2.ジェノサイド

2-1 残滓

 資材搬入庫のコントロールルーム。

 何かに絶望し、銃で頭をハジいた男の血と脳漿がこびりついている部屋だ。

 そんな部屋の中央奥、9面モニターが設置されている。モニターの左一番下に映っていたものは、積み上げられた死体。重ねられ、こんもり山となっているそれは何かを忌み、炎で焦がされていた。

 まるで、それは、映画的な……いや、一枚の絵画のよう――エイジはそう思えた。

 訳はわからない。

 ただ、なんとなく。理由は本人にもわからない。大勢の人を火炎放射器か何かで蒸し焼きにした見るに堪えないものだというのに。カメラの見せ方が妙に凝ったもの、映画的だったからかもしれない。芸術性を見出していた。


「どこで死体を焼いたんだろうな?」と、マック。

「わからん」と、ジョンが何とも言えない顔をして答えた後、「が、とにかくそこに行ってみるとしよう。マック、割り出せるか?」

「あぁ、気は進まんが――やってみよう」


 生返事を返すとマックは資材倉庫のネットワークに接続し、どこで死体の山が築かれたかを特定する。

 その間、エイジはアランとジョンの顔を一瞥した。

 ジョンは繕っていたが、動揺を隠せないようだ。信じられないらしい。敬愛している英雄コンウェイ・ハミルトン大佐がどうして虐殺なんてことをしてしまったのか? それを考えあぐねているようだ。そもそもまだ、ハミルトンがやった訳かどうか判断がついていないというのだが。

 これを見て何も言わない方がいいなとエイジは判断する。言ったら言ったで、もっと調べたいとジョンが言いそうだから。

 先ほどからずっと悪寒を感じているエイジは、ここから即座に立ち去りたかった。背中に纏わりつく嫌な感じ……それを払しょくしたかった。だからジョンが残りたいと言い出したら、殴って気絶させ、無理やりにでも引きずって帰る腹積もりでいた。

 さて、アランはというと――。

 アランは正義感が強い男だ。許せない、その感情を露わにしている。唇をかみしめ、眉間に深い谷を作っていた。

 怒りながらも言うことは聞く男だから、そのあたりは心配していない。ただ、帰った時に殴ってくるのは頂けないが。それでも、まぁ……この男はいい奴だ。兵士としてではなく、人間として。

 マックは淡白な男だ。いつでも冷静なやつで、気にも留めていない。この任務が終わったらこの仕事を辞め、地球でのんびりと過ごしたいと言っている。こんなところからさっさと帰りたいと思っているとエイジは目くじらを立てていた。

 そんなマックは淡々と情報を集めている。

 表情のないその横顔を見た後、エイジは手にしている自動小銃の手入れを行った。

 銃器が問題ないことを確認した後、エイジは冷えた頭で考える。ここで何があって、何のために死体の山を作ったのか。そもそも誰が何のためにこんな惨いことをする必要があったのかを。まがいなりにも。

 何があったか、エイジは正直なところ誰かに聞きたい。予測でもいいから。

 しかし、ジョンもアランも頭に血がのぼっているようで、ロクな議論はできない状態にあった。

 また、マックは神経質な作業を行っている最中だ。声をかけて注意をそらす訳にはいかない。ついうっかりで操作を誤り、セキュリティに引っかかると4人の命が無くなってしまう。それは避けなくてはならなかった。

 とにかくエイジは待ち続ける。マックが死体の山がある場所を特定するのを。

 待つことには慣れていた。


「よし、できたぞ。特定した」神妙な顔で終わったことを告げるマック。「やれやれ、ひっどいセキュリティだな。入るのに苦労したぜ」

「そうか、ご苦労。それでこの死体の山はどこだ?」と、食い気味なジョン。

「奥のほうだな。そこで連中、虐殺を行ったみたいだぜ」マックは痰を切った後、「そういや、隊長。そこの仏さんの携帯の中、覗いたんでしょ? 何かめぼしいものはありましたか?」


 と、マックがジョンに尋ねたら、ジョンは眉間を険しくした。

 唇をかみしめた後、語る。携帯端末の中に何が納められていたのかを。


「家族の写真と――EFFの……EFFが虐殺をする瞬間だ」

「EFFだって!?」声を荒げるアラン。「間違いないのか?」


 にわかに信じがたい。

 そんな表情のアランはジョンをつかむ。


「間違いはない。この男が死んだ理由はそれだ。何かしらの病気か、やはり事故があったらしい。それで、EFFがやって来て――」


 特殊部隊の隊長とは思えないたどたどしさ。はっきりものを言い、きっぱりと判断を下す普段とは違う。相当参っているようだ。

 頼りない隊長に舌打ちをすると、アランは乱暴にジョンの肩から手を離した。

 エイジは判断した。ここに居るのはよろしくない、と。

 さっさと小隊は火星-木星間を漂っているEFFの宇宙艦隊に帰って、集団で押し寄せたほうが得策だ。多少の犠牲は出るがそうした方がいい。男の携帯端末の中身とモニターの映像という虐殺が行われている証拠はつかんだ。

 これを持ち帰れば艦隊で攻める口実になる。それで仕事は果たされる。


「おい」エイジは努めて優しい声色で、「……とにかく帰ろう。俺達の任務は潜入じゃないんだ。偵察だ。そこで脳みそ吹っ飛ばしている男の携帯端末と、モニターの死体の山の映像を持ち帰ればいい。これを口実に艦隊は大手を振って前進するはずだ」


 アランは深く息を吐き、心を落ち着かせる。その場を歩き回り、何度も頷くと無理やり笑顔を繕った。


「そうだな。お前の言う通りだ。エイジ、たまにはいいこと言うじゃないか? そうだな、うん……おおいにそうだ。戻って艦隊に知らせよう。その必要がある」アランはマックと視線を合わせると、「そうだろう? マック」

「だな。俺もエイジの意見に賛成だぜ。セキュリティをいじった感触的にやばい。コロニーの中をと見たが――ブラックボックス状態だ。まさにパンドラの箱ってやつよ。4人だけじゃ荷が重すぎる。虐殺って事実以上にな」


 3人の意見は決まっていた。

 だが、この隊長は死にたがり。そうやすやすとうまく行くわけがない。


「まだ、帰るのには早い。死体を燃やしたということは、バイオテロの可能性が考えられる。何かしらのウィルスかバクテリアに感染し、感染源を断つために感染者の死体を燃やしたとも考えられる。ほら――」ジョンは画面を指差すと、「見てみろ。血の跡はどこにも映っちゃいない。ただの虐殺にしてもだ。血飛沫がどこにもないのが気になる」


 確かに、ジョンの言う通りだ。

 カメラの視点を幾度も変えてみても、死体が焼かれた部屋に血が付着しているようには見えない。ただ死体を積んで焼いているようにしか。

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