孤独な猫達11

 清々しいほどの青空が広がる朝だった。

 雲一つない空にはギラギラと輝く太陽があり、その力強い眩さを以て梅雨の終わりが近い事を地上に教え広めていた。日差しを受けた肌は刺さるような痛みと熱さを感じるが、冷気を帯びた風がそれらを持ち去ってくれる。日差しの強さと風の冷たさが程よく打ち消し合い、前日が大雨だった事を忘れてしまいそうになるほどの、爽やかで心地よい気候を作り出していた。

 尤も、今朝からテレビや新聞では泥落山で起きたダム崩壊についてひっきりなしの報道をしていたので、心地よさを感じる余裕がある人は、この町にはあまり居ないかも知れない。

 そして大桐花中という少女は、そういう不安なニュースを聞くと気持ちが引き摺られがちな性質であり。

 しかし今日に限れば、上機嫌なままであった。

「それじゃ、ゴミ捨てに、行って、くるね」

「はーい。行ってらっしゃーい」

 花のように愛らしく微笑みながら、花中は玄関まで見送りに来てくれたミリオンにそう伝える。ミリオンに快く送り出され、花中は生ゴミの入った小さな袋を片手に、浮いた足取りで家を出た。

 なんやかんや、久しぶりの生ゴミ捨て。

 といっても花中の家がゴミ屋敷に刻々と成長している訳ではなく、最近はフィアが手伝いとして捨てに行ってくれていたのだ。曰く「弱々しい花中さんが重たいゴミを持てずに転んで怪我したり生ゴミのような不衛生極まりない物を触って病気になっては大変ですから!」との事。かれこれ一年近く経つ一人暮らしでそういった経験は一度もないのだが、大事にされて悪い気はしない。全体的に弱々しいのも事実だ。そんな訳で、一緒に暮らすようになってから生ゴミや重たいゴミを捨てに行くのはフィアの仕事となっていた。

 が、今日のフィアはその日課をストライキ中。

 昨晩、自分から花中に賭けをふっかけたにも関わらず負けてしまったのが悔しくて、不貞寝を決め込んでしまったのだ。今は花中が出た後の抜け殻ふとんに潜り込んでいる。子供染みた思考と行動を目の当たりにし流石の花中も苦笑いを浮かべたが……ゴミ捨てが同居を許す条件という訳ではないので、戒めるというのは違和感を覚えてしまった。

 それに今朝の清々しい陽気を楽しまないというのは勿体ない。なので花中は久しぶりに、自分がゴミ捨てに行く事にしたのである。

 大桐家が割り当てられているゴミ捨て場は、家から徒歩二分ほどの場所にある。住宅地の中にあるそれは造成された上り坂の土台部分に寄り添う形で指定されており、コンクリートや柵などの境がない、鳥避けネットを被せるだけの簡易的なもの。とはいえ、正しく使えば鳥避けネットの効果は絶大だ。それにゴミ捨ての時間は指定されており、猫やタヌキが活動する深夜は禁止されている。ちゃんとルールを守れば、ゴミ捨て場は綺麗なままだ。

 そう、ちゃんと……

 ……嫌な事を思い出してしまい、先程までるんるんだった花中の気持ちは少しだけ落ち着きを取り戻した。

「……うわぁ」

 そしてようやく辿り着いたゴミ捨て場で、花中は更に気落ちする。

 ゴミ捨て場は、袋から飛び出した生ゴミの鮮やかな色彩と、鼻を突く刺激臭で飾られていた。

 何羽かのカラスが花中の姿を見た瞬間飛び去ったが、彼等が全ての元凶とは言い辛い。見れば大きなゴミ袋がネットからはみ出している。たまにこういう捨て方をする人がいるのだが、それではネットの意味がないとどうして分からないのだろう。カラス達は食べられそうなものを食べただけだ。生き延びようとする行為を悪だと呼ぶのは、些か身勝手過ぎると花中は思う。

