3-2 対話

 森から工業地帯に足を踏み入れる。

 工場が多くここに立っているが、どこにも煙突はない。元来スペースコロニーでは排煙は下へ流れるように設計されているからである。理由としてはコロニーの大気汚染を防ぐためだ。だから、下に流し、コロニーの最深部にある処理施設で、排煙を固形物に変える処理をしている。その固形物で、使用可能な物質は日用品や服へと姿を変える。再利用不可能なものは木星に還している。

 ……のだが、工業地帯には煙が立っている。何本も。肉が焦げる臭いが遠くからするのだが、小隊4人はヘルメットをかぶっているからわからない。が、だいたい何をしているのかは察していた。


「工場は騒がしいのが、普通だと思ってんだがな……ここはやけに静かだな。そのせいかね、嫌になるぜ」


 銃声が、犬の遠吠えのように響いている。

 小隊は人に会わないように慎重に歩いている。延々と続く夕闇のおかげか、人目をはばかることができた。環境追従迷彩を闇に紛れる色に設定していれば、問題はない。


「戦闘かね?」と、マックが尋ねる。

「いや、それにしては一発一発の間隔が空き過ぎている。一人ずつ処刑をしていっているのだろうか?」アランは痰を切ると、「いただけねぇなぁ」

「ヘルメット越しではあるが、わかる。銃声は同じところから響いている感じがある。おそらくはEFFが何かをしているかもしれんな」


 虐殺、とエイジは言わなかった。わかりきっていたことだから。

 ジョンはというと森を抜けてから、一言も発していない。黙々と歩き続けている。ボーっとしているかと思いきや、そうではない。呼びかけたら、すぐにはっきりとした言葉が返ってくる。

 こんな風に――。


「おい、ジョン」

「なんだ? エイジ。退屈なのか? 話してやることは何もないぞ」


 ……何かしら企んでいることは確かだ。

 エイジはため息をつくと、左肩を回した。堅い方でいつでも人をなぐれるように。もちろん、ジョンだけではない。これから立ちはだかるであろう敵に対して。


「何か企んでるのは知ってる。言えよ、聞いてやる」

「いいのか?」

「それでコマンド・モーフを手に入れられるのであれば」


 これは手厳しい。ジョンは肩をすくめると、こんな作戦を提案する。


「第66歩兵大隊の連中とコンタクトを取りたいと思っている」


 話をしていたアランとマックは沈黙した。

 エイジは薄ら口を開けた後、何と言おうか考える。コンウェイ大佐に報おうとする、執念深いジョンに対して、どういえば諦めてもらえるか。


「あのなぁ……お前の気持ちはわかる。痛いくらい伝わってくる。どれだけ痛いかっつったら、左腕をコマンド・モーフのデッカい鉛玉でブッ飛ばされたくらいな。あれは、そうだな……キンタマ蹴られた時のアレな感じだ。お前、そんな痛みを抱えてんだろ?」

「あぁ」はっきりとジョンは答えた。


 エイジは振り払うかのように頭を振ると、


「……EFFがいる場所にな、ひょっとしたらコマンド・モーフがあるかもしれない。その点はな……行く価値はあると思う」


 こう前置きすると、言った。


「対話をして、穏便に済めばいいさ」エイジは唸ると、「だが――連中は虐殺をやってる。人間を屠殺場の豚みたく扱ってやがる。俺達を見て何をするかわからんし、こっちを撃ってくるかもしれん。それでも行くのか?」

「行くべきだ。連中も同じEFFだ。話せばわかってくれるさ」


 ためらうことなく、ジョンは即答した。顏はわからない。だが、ヘルメットの下でジョンが真剣なまなざしを向けていることは、痛いほど伝わって来た。どれだけ、どれだけ、ジョンがコンウェイに対して恩義を感じているのかも。

 アランとマックの方を向くと、二人とも仕草で表した。犬のように律儀な男に対し、言いたいことは山ほどあると。

 もはや、何を言っても聞かない。

 一人の将校の名声を守るために熱を上げる男が、隊長をしている。

 エイジは無性にジョンを殴りたくなった。ジョンが倉庫にある焼死体の山を調べたいと言わなければ、きっと今頃、回収ポイントに向かっているはずだった。倉庫に入って調べたがために、コマンド・モーフが破壊されたと思っている。

 ここでエイジは首をかしげた。どうしてコマンド・モーフが自爆モードになってしまったのかを。軍用兵器だから、かなり堅固なセキュリティを有しているはずなのに。


「みんな、聞いてくれ」


 考え事をしていたら、ジョンから案の定。


「第66歩兵大隊の連中とコンタクトを取りたい。何があったかを彼らの口から聞きたい。銃声がする場所に彼らがいるはずだ」


 虐殺を行っている第66歩兵大隊と交信したいと。

 そのための作戦を話そうとした時、マックとアランがジョンの愚行を止めるべく、口を開いた。


「聞きたい?」マックは鼻で笑うと、「聞くも何もないだろ? やっていることはクソだ。軍人以前に、人間として間違ってることをやっている連中だ。そんなやつらと話をするだって? お前はバカか?」

「マックの言う通りだ。彼らの情報端末からはっきりと出てきたろ? このコロニーのニュースペーパーにはっきりと書いてあっただろう? お前も見たはずだ。さっき、マックが共有してくれたの、見てないのか? お前の目は節穴なのか?」


 バカと言われ、目は節穴なのかとののしられるが、ジョンは動じない。彼には見えていた。話の落としどころを。


「なぁに、わかっている。注意を引くために私が話をするというだけだ」


 ジョンは、はにかむ。ヘルメットをかぶっているから3人にはわからない。

 声の抑揚で真意を判断する。


「ジョンがEFFと会話を行う。相手方が悪さしないか、マックとアランに遠間から見守らせる。ほいで、大隊の連中がジョンに気取られている間に俺がコマンド・モーフを見繕う。そういう作戦を考えているってことでいいよな?」


 ジョンが考えていることを言い当てると、エイジは痰を切った。

 真意は見抜いていた。3人とも。コマンド・モーフがあるかどうかは別として、ジョンと大隊の隊員との交渉がうまく行くとも思えない。それを口にしようかと3人は考えたが、誰も何も言わなかった。

 すでにジョンは行動を始めていた。近くにいる第66歩兵大隊の隊員たちと対話すべく。

 こうなってしまった以上、やるしかない。

 つき合わされる方は、たまったものではなかった。

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