フェルト布の面積
かつてこの世界には、冷たい小説というものが存在した。それと同時に温かい小説というものが存在し、それらが混じり合ってしかし完全に一体化することはなく、冷たいものは冷たいままに、温かいものは温かいままに、存在するべしと定められたのである。
その定められし範疇において、切り抜かれた空間分だけの長方形のフェルト布の面積が、常に32平方センチメートルになるように縦横の長さが変動し、その変動した長さ分だけの「人生」という名の通り道が、この世界には詩的に存在している、というべきなのだろう。あるいはそれは遍在か、偏在というべきか。
こうして書きながら、もし伏線が回収できなかったらどうしよう、という不安に苛まれている私は、伏線も透明な存在であり、存在しないことにしてしまえばいいという発想から、伏線を透明な概念として仕立て上げることにした。そこで必要なのが、先に主張した透明なフェルト布であり、それが伏線という概念を覆ってしまうほど極端に、つまりすべてを隠してしまうほどであるから、ここから先は私たちの人生を賭けて戦うべきなのである。
2.フェルト布の面積は一定である。それと同じくらい、宇宙の面積は一定である。同じく文学の面積も一定である。記号の面積も。
こうしたテーゼによって措定され得るあらゆる存在が、存在しないことにしてしまえばいいという措定によって同語反復的に振る舞うことによって、いわば酵素のように「失活」し、私たちの人生をなきものにしてしまうという可能性を孕んでいる、ということを言っておかなければならないだろう。肉眼に見えるあらゆる概念という概念を失活させ得るだけの能力が、このフェルト布の面積という章には存在しているのである。この章は火星の書の一部分となっていて同時に透明な小説の一部でもあるから、物語は常に浮遊感に溢れていて、意味のなさ、無意味さで充溢しているのである。
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