第36話 砂塵

 少し時をさかのぼり、ミノーラが吊橋を7割程渡り終えた頃。


 カリオスとダンガンは休むことなく大樹のつたを幹から飛ばし続けていた。そろそろ肩が外れそうだ。


「なんだ? 様子がおかしいぞ?」


 痛む肩をさすりつつ窓から狙いを定めていたカリオスは、ふいに告げられたダンガンの言葉に、注意を削がれた。


「おいおいおいおい! まだ早いぞ!」


 窓から上を覗き込んだダンガンが、焦りを隠すことなく絶叫する。当然、カリオスが、その言葉の意味を予想することは、容易たやすかった。


 ダンガンが肩に飛び乗って来たのを確認したカリオスは、すぐさま壁から距離を取るために、大樹の中心へと向けて走る。


 即席で作られていく枝の道を走りながらも感じる程、背後から聞こえるミシミシと言う音と、押し広げられた空気の圧のようなものは彼らを圧倒してくる。


 しばらくしてそれらは、腹に響く轟音となって、地面もろとも、彼らを揺さぶった。最早立っていることなどできず、必死で何かに掴まる事しかできない。


 腕に溜まる疲労と、恐怖心に負け、まだ続くのかと心が嘆き始めた頃、ようやく揺れが収まった。幸いなことに、二人とも無事である。


 いくらかり傷は負ったものの、大事には至っていない。


「まだ出れそうにねぇな。見ろよ、すげぇ砂ぼこりだぜ? ここまで届いてやがる」


 言われるがままに先程まで居た窓の方を見ると、辺り一面に砂塵が舞っている。恐らく、窓から入って来たのだろう。彼らのすぐそばまで漂って来ており、さらさらと下へと舞い落ちていく。


「どうする? このままここにいても仕方がないぜ? とりあえず、降りるか?」


『……そうだな』


 上の状況を把握できていなかったため、なぜ落ちてきたのかも、他の皆が無事なのかもわからない今、とにかく情報を集めるのが先決だ。


 二人は、ダンガンが新たに作った下り坂を走り、大地へと足を下ろした。


「ちょいと待ってな」


 そう言うと、ダンガンは例のごとく大樹の幹に潜り込んでいく。


 カリオスはと言うと、近場に生えていた大きめの葉をむしり、口と鼻に当て、マスク代わりにして彼の帰りを待った。


 しばらくすると、全身砂まみれのダンガンが、幹から飛び出てきた。


「ブッ……ガァァァ……」


 口に砂が入ってしまったようだ、全身をはたきながら唾と砂を吐いている。全身砂まみれと言うことは、一度完全に外に出たのだろう。


 ……なんて馬鹿なことを。


「まだ……ブェ……出れねぇな!クソ、最悪だ」


『ご苦労さん。ところで、何か見えたか?』


「見えるわけねぇだろ?あるのは砂と砂と砂だけだ」


 そうダンガンと手持ち無沙汰なカリオスは、しばらくの間待つしかなかった。

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