第65話 小脇
ハームが身動きを取れないように手足を縛った後、カリオスはオルタにハームを連れて来るように伝えた。
向かうのは治安維持局の本部だ。もしかしたらそこに、マーカスがいるかもしれない。位置的にはドクターファーナスの診療所がある大通り沿いで、より街の中心に近い方だ。
走りながら、そろそろ体力の限界を感じているカリオスとは違い、オルタはまだまだ余裕がありそうだ。
「もう少しだ!がんばれカリオス!」
オルタの声掛けに必死に頷きながらも、何とか足を動かしている。そんな二人の様子を、街の人々は訝しそうに見ていた。やはり、ウルハ族のオルタと変な口輪をした男が全速力で走っていれば、好奇な目で見られるのは当然か。
ついに体力が尽きたカリオスが膝を抱えて立ち止まると、それに気づいたオルタも足を止める。
『はぁ、はぁ、はぁ……やっぱり、ミスルトゥにいた時より体力が落ちてる気がする。いや、逆か?ミスルトゥにいた時だけ体力が上がってたのか?』
乱れた呼吸を整えながらも、思考はしっかりと続ける。そんなカリオスの耳に、街の人の声が飛び込んできた。
「何かあったのかしら。」
「さぁ、でも確かに、さっきから騒がしいわねぇ。」
声のする方を見ると、二人の女性が椅子に座って何やら作業をしながら雑談をしている。チラチラとこちらを見てきている感じでは、やはり、カリオス達のことを話しているのだろう。
『……さっきから騒がしい?マーカスを見てるかもしれないな。』
急いでメモに指示を書き、オルタに見せる。このやり取りに慣れて来たのか、オルタはメモを読むとすぐに行動に移してくれた。
「あの、すみません。聞きたいことがあるのですが。」
作業をしている女性たちに歩み寄りながら声を掛けるオルタ。女性たちは一瞬戸惑いを見せつつも、対応してくれた。
「この辺りを治安維持局の人間が通らなかったですか?金髪の男なんですが。」
「あぁ、通りましたね。街の外周の方へ走って行きましたけど。あのぉ。何かあったんですか?」
恐らく興味本位で聞いたのだろう。だが、軽々しく事情を説明しても良いのだろうか。だが、あまり考える余裕はなさそうだ。
カリオスは急いでオルタの前に行き、会話に割り込む。案の定、オルタは何かを応えようとしていたようだ。
そんなオルタを制止しつつ、女性に対して会釈をすると、オルタに合図をする。
「すみません、彼は言葉が話せなくて。俺たち急いでるので。ありがとうございました。」
そう告げたオルタが走り出し、それを追いかけるようにカリオスも走り出す。
『外周の方ということは、どこかですれ違ったのか?』
来た道を戻っているオルタを追いながら、カリオスは考える。しかし、彼がいくら考えても答えが出ることは無かった。
その代わり、オルタが回答を導き出す。
「クロム。もしかしてこの薬を探してるのか?」
走りながら呟いたオルタの声を、カリオスは聞き逃さない。非常に不安定ながらもメモに質問を書き、オルタへと差し出す。
「『どうしてそう思った?』……外周には坑道入口が集まってる区分があって、俺はそこで働いてんだ。だから、俺の職場を探してるのかなと思ってな。」
『なるほど、クロムも、まさか本人が持ってるなんて思わずに、心当たりのある場所を探してるのか?行ってみる価値はありそうだ。』
「まぁ、本当にそうか分かんねぇけどなぁ。どうする?行ってみるか?」
そう尋ねてくるオルタに、頷いて答える。
「おう!任せとけ!そうなりゃ、飛ばすぜ?しっかり掴まれよ!」
そう声を上げたオルタは、右肩にハームを担ぎ、左腕にカリオスを抱え込んだ。
『は?ちょ、ちょっと待て!これは流石に……!』
「カリオスは足が遅せぇからな!俺ならあっという間に着いちまうぜ!」
状況を理解できず、小脇に抱え込まれたカリオスは、オルタの走る振動で頭がグワングワンと揺れるのに耐えるしかできなかった。
視界が大きく乱れ、思考も定まらない。挙句の果てに、吐き気まで催してしまう。これでは到着しても役に立たない可能性があるが、オルタはそんなことを考えていない。
カリオスは速く着いてくれと切に願い続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます