幕間二十ノ二十一
太陽系第三惑星・地球。
凡そ四十五億年前、この宇宙に生まれたちっぽけな星。虚空を漂う砂粒とガスが重力によって集まり、形成された岩の塊。
四十二億年ほど前には煮えたぎるほど熱い海が形成され、雷撃や高熱による化学変化がアミノ酸を合成。アミノ酸同士が絡み合い、元素の塊である『遺伝子』が生まれた。『遺伝子』は自らを守るための『入れ物』を作り、やがてそれは ― 遙か数十億年後に生まれる知的生命体によって ― 生命と呼ばれるようになる。
生命は変異する『遺伝子』の命令に従い、様々な形を持った。
訪れる急激な環境の変化、はたまた新たな形を持った生命の繁栄により滅びた形も多々あったが、新たな環境により更なる飛躍と繁栄を遂げたものもいた。新たなる生命の形は更なる多様な形態を生み、それぞれがより自らを繁栄させるために争い、競争が今よりも優れた形と多様性を作り、これが次の変化を切り抜ける原動力となった。
そうして競争と変化と進化と繁栄を何十億年と繰り返した結果、荒涼とした大地と煮えた水に満ちた世界であった地球は、所狭しと生命が溢れる星となった。
宇宙との境界にある成層圏を漂う細菌。
酸素のない泥の中に潜むバクテリア。
沸騰する水の中に棲まう古細菌。
日の届かない地中を進む軟体動物。
漆黒の洞穴内を這いずり回る昆虫。
生命の体内に棲み着く扁形動物。
広大な海を満たす刺胞動物。
巨石を覆い尽くすほどに生すコケ。
鬱蒼とした大森林を作る樹木。
澄みきった大空を自由に飛ぶ鳥。
岩をも砕く激流の川を泳ぐ魚。
爽やかな草原を跳ねる両生類。
灼熱の砂漠を駆ける爬虫類。
鋼鉄の都市に棲まう哺乳類。
この星の至る所に生命は存在し、競争相手と戦い、生き残るために変化し、次の世代に命を繋いでいる。時には星の環境すらも変え、時には地殻内部を引っ掻き回しながら、必死に生きていく。例えその結果、自分以外の何もかもが滅びたとしても。
彼等はこれまでこうして何十億という月日を超えてきた。
これからも、彼等はこうして何十億という月日を超えようとしていた。
だけど。
その流れが、終わろうとしている。
ただ一つの生命の意思と目的により。
自らを王と称する、『少女』の手により。
これより始まるのは、今を生きる生命の終わり。
星が迎える終焉の形の一つ。
終わりは避けられない。例え幾億の月日を遡る術があろうとも。
変えられるものはただ一点のみ。
つまり、これは終わりに抗う物語ではない。
王の御心のままに、世界は変わる。
第二十一章 生命の王
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