 或いは深夜に捨てて、タヌキや猫に引っ張り出されたかも知れない。

 ネットは所詮鳥避けだ。四脚でパワーのある獣達には通用しない。獣は鳥に比べて数が少なく、人通りを気にして明るい時間は滅多に姿を現さないのだが、深夜ならばお構いなし。蹂躙するようにゴミを荒らしていく。だからこそ、ゴミ出しの時間が指定されているというのに。

 いずれにせよ、ルールを守らなかった人がいたのが事の始まりだ。カラスは逃げ去ったが、黒猫が一匹今も堂々とゴミを荒らしている。食事の邪魔をするようで申し訳ないと思わなくもないが、これ以上ゴミ捨て場を汚されないためにも追い払うしかない――――

 と、ここで花中はハッとする。そして落ち込んでいた気持ちが、一気に持ち直した。

 何しろその猫が黒猫で、二本足で立っていて――――両手を使ってゴミ袋を開けているのだから。

「ミィさん?」

 試しに花中が名前を呼んでみると、黒猫はハッとした様子で花中の方へと振り向いた。これだけなら人の存在に気付き驚いた野良猫もするだろうが……その猫は驚いたまま固まり、ややあってバツが悪そうに目を逸らした。ただの野良猫ならこんな反応はしない。

 間違いなく『彼女』だ。『彼女』の性格からして、大方知り合いに恥ずかしいところを見られて居心地が悪い、と言ったところか。

 別に動物なのだから、生ゴミを食べるのが悪いとは思わないし、それに袋を破かずに食事を済ませるならゴミ捨てのマナーを守らない一部の人間よりもずっと『上品』と言えよう。周りに散らかっているゴミは恐らく他の野良猫やカラスがやったのだろうから、ならば恥じる事もあるまい。

「あ、えっと……朝ごはん、ですか?」

 だから花中は変に気遣いなどはせず、普通に話し掛ける。黒猫は身体も視線も右往左往させて、

「そ、そうなんだニャー。ご飯の最中なのニャー」

 やがて今まで使った事のないキテレツな語尾と共に、そうおどけてみせた。彼女なりの、精一杯の誤魔化しだったのかも知れない。

 しかし野太い男の声を裏返しながら言っては、流石に無理があると花中は思った。

「……あなたの妹さん、普段そんな語尾、付けていないと、思うのですが」

「……確かに聞いた事もないな」

「あと、なんで無理に、声真似、したの、ですか……」

「肉体操作で声帯部分を変形させれば声色ぐらい自由に変えられる。アイツの声を再現するのも難しくない。何度か実際に発声して調整すれば、だが」

 そう言うと彼女ではなく彼――――キャスパリーグは、あーあーあー、と何度か発声練習のように声を外に出す。

「大体こんな感じだ」

 そうしてから改めて喋った時、キャスパリーグの声は確かにミィとそっくりになっていた。強いて違いを上げるなら、ミィより若干声が高いぐらいか。比類なきパワーに目が惹かれがちだが、中々どうして器用な能力である。

 それから改めて、キャスパリーグは花中と目を合わせた。

 昨夜まで命を奪うか奪われるかの関係だった。いや、それはフィアやミリオンのような頼もしい友人達が傍に居たから成り立ったのであって、花中にんげん一人がどのような手段を用いたところで傷一つ負わせられる相手ではない。ミィの話だと今は怪我でまともに戦えない状態らしいが、推定体重差千倍以上の相手に対して怪我の有無など些末な違いだろう。身動ぎすら取れない危篤状態でもない限り、人間が体重数十グラムのネズミに負ける理由などないのだから。

