救い

 安い個人的な居酒屋の冷えた瓶に軽々しく垂れるあの水は、死に繋がる殴り合いのスポーツをやっている黒人選手の茶の口から放たれる血塗れの奥歯は、申し訳あるのにお詫びをするサラリー貰いの内ポケットの携帯端末に表示されている愛しい娘の輝かしい目の内のワンピクセルは、ハードロックを辞めて新興宗教に傾向したかつての歌手の腕に巻かれた有難いとされている奇天烈な玉群の光沢は、賢い猿と戯れる人を人と思わない人間性が良くない研究者の白衣を洗濯する業者の洗剤のあの香りは、仲人をやった男が透明なチューブに繋がれ生き永らえている様を複雑な心情の眼差しで見つめる妻帯者の枯れた涙は、でかい電気を流す円柱の隅に小便をする犬もいる中そこに吐瀉物を真っ赤な唇から投げつける人生に絶望した白髪の老人のかつての戦のお手柄は、のろまな亀の亀裂に興奮を覚えるイルカの調教をする女性の秘めたる膣の奥の子宮に宿る新しい何かは、全て神が作った訳ではない。


 綺麗な夜。私は。宇宙でたゆたって、現実で立ち尽くして。さほど冷たくもない地方都市の雨の歌に肩が染み入って、香典の整理が滞ってしまって、偉大なる死の祭りに参加など、本当はしたくなかった。本当にしたくなかった。私は黒い動く煌びやかな鉄に乗って、おかしな音を出すスイッチを押す従業員の手の、無感情に視線を捉えていた。神は居なかった。

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