042 宿泊施設としてのオークションハウス

 無事に山を越えると、元四天王たちと俺たちは作戦会議を開いた。

 カゼリュウだけは気まぐれで、話し合いの序盤じょばんで会議を抜け出し、空に飛んでいってしまう。

 まあ、あいつはこういうことが苦手なので仕方ない。


 他の3体と俺たちは、魔王の城に乗り込んだ後の作戦を決めた。

 新しく加わった『火の鳥・フェニックス』は、俺がとても重要な役割をお願いしたので、特に入念な打ち合わせを行った。


 作戦会議が終わると、杏太郎は指輪を使った。

 指輪を使うことで元四天王たちを、呼び出す前にいた場所へと戻すことが可能なのだ。4体の魔物たちを自分たちの居場所に一度帰らせたのである。

 もちろん、魔王の城に乗り込むときは再び呼び出す約束をしていた。

 フェニックスだけは、今回は指輪を使って呼び出したわけではないので、飛んで帰ってもらった。


 元四天王たちと別れると、俺たちは魔王の城の近くに向けて進んだ。

 しばらくすると、んだ美しい水がまっている湖にたどりつく。

 湖には、この異世界の神様をまつっている小さなほこらがあった。

 杏太郎がみんなに言った。


「魔物が入ってこられない神聖な場所だな。今日はここで休憩しよう」


 まあ、とても信じられないことだけど、魔王の城へと続く道の手前に『魔物が入ってこられない神聖な場所』が存在していたのである。

 この異世界でたびたび見つかる、ゲームだったら『セーブポイント』になるような場所だ。

 俺がこの異世界に来てはじめて入ったダンジョンで、さらわれた黒ずきんさんを救出するときに利用したのが最初だったと思う。

 あれ以来、こういったセーブポイントのような場所には、冒険中ちょくちょくお世話になっていた。


 しかし、まさか魔王の城の手前に、魔物が立ち入れないこういった神聖な場所があるとは……。

 ファンタジーRPGなんかだと、ラストダンジョン前の最後のセーブポイントみたいなものだろうか。


 俺は、元いた世界でプレイしていたこの異世界とよく似たゲームのことを思い出す。

 確か、あのファンタジーRPGでも、魔王の城の前にこういうセーブポイントがあったと記憶している。あのセーブポイントが、きっとこの美しい湖なのだろう。

 ちなみに、仲間である元四天王たちは魔物なので、こういった神聖な場所に足を踏み入れることができないらしい。


 神聖な湖のそばには充分な広さの土地があったので、コンチータが『オークションハウス』を呼び出した。

 この一年の冒険でレベルがあがったコンチータは、『宿泊施設しゅくはくしせつとしてオークションハウスを使用することができるスキル』を身につけていた。

 普段、オークションを開催するためにオークションハウスを呼び出したときは、俺たちはこの世界ではない別の閉鎖空間へいさくうかんに移動することになる。

 だが、宿泊施設として呼び出した場合は、別の空間に移動することはない。

 俺たちの前に、出入り口の扉が設置された普通の建物としてのオークションハウスが呼び出されるのだ。

 オークションハウスのサイズも、出現させる場所に合わせて、ある程度小さくしたり大きくしたりできるらしい。


 密室となっている普段のオークションハウスとは違って、建物と外の出入ではいりが自由にできる。

 ただし、宿泊施設として呼び出した場合は、建物内でオークションを開催することはできないみたいだ。

 過去に試しに開催しようとしたことがあるのだけど、その瞬間に建物が消えてしまった。

 あくまでも宿泊施設や休憩所としての利用しか許されていないみたいである。


 杏太郎の説明によると――。

 オークションを開催するときの別の空間に現れるオークションハウスは、コンチータが変化したものらしいのだが、宿泊施設として出現させる建物は、コンチータが変化したものではないそうだ。

 コンチータというたましいが入っていないオークションハウスだから、オークションを開催しようとすると拒絶反応が起きて消えてしまうとのことだった。

 まあよくわからないが、ホテル代わりになるのなら、理屈なんてもうどうだっていいと俺は思う。


「いやー。『移動式のホテル』といっしょに旅をしているみたいだね。コンチータのこのスキルは、いつも本当にありがたい」


 俺はそう言ってコンチータに笑顔を向ける。青い髪の美少女は、ニコリと笑顔を返してくれる。

 俺とコンチータの関係に限らず、仲間たちはみんな仲が良かった。笑顔を向ければ、みんな笑顔を返してくれるような雰囲気の良い仲間たちと、最終決戦に挑めるのだ。

 明日はきっと良い結果が迎えられると信じている。


 俺は扉を開けてオークションハウスの中に入った。

 宿泊施設としてオークションハウスを出現させた場合に限り、建物内にはオークション会場以外の部屋が出現する。

 オークションスペースだけでなく、他の用途ようとで使用できる個室がいくつか現れるのだ。

 どういう仕組みになっているのかはわからないけれど、トイレも風呂もキッチンスペースなんかもあり、水まで使える。


 宿泊可能な部屋はいくつかあった。

 まず、シャンズたち勇者様御一行の四人には、広めの四人部屋が与えられている。

 コンチータと黒ずきんさんは二人部屋で、いっしょに過ごしている。

 女剣士には一人部屋が与えられていた。彼女は酒を浴びるように飲んで酒臭くなることがあるからだ。

 あと、俺と杏太郎はそれぞれ一人部屋だった。

 この先、旅の仲間が増えて部屋が足りなくなるようなことがあれば、広々としたオークション会場で誰かが眠ればいいだけである。


 みんなで夕食を終えると、俺は自室に戻った。

 少し豪華なビジネスホテルみたいな印象の一人部屋で、ベッドに横になってくつろぐ。


「明日、もしかすると俺、死ぬかもしれないのかあ……」


 ひとりそうつぶやく。

 例のファンタジーRPGと同じような展開が待っているのなら、魔王の城に乗り込んだ後、最終決戦のひとつ前の大きな戦いで俺は死ぬことになるのだ。

 ただ、対策はきちんと用意してある……。


 部屋の扉が、コンコンとノックされた。

 扉を開けると、俺の可愛い恋人が一人で立っている。黒ずきんさんだ。


「柊次郎くん……明日、いよいよ魔王との戦いだね。もし緊張で眠れないのなら、アタシが『眠くなる泥』を使ってあげるよ?」


 彼女はそう言って微笑む。だけど、俺が死ぬかもしれないと知っているからか、その笑顔にはいつもの明るさが足りない。

 本当は黒ずきんさんも俺といっしょに死ぬ可能性もあった。

 だが、杏太郎と事前に打ち合わせをして、黒ずきんさんが死ぬ展開は、現段階ですでに回避かいひできているのだ。

 その代わりに明日、杏太郎が危険な目にうかもしれないのだけど……。


 俺は黒ずきんさんの肩をポンポンと叩くと、「二人きりで湖のそばでも散歩しようか」と提案した。

 彼女は俺の目を見ながら、小さくうなずく。


 うっ……。

 もう、本当に可愛い……。


 そして俺は、黒ずきんさんをオークションハウスの外に連れ出したのだった。




 満月の夜だった。

 夜の湖を眺めながら、二人で手をつないで歩いた。


「魔王の城の近くだっていうのに、こんなにも綺麗な湖があるのね。綺麗な水と質の良い泥がたくさんあるわ。明日のアタシが作るゴーレムだけど、過去最高の泥人形たちになるかも」


 職業病みたいなものだから仕方ないけれど、黒ずきんさんは泥の話題を口にすることが多い。

 泥のしは俺にはよくわからないので、泥の話題になったときは笑顔を浮かべてうなずくことにしている。

 こうしておけば経験上、黒ずきんさんの機嫌が悪くなることはないのだ。


 穏やかな湖面には、夜空の満月の光が反射していた。近くのオークションハウスからも光が漏れているから、辺りはそれほど暗くはない。

 れて倒れた木が、ちょうどベンチのようになっている場所があって、二人で横並びになって座った。

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