 しかしいくら見つめ合っても、何時までも花中の身体が抉り飛ばされる瞬間はこない。

 だから昨日ミィが事は本当なのだと確信して、花中は強張っていた自分の頬がほんの少しだけ緩まるのを感じた。

「黒猫の、姿でしたから、勘違いして、しまいました。それに、どうして、市街地に?」

「ふん。アイツと約束しちまったからな。少しは人について学ぶと」

 花中の問い掛けに、何時もの逞しい男の声に戻したキャスパリーグは、不機嫌そうな鼻息を出してからそう答えた。

 それを聞いて花中は一瞬キョトンとした後、パッと笑顔を花咲かせる。人について学ぶ……つまり復讐鬼と化していた彼が、少しだけだが歩み寄ってくれたのだ。花中と、そしてミィにとってこんなにも嬉しい事はない。

 が、花中の笑顔はすぐに曇り、眉間に皺が。

「それで、何故ゴミ漁りを?」

「まずは人間の食生活を研究しようかと思ってな。身体は日々の鍛練と食事によって作られる。ならば肉体の一部である脳、そして脳から生じる思考も鍛練と食によって変わる。食を知れば人間の質の半分ぐらいは理解出来るに違いない。更に食事内容から、どのようなトレーニングを重視しているかも窺い知れる筈だ」

 堂々と返ってきたキャスパリーグの言葉に、花中は再びキョトンとする。それからややあって浮かべたのは、引き攣った笑み。確かに日々の食事は大切だ。間違っているとは思わない。が、なんというか、考え方が体育会系っぽい。鍛練を逐一挟んでくる辺りが特に。というか、何故全人類が毎日トレーニングに励んでいる前提で話を進めているのか。彼自身が毎日トレーニングしているのだろうか?

「……まぁ、良い考えかも、ですね。あれ? でも、それなら今まで、あなたは何を、食べて、いたのです、か?」

「ん? 川でコイや、山でシカやイノシシ、クマを捕まえて食っていたぞ」

「……ワイルドですね」

 体重数十トンともなれば食べる量も相当だろうに、この町周辺の生態系は大丈夫だったのか。壊滅しているか、それとも驚異的な捕食者の存在によって成り立っていたのか……彼の食生活の変化が好ましい状況を招く事を花中は祈るばかりだ。

 そうこう話していると、キャスパリーグは自ら開けたであろうゴミ袋を、どうしてか結び始めた。肉球のある丸っこい手でありながら、手際よく、しっかりと結び直していく。

「あれ? あの、食べないので……」

「お前に見られていて食欲が湧くと思うのか? 言っておくが、妹と約束をしたから一年は手を出さないだけだ。お前達人間を許した訳ではない。それを忘れるな」

 言うが早いか、間近で何かが炸裂したかのような音と振動が花中を襲う。花中は僅かによろめき、体勢を立て直した時にはもうキャスパリーグの姿は消えていた。残っていたのはコンクリートで舗装されている道路にしっかりと刻まれた、丸まった猫ほどの大きさのへこみだけ。

 呆気ない別れに、寂しさを覚えない訳でもない。

 だけど最初は一歩ずつ。ちょっとずつ近付くぐらいが『双方』にとって丁度良いのだろう。

「……ネギに気を付けて、って、言っておいた方が良かったかな」

 僅かな心配を伝えられなかったのが惜しいものの、花中の顔には笑みが浮かんだ。

「あーあー! またこんなになって!」

 が、それも刹那の出来事。不意に近くから聞こえた大声に驚いて、ピョンッと花中の身体が跳ねた。声がした方へと振り返ってみれば、そこには恰幅が ― 華奢な花中の三倍ぐらい ― 良く、目を吊り上げて怒りを露にする五十代ぐらいの女性の姿が。片手にはそれなりに大きなゴミ袋があり、彼女もまた花中同様ゴミ捨てに来たのは容易に察せられた。

「さ、佐藤さん……?」

「あーら、花中ちゃんじゃなーい。おはよう」

 偶々その女性とは知り合いだったので名前を呼んでみれば、佐藤さんは顰め面をほっこりとした笑顔に変えた。あまりにも早い感情の切り替えに、花中は僅かながら戸惑う。

 佐藤さんはこのゴミ捨て場周辺に家を持つ住民の一人。大桐家とご近所という訳ではないのだが、ゴミ捨て場が同じなので今のように時折顔を合わせる事がある。最近までは花中の顔がおぞましいほど怖くてそそくさと逃げられていたが……今ではこうして、普通に話が出来る程度には打ち解けていた。

