Chrn######Yog-S

 クァチル・ウタウスが姿を消した後、またオーケストリオンの人形が俺に本を差し出した。オーケストリオンに据え付けられている人形は四体。かれらは一体ずつ俺に本を渡すごとに血のような赤い涙を流す。


 今まで本を渡してくれた人形の数は三体。今受け取った本が三冊目。この後に、最後にもう一冊貰えるのだろうか。


 とにかく、表題を見る。『グラーキの黙示録』第十二巻、とある。開いて見れば、手書きの写本だ。しかし手書きだが、そう古い版ではないようだ。内容はびっしりと細かい文字で書かれている。


 他に頼るものは無い。俺は空腹感も渇きも無視して、貪るようにそれを読んだ。その内容が頭に入ってくる。次々に真理が理解できる。未知であった真理が。


 俺は確信とともにオーケストリオンを作動させた。そうだったのか。そうだったのだ。このオーケストリオンの旋律の中にこそ答えはあったのだ。この宇宙の理そのものの答えが。


 と、とっくに新しい4月1日が始まっている。俺はとうとう車椅子なしで歩き、行動できるようになったが、そんなことより本だ。また新しい本を渡されたが、今度は皮の装丁の白紙の本であった。


 そうだ。これは、『グラーキの黙示録』の第十三巻だ。そうなるべきものだ。俺は夢中になって、自分の中に流れ込んでくるオーケストリオンの想念そうねんを言葉に変えて書き付けていく。


 今の俺にはあらゆることが分かった。狂神アザトースの本質が俺には理解できる。それを呼び出す方法も、追い返す方法も分かる。シュブ=ニグラスもだ。もちろんヨグ=ソートスと、ヨグ=、ヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨヨグ=ソーt


 ヨグ=ソートスを


 ヨグ=ソートスを


 ヨグ=ソートスを呼び出す方法も分かるし、もちろん俺は既にそそそそそそそそそそれを実行し、ううううううううううううう宇宙の宇宙の宇宙の全容とそそそその真理真理とををををををを


 窓を叩く音がする。もちろんだ。わたしが呼び出したのだから。


 さて、この状況から私が脱出する方法だが、特に難しいことはない。時間閉鎖トリックには簡単な対処法がある。三次元的閉鎖に


 対抗する


 手段が、


 三次元的閉鎖に対抗する手段が、時間の遡行であるのと同様に、四次元的な閉鎖には、さらに別の次元からの対処を試みればよい。つつつつつまり、この宇宙と、時間軸を共有しない異次元への移行だ。


 わたしは第十三巻を読む。そこに書きつけられた呪文、「タフ=クレイトゥールの逆角」を詠唱する。グラーキがこの世界にやってくる時に用いた、異次元への扉を開くための魔術だ。もちろん閉じるための魔術も存在するが、それは第十四巻に書かれることになるだろう。われは時空を超越した神である。時の誓約は我を縛ることがない。


 扉は開かれた。


 扉の向こうは、



 俺の家のキッチンだった。


 キッチン? おかしいな。


 ここを通れば、この時間を抜けることができるはずなんだ。


 ぼくはあちらこちらの戸を開けてみる。別にこれと言って何もない。


 おかしいな。俺は完全に間違いなく正気であるはずなのに、どうしても世界があるべきようにあってくれない。これは何だ。おかしい。おかしい。おかしい。


 ふと、『グラーキの黙示録』十三巻、と自分で表紙に書いた本を開いてみた。


 そこは何も書かれていなかった。

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