1-4 入口

「やっとこさ、終わったぜ」


 ずっと黙って作業をしていたマックが長い息を吐いた。


「識別コードを手に入れた。これでスペースコロニーに近づいてハチの巣にされることたぁいぜ。とっとと行こう。そろそろ第二波が来る。その前にとんずらと行こう」


 マックが3人へ識別コードを配る。

 小隊各機、マックからもらった識別コードを発信しながら、スペースコロニー616『シャングリ・ラ』へ飛んで行く。


「おっ、こいつは――ハリネズミみてぇだなぁ」


 このスペースコロニーをよくよく見たらハリネズミのようになっていた。

 それもそのはず、木星にはよく隕石が降ってくる。そのため、コロニーは隕石対策に高性能防衛網が必要とされる。

 この針のように見えているのは高出力の荷電粒子砲。

 識別コードが無かったら、小隊は針のむしろにされていたところだ。


「おい、エイジ」

「ん?」

「何も言うんじゃないぞ。何も言わずに入口を探せ」


 アランの言葉を聞いて、エイジは口の端を上げた。

 本能的に敵が来ないことを知っている野蛮な戦士は、またしても卑猥な言葉を口にする。


「おい、マック。マ〇コはどこだ?」

「おいおい、エイジ……」マックはうんざりした様子で、「目の前にいるシャングリ・ラちゃんは女の子じゃあねえんだ。たくさんチ〇コ生えてるだろ? ほら」


 アランは思い切りコクピットの壁を殴る。

 腹に響くようないい音だった。

 それを聞いたエイジとマックは黙り込む。それから二人は黙々と、スペースコロニーの入口を探す作業に戻るのであった。




 探し始めてから、1時間20分。

 小隊は識別コードのおかげで、ゆっくりと木星軌道上に浮かぶスペースコロニー616『シャングリ・ラ』への入口を探すことができている。


「アラン、あったか?」

「ねぇよ、エイジ」

「ジョン、そっちは?」

「ないっすよ、隊長殿」


 スペースコロニーの表面を規則正しく並んでいる高出力荷電粒子砲の合間にないか、目を皿にして確かめる。

 が、コロニーへの入口はどこにもない。

 小隊は先ほどから皿の上に乗った果実に群がるハエのようにたかっている状態が続いている。


「いや、あぁ……やっと見つけた。グルグル羽がまわってるからわからんかった。全員ついて来い」

「「了解」」


 ここでようやく、ジョンは資材搬入口を割出した。

 3機のコマンド・モーフは先に飛んで行ったジョン機の後に続く。

 資材搬入口へやって来たのだが、そこはどこにも隙間などなかったが、ジョンが表面をスキャニングして“ドアノブ”がある場所を特定する。特定後、ドアノブを破壊して無理やり入口をこじ開ける。

 焦らすようにゆっくりと、資材搬入口に通ずる隔壁が一枚一枚開いて行く。

 ここでアランはエイジが何か言うだろうと思っていたが、何も言わない。黙り込んでいる。

 隔扉が開くのを見守っているのを見て、嫌な感じがした。

 扉の向こうにあるものを見た訳ではないが、エイジの背中に冷たいものが走る。それが何かはわからないが、よからぬものだということは何となくわかっていた。ここが地獄の入口だということを暗に示している気がした。


「……おい、エイジ」

「あん?」

「何か言え」

「あぁ……」


 資材搬入口――へ通じる通路。そこを往く。

 小隊全員、何があってもいいように、荷電粒子砲を構えて急襲に備える。前と後ろを警戒し、前に進む。

 そして、資材搬入口から資材搬入庫へとやって来た。

 搬入途中のコンテナが乱雑しており、入り組んでいる迷路のようだった。伏兵を警戒し、出て来たものをすぐさま撃てるよう、引き金に指をかけて慎重を期す。武装した兵士、もしくはコンテナに偽装しているコマンド・モーフを警戒する。


