乱数列の眠れない
乱数列という語から物語を始める気はさらさらない(と言いつつ始めてはいるが)。つまり、本気でこの物語を始める気はないのかもしれない。
しかしそれが始まっていることからするとなんらかの始まりが存在することは疑いようがない。もっとも始まりはどこにあるのだろうかという問いには答えようがない。
これはレインコートについて書いた詩である。辞書でできたレインコートを着ると、ということが書かれた途端、このレインコートは辞書でできているのだということがわかり、すべてに意味があるようで意味がない。ふと横を見やると、水の粒子が見えた。食事は生きていく上で欠かせないことだから、僕は水の粒子を食事する。
これが私の生活だ。
途中のコンビニでビニール傘を手に取る。そして開けると、パラパラと散る雨の飛沫が蛍の光のように傘に貼り付いた。それは時間が経つにつれて、劣化していく詩のかけらのように見えた。
私がこうして残している小説は、水槽の脳のようなものであって、小説ではないのかもしれない。もちろん、その脳がアインシュタインや夏目漱石の脳のように、多少なりとも遜色ないとされる人の脳であるならば、意味があるのかもしれない。しかし、ひょっとして最初からこの物語が水槽の脳の中の出来事であって、脳の外では別のことが起こっているとすれば、それは確かめられるのだろうか。私にはわからない。
ここで、誰しもが一度は経験する数学というものを使って簡単に説明するならば、今読者が経験していることを1とするならば、我々が語っていることは0.33333.....つまり1/3ぐらいで、それに対しては何も考えることができない。要するにこれは、眠れない存在のための小説なのだ。しかし、同時に目覚めていても、それは自分の思い通りにはならない。そんな境地なのである。
先に言った数値をもっとぐちゃぐちゃにしてみようか。いや、規則性というものはカオス的には不規則なものにも宿るのだから、黎明期のネット小説のようなもので、(例えば電車男のように)常にどこかに仕掛けられた爆弾のような感じに大ヒットする可能性がある。
「それでなんだというのだ? 言っていることが支離滅裂だ。訳がわからない」
そう簡単にわかってたまるものか、という意味合いも込めてるんですね。ええ。人様が読んでいるものも気になりますし、かといって自分の知らない話だったら付いていけない。
「それがどうした。お前にゃ何がわかるってんだ~!」
なんて言葉と手を猫のように丸めてポーズをとる身振りで、誤魔化してみせるわけです。
僕が小説のようなものを書き始めたのは10歳の頃だった。キャラクターものの二次創作の小説で、それより前にはものを書くということがあまり好きではなかった。
僕は夢に出てくる登場人物の一人だ。夢の中では加古隆『青の地平』が流れている。僕はその地平と名付けられた音楽の流動に乗ってどこまでも流れて旅をする。旅がひとしきり終わると夢から覚めるはずが、なかなか覚めない。そう、これは夢から覚めないための物語だったのだ。
僕はイーリアスを諳んじた。
「即ち彼に近寄りて羽ある言句述べて曰ふ」
そこまで語ると言葉が文字通り羽ある言句となって羽ばたき始めたのだった。あとは真っ白だ。一見無意味にも見える数字の羅列に意味が隠されているかもしれない。それがこの章で言いたかったことなのに、その文句は消えてしまった。
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