2-2 証拠

 コロニー616『シャングリ・ラ』の玄関口。

 資材倉庫にて、小隊が収集した情報はこうである。

 EFFが虐殺を行っていたこと。

 ほんの数日前、EFFに家族を虐殺された男がいて、資材搬入倉庫のコントロールルームで自殺をしたこと。

 ……どちらとも充分悲惨な情報だ。

 集めた情報から、コロニー616『シャングリ・ラ』は楽園と言われていたが、今は違うことがわかる。ここは地獄のような場所に変わってしまったのだと。

 どうしてこうなったのかは、わからない。

 が、ヒントとなり得るものは自殺した男の携帯端末。

 そこにはこんな画像が残されていた。

 EFFの兵士が頭に黒い袋をかぶせた民間人を一列に並べ、撃ち殺しているもの。

 それから、メモ帳に遺されていた謎の文面。内容は、妻と娘が熱を出して病院に行ったっきり帰ってこなかったこと。3日しても帰って来ず、調べてみたら二人はEFFに殺されていたことが記されていた。

 小隊の任務は偵察。これらの情報を艦隊に持ち帰って、上層部の判断にゆだねるのが仕事だ。

 しかし、ジョンは納得できなかった。信じられなかった。

 敬愛しているコンウェイ・ハミルトン大佐が、虐殺――悪しきことをやっているなどと思いたくなかった。

 あの人がこんなことをする訳がないと強く思っている。死体を焼いたのは虐殺ではない、別の理由があってこうしたのだと。自殺した男が遺したメッセージ、妻と娘が病院から帰ってこないというくだりが引っかかっている。

 それに、ジョンは信じている。ハミルトン大佐の潔白を。

 だからこそ、もう少しだけ調査する必要があるとチームメイトを諭すのであった。


「もう少し証拠を集めなければいけない。バイオテロだとしたら、我々はEFFの将兵に銃を向けなくてはならなくなる。それは嫌だろう? だからこそだ。一歩だけ、進んでみよう。お前たちは結論を急いている。ここから帰りたいのはわからなくはない。正直に言って私も帰りたい。帰って死ぬまで眠っていたい――まだ、そう言う訳にはいかん。私たちは上に熟慮すべき材料を騎士たちの円卓に上げなければならない」


 騎士のような物言いをしたジョンへ、アランは言った。


「円卓なんて上等なもんじゃないだろ? 連中、騎士じゃない。元老院の猿どもだ。手持ちの情報であれこれ判断するだけだ。何を判断するかって? ――そいつは決まってる。ドンパチする口実さ。この男の携帯端末に入っている情報とマックがかき集めた情報で間に合ってるだろ? そこでもう結論は出てんだよ。EFFが暴走してる、それで十分だ」


 アランがこう言ったのち、マックとエイジも物申す。

 俺たちの偵察はこれで終わりだと告げるため。


「アランの言う通りだよ」マックも言った。「証拠はそろっている。この任務は偵察、ただの偵察だ。それに、今回だけで偵察が終わるとは思えない。後ろに続く連中がいるはずだ。今回で終いという訳じゃねえよ、隊長殿」

「二人の言う通りだ」エイジは言った。「これは潜入じゃない。偵察だ。そこまでやる必要はない。とっとと帰ろうぜ。俺達4人だけだ。支援してくれるオペレータもなしにこれ以上のことは出来ない」


 たしなめられるが、ジョンは一歩も引く気はない。

 このコロニーに駐在しているEFFの総司令官であるコンウェイ・ハミルトン大佐には恩があった。民衆を救い、栄誉あるメダル・オブ・オナーを受賞した男に4年前にあった戦争で助けられていた。

 建物に缶詰にされ、大型レーザー照射装置で蒸発するところだったのだが、ジョンは彼のおかげで事なきを得た。

 命を救われた。

 いつかその恩を報いたいと思っているジョンだから、ついこんなことを口走ってしまう。英雄の名にひっかかった泥を払うために。


「お前たちの意志はわかった。別に帰っても構わんよ。ここから先は俺だけで行く」


 これは不味いと思ったエイジは、ジョンの顎をアッパーカットで打ちぬくべく、一歩だけ右足を出そうとした。

 しかし、エイジの凶行をアランが静止。ジョンに「これ以上、駄々をこねるんだったらブチかまして無理やりにでも連れて帰る」と最終警告を行おうとした時だった。

 それは小さな音だった。

 4人が聞きなれている嫌な音。小隊に緊張が走り、瞬間的に姿勢が低くなった。

 ここは潤沢に空気があるから、よく響くのだろう。

 発砲音だ。

 断続的にしていた。どこかで銃撃戦が行われているらしい。

 モニタールームの入口は1つ。扉に窓はついておらず、開かなければわからない。万が一を考え、小隊は強化外骨格の光学迷彩を起動し、姿を眩ます。周囲の風景に溶け込むと、ジョンがマックに索敵を指示する。


「どこからだ?」

「ちょっと待てよ――」


 マックは左腕に装着しているウェアラブルデバイスを起動。

 それを叩き、敵の位置を割り出す。

 先ほど、資材搬入庫のネットワークを掌握している。マックは倉庫内の監視カメラを切り替え、操作し、銃声の元を探す――と、すぐに見つけた。


「虐殺があったところじゃあないな。ここから少し離れた所のようだ。かなり近い、やって来そうな感じだよ」


 そう言うと、マックは監視カメラの映像を3人にも共有。

 カメラの映像はこう。

 仄暗い倉庫で男が4人。服装・装備からしてEFFのものではない。皆一様に緑色のバンダナをしており、Tシャツとジーンズという出で立ち。私服姿でアサルトライフルを携えており、見た感触としては民兵。ハッキングしている映像は荒いうえ、どんな顔をしているのかはわからない。

 彼らの一人が銃口を上に向けて遊びで弾を撃っているようだ。発砲音はその男によるものということが判明。

 これはいかがなものかと、兵士なのに何をやっているんだとアランが嘆息した。

 正直に言って男の行為は自分の居場所を知らせているようなものだ。殺してくださいと言っているようなもの。彼らが訓練を積んだ人間という訳ではないことが、このバカな行為でわかった。


「ここから2ブロック先だ」ジョンは言った。「彼らに聞こう、本当にEFFが虐殺を行っているのか」


 聞く気満々のジョン。


「聞くまでもないだろ」エイジはため息をつくと言った。「民兵がいるってことはだ。EFFに抵抗しているということだ。虐殺に抗っているという推測が可能だ。連中が去った後、俺達はさっさと帰った方がいい」

「エイジの言う通りにしよう」アランも賛同すると、「これで十分ははずだ。ジョン帰ろう」


 英雄になりたい男はどうしようもない。英雄である男を敬愛していたからこそ、先走ってしまう。

 ジョンは何も言わずにモニタールームから出て行ってしまう。こちらにやって来ている4人の兵士たちを対処するために、話を聞くために。

 隊長を放っておけない3人は、呆れながらもジョンの後を追うのであった。

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