 尤も、会話の主導権はお喋りで快活な佐藤さんに握られっぱなしなのだが。

「それにしても全く、また動物が荒らしていったみたいね」

「え、あ、はぁ……そう、ですね」

「本当にもう、掃除する方の身にもなってほしいわよっ」

 また苛立ちを露わにする佐藤さんの視線が向いているのは、先程までキャスパリーグが食事をしようとしていたゴミ捨て場。どうやら先程の大声も、ゴミが散乱している状態に対してのものだったらしい。

「もー臭いし汚いしで大変よ。しかもこれやってるの猫だって話じゃない。ほんと、猫は駄目ね! 庭で糞をするし植木は荒らすし、水入りペットボトル置いてみたけど全然効かなくてもう困っちゃうわ」

「……あ、あの……水入り、ペットボトル、は、その、猫には、なんの効果、も、ないの、です、が……」

「あら、そうなの? やだわぁ、どうしたら良いのかしら……」

 心底困ったように愚痴る佐藤さん。花中としてもゴミ捨て場が綺麗であるに越した事はないが、先程のように『上品な猫』も居る。あまり、素直に猫を非難出来ない。

 無論それを佐藤さんに教える訳にもいかないので、花中は誤魔化すように苦笑いを浮かべた。

「やっぱり駆除しかないのかしら」

 ただ、この一言を境に苦笑いさえも出来なくなったが。

「……え……駆除……?」

「そうそう。飼い猫だったら飼い主に文句の一つでも言えるけど、野良じゃどうにもならないじゃない。だとしたらやっぱり駆除しかないんじゃないかしら。保健所に頼めばやってくれるのかしらねぇ?」

 佐藤さんは同意を求めるように、平然とそう答える。罪悪感どころか、悪意すら見せずに。

 いや、佐藤さんが邪悪なのではない。

 ゴミ捨て場を荒されて、掃除をするは近所の人だ。古紙などならまだしも、他人が出した生ゴミの掃除というのは精神的にキツイものがある。夏の盛りを迎えれば臭いだって酷くなるだろうし、衛生面からも好ましくない。自分の生活の安寧を守るために佐藤さんが手を打とうとするのは当然の考えであり、尚且つ権利だ。

 だけど。

 ――――この人は、『駆除』がどんなものか考えているのだろうか?

「? 花中ちゃん、どうしたの?」

 不思議そうに、こちらを覗き込む佐藤さんの視線に気付く。何時もなら、怯えて一歩二歩と下がっていただろう。

 しかし今日の花中は怯まず、正面から佐藤さんと向き合う。

 そして深く息を吸い込み、

「……その前に、出来る事から、しませんか?」

 キッパリと、そう伝えた。

「出来る事?」

「この時間は、ゴミ捨てのために、人が、往来します。普通の猫なら、まず、やってきません。今も、居ません、し。猫達は、夜にゴミを荒らして、いると、思われます。時間を守らず、ゴミを出して、いる人が、居るのでは、ないでしょうか」

「ああ……そういえば、夜にゴミを出している人が居るみたいね。近所のおばあちゃんが言ってたわね」

「まずは、誰がそれをしているのか、突き止めて、決まった時間に、ゴミを出すよう、注意、しましょう。それから、カゴ型の、ゴミ捨て、ボックスを、設置する、とか」

「うーん、注意は良いけどボックスねぇ……」

 花中の話に、佐藤さんは考え込むように顎に手を当てる。お金の事を考えているのかも知れない。どれだけ便利な物があっても、価格が高ければ実現は難しい。相手の懐事情もある。そこを考えずに意見を通そうとするのは、高価なオモチャを親に強請る子供と変わらない。

