帰らせてやろうじゃないの」


 エイジは赦せなかった。彼の凶行に加担したマックもアランも。

 しかし、マックの家族という言葉を聞いて、ジョンは少し冷静になった。

 大学時代、知り合って結婚したというマックの奥さん。奥さんが怖すぎて帰りたくないとマックは言うが、奥さんはマックのことを深く愛している。たまにするマックのあたたかい家庭の話で、それがよくわかった。ジョンはたまらなく羨ましかった。

 マックの退官の話がジョンの頭を少しだけ冷静にさせた。

 6秒ほど何も考えない時間を作った後、ジョンは深呼吸をした。戦友を殺した、許し難い行為である。許せはしない。しかし、今はどういう状態か。何をすべきかを思い出す。

 コンウェイ大佐の汚名を晴らさなければならない。

 このスペースコロニーで何が起きたかを調べなければいけない。

 その二つを思考から辛くも締め出す。自分が何の任務を行っていて、何をすべきか。自分が何をしたいか、ではなく。


「すまなか――」


 冷静になったジョンは、悪かったと謝ろうとした時だった。

 何もない水底のように静まり返っていたのだが、赤子が急に泣き出した。下顎から上を無くした女性が抱いていた、赤子だ。死屍累々、物言わぬタンパク質がたくさん横たわるその中で、必死に生を主張していた。

 静寂を斬り裂いた赤子の声。

 聞くに堪えられなくなったマックはその子を抱き、あやす。


「よ~し、よしよし。おじちゃんがついているからなぁ~」


 あやしている時、エイジはタンクの側でこちらをじっと見ている存在に気付いた。

 一発撃ちこみ、牽制した後、慎重にそいつの元へと向かう。

 そこには怯えた少女が。少年兵の可能性があった。エイジは彼女の体をヘルメットのモジュールで調べた後、ただの民間人であることを知る。


「ただのガキだな……よかった。中には体を爆弾巻いた奴がいるからな」

「あぁ、お前――それで、腕を無くしたんだっけ?」

「そうだよ、アラン」


 アランと短い会話をした後、エイジは少女に顔を近づけた。

 ヘルメットのシールドにはスモークがかかっている。スモークを取り、ニコッと笑ってみせた後、エイジは少女に尋ねた。


「俺はエイジだ。君の名前は?」

「エリー」

「エリーね、いい名前だ。で、ここではどんなことが起こっている?」

「軍隊がね、みんな殺してる。子供も、大人も……それでね、ペローって人が市民軍を作ってみんなを守ってる」


 血だらけのエリーは言った。

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