「こちら、シヴァ1。いるか?」

「こちら、シヴァ2。こっちにゃおらん」と、マック。

「シヴァ3だ。見当たらない」と、アラン。

「シヴァ4、異常なし」と、エイジ。


 ものが乱雑しているだけで、何もなかった。誰もいなかった。

 危惧していたことは何もなく拍子抜けした。


「シヴァリーダーより各機へ。よし、それじゃあ――コマンド・モーフを隠して、降りて探索と行こう。そして、とっとと帰ろう。あとは艦隊の連中が何とかしてくれる」

「「了解」」

「集合場所はコントロールルームだ。全員コマンド・モーフを隠した場所の中間かつ最短地点はそこだ。そこに集まろう」

「「了解」」


 資材搬入庫にて、地面に足をつける4機のコマンド・モーフ。再度周囲の警戒をし、問題ないことを確かめると、搭乗しているコマンド・モーフを隠せるコンテナを探す。8メートルもの巨体を隠せるコンテナを。

 乱雑していたが、簡単に見つけることができた。船舶や航空宇宙機に使用されている空のコンテナ。各員各々、コンテナに隠すと自動小銃とバックパックを持ち、コマンド・モーフから降りた。

 それを済ませた後、銃を構えて4人はコントロールルームの入口を目指す。互いの場所を無線で確認しながら、そこへ。


「入り組んでやがんな? マック」

「そうだなぁ、アラン」


 ここでふと、アランはあることに気付く。


「そういや、核融合炉が事故ったって言った割にはコロニーの外観は特に問題はみられないよなぁ?」

「あ~確かに。中で何が起こっているのやら……」


 アランとマックが時たま話をし、ジョンが全員の所在位置を確認するために声をかける。

 エイジはというと、仲間の呼びかけに生返事を返すだけ。

 大胆な男ではある、エイジは。しかし、本能が危機を察するとどこまでも臆病になる。もしもを考え絶えず警戒し、身を隠しながら迅速に目的地へと着実に進む。足音を、物音を立てないように細心の注意を払う。

 戦う時は虎のように獰猛だが、歩く時はアルマジロのように神経質だ。そのおかげか、エイジは戦場という過酷な環境を生き延びてきた。

 そうして、資材倉庫のコントロールルームへたどり着く。

 その扉の前、ハンドサインで中に入る算段を整えると部屋へと踏み込んだ。

 一応、扉の向こうに誰かいないか、確かめてはいる。X線を照射し、ダットサイト越しから透かし見て。

 壁が厚いせいか、詳細は得られなかったが人らしき姿を見たため、この処置を取った。

 扉を蹴り破り、突入。

 すぐさま背を向け事務椅子に座る男の後ろ頭に銃口を突きつける。

 コントロールルームの床にこびりつく乾いた血と細かい肉の塊。壁にぶちまけられていた。視線でそれをたどると――9面のモニターを見ている人が一人。その片手はだらりと垂れており、背もたれに深くもたれかかっていた。先ほどはわからなかったが、その手には銃が握られていた。


「エイジ、死んでやがるぜ」

「だな……ヘルメットしてて助かったな、鼻が曲がってるとこだ。死後数日ってところかね? ハエがたかっていやがるよ」


 マックは首をかしげると、片方の口角を釣り上げた。

 男が死んでいることを確認すると、4人は部屋の探索に入る。めぼしいものは無いか、確かめるのであった。

 ジョンは携帯情報端末を死んでいる男の上着のポケットからひったくると、それを叩いて情報収集を。マックはそばにあったPCにアクセスし、そこからコロニーで何があったかを調べる。

 アランとエイジは周囲の警戒。

 エイジは横たわっている男に一瞥くれると、9面のモニターへ視線をやった。その一番右下に、エイジはあるものを見つけた。


「……そびえ立つクソのようだとは言ったものだな」エイジは顔をしかめた。「こいつはひでーな、連中、なんてことをしてやがる」

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