 まずは佐藤さんの意見を聞いてから。花中はぐっと口を噤み、佐藤さんからの返事を待つ。

「……そうね。そういうところを直さないといくら駆除しても繰り返しになるだけでしょうし、みんなに相談して考えてみようかしら」

 やがて返ってきた言葉に、花中は笑顔を咲かせた。

「は、はいっ! えと、ありがとうございますっ」

「ふふっ。そんな必死に頼まれたら駆除するなんて言い辛いわよ。花中ちゃん、優しいのね」

「え、ぃ、ぃぇ、その……そんな、訳では……」

 にこやかに微笑む佐藤さんに指摘され、自分がかなり必死に説得していた事に気付かされる。恥ずかしさで俯いた顔が段々と赤くなっていくのが分かるぐらい、花中は自分の頬が熱を帯びていくのを感じた。

「っと、そろそろ家に戻らないとね。全く、うちのバカ息子達も花中ちゃんみたいに一人で家事が出来たら楽なのに」

「わ、わたしは、親が、気儘で、自分がやらないと、いけなかっただけ、ですから……」

「あら。なら私も一週間ぐらい旦那と一緒に旅行でも行こうかしら」

 でもアイツ等を残していってもろくな事にならなそうだから無理ね、と最後に付け足し、佐藤さんは捨てたゴミにきちんとネットを被せてから、手を振ってこの場を後にした。

 その姿が家に入るところまで花中は見送り、それから小さく、息を吐く。

 別に、動物愛護に目覚めた訳ではない。

 増え過ぎた猫を駆除して減らすよりも、ゴミの捨て方を厳密化して餌を絶つ。栄養状態が悪くなれば産まれる子供が減って、結果少しずつ個体数が減るからより人道的……そんなのは人の傲慢だ。急激に餌が減れば飢えて死ぬ猫は必ず現れる。途方もない空腹と虚無の中でじわじわと死んでいく事の、一体どこが平穏で幸福な生だと言うのか。それに不幸になるぐらいなら産まれない方が良いという考え方は、不幸になりそうな命なら絶ってもよいという考えではなかろうか。

 人の都合で猫の数を減らそうというのなら、それは命を弄ぶ事だ。人間が何をしたところで、命は

 フィアならその板挟みの難問に、きっとこう答えるだろう。「だから他人の事なんて考えるだけ無駄なんですよ」と。

 全く以てその通りだ。生き物達は常に自由であり、自分の都合で生きていく。誰かが自分のせいで苦しんだとしても、死んだとしても、殺したとしても、それを気にも留めない。

 そして自分のした生き方を恥じる事も、後悔する事もない。

 猫なのだから猫の事だけ考えれば良い。ミィに告げたその言葉に嘘はない。だから人も、人なのだから人の事だけ考えれば良い。適正だと思う数まで駆除するのも、餌を絶って時間を掛けて少しずつ数を減らすのも、人の都合で決めれば良いのだ。

 その選択をして胸を張り、起こりうる全ての事に覚悟を持てるのなら。

「……ごめんなさい。これが、わたしでも覚悟が出来るやり方、です」

 そう独りごちた花中は持ってきたゴミ袋をネットの中にしまい、他のゴミ袋が外に出ていないのを確認してから家への帰路に就く。ただし帰宅ではなく、既に散らかっている残飯を片付けるための箒と塵取り、そして新しいゴミ袋を取りに戻るための。

 人間の豊かな生活は、命の消費と損失により成り立っている。どれだけ科学を進歩させようと、どれだけ人に倫理と知性が備わろうと、それは決して変えられない。命は常に、何かの命を不幸にして自分の幸福を手に入れる。

 ならばせめてその事を自覚して生きよう。

 そして苦難の末に辿り着いた結論を貫こう。『彼等』が喋り出した時に全てを説明出来るように。人への憎悪を募らせていると知った時戸惑わないように。憎しみの果てに自分の命を奪われそうになって――――それを理不尽な行いだと、身勝手な思い上がりを抱かないように。

 それが命を弄ぶ者としての責務であり、抱くべき覚悟なのだから。

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