第30話 反対
バートンがその場に集めたのは、パトラをはじめとするコロニーの中心人物5人とミノーラ、そして、小さなおじさん4人である。
「さて、取り敢えず、現状の整理から始めたいと思うのですが、今どういう状況か教えてくれますか? パトラ様」
「はい、状況としては振り出しに戻った、と言うのが適切かと思います。ミノーラさんが私の精神支配を解いてくれたあと、影の精による襲撃を受けました。恐らく、中級か、あるいは
「何かしらの対策はしてくると考えるのが
パトラの
「ところで、
「イ……。攻撃と言って良いのでしょうか? 私が受けた攻撃の中には物理的なものはありませんでした。ただ、彼女の攻撃に触れると体を動かせなくなってしまうみたいです。私は、この首輪のお陰で全身を包みこまれることはありませんでしたが……もし、私よりも小さな、そう! バートンさんの肩に乗ってるような小っちゃな方々は気を付けた方が良いと思います。いつの間にか2、3人消えていても分かりませんから」
ミノーラは言葉を切ると、まるで舌なめずりをするように鼻先を舐めてバートンの肩を凝視する。
何やら物言いたげに両腕を振り上げたおじさんたちであったが、双方の視線を遮るようなバートンの手に、会話を切られた。
「ミノーラ、あまり彼らを刺激しないでおくれ。それよりも、影の精のことを彼女と言いましたね。もしかして、会話したのですか?」
ふぅ、と自身を落ち着かせたミノーラは、バートンの問いに答える。
「はい、レイラ。それが彼女の名前です。初めは会話してくれそうになかったんですが、しつこく話しかけると、返してくれましたよ? あ、それと、影の女王にも会いました。サーナさんの知り合いみたいでしたけど……。あの、皆さん? どうかされました?」
「影の女王に会っただと!?」
そんな驚きを口にしたのは、パトラの横でだんまりを決めていたトリーヌだった。しかし、その他のメンバーも驚いていることに変わりないようだ。
「さすがと言うか何というか。今回に関してはそれが好機になりそうだね。いやぁ、ミノーラが珍妙で良かったよ」
「もう!バートンさんまで!あまり私を刺激しないでくださいね?唸りそうになります」
「……やっぱりイヌッコロじゃねぇか」
ボソッと呟かれた声を聞き逃すはずもなく、思わず
唸っていたらそれこそ、犬と言われるに違いない。
「好機とはどういう事ですか?」
ミノーラが堪えている最中に、パトラがそんなことを尋ねた。
「おぉ! そうでした。忘れていましたよ。ありがとうパトラ様。私は作戦を伝えにここまで登って来たんですからねぇ。影の女王に対抗するための策を
「ふざけるなっ!」
バートンの言葉を遮ったのは、トリーヌだった。先程の驚きから打って変わり、怒りを顕わにしている。
「ここは我々の家だ! なぜそう
バートンに詰め寄り、今にも突き飛ばしそうなトリーヌをパトラが抑える。
「トリーヌ! 落ち着きなさい!」
その静けさを保とうと、必死に何かを抑えている様子のパトラが、一言、一言と言葉を紡ぐ。
「バートンさん。トリーヌの言動をお許しください。彼には幼い娘と翼を傷めた兄弟がおります故。激情に駆られたのでしょう。そして、策についてですが。私達はその策に乗ることはできません。ここは私たちの家であり、故郷であり、拠り所なのです」
家であり、故郷であり、拠り所。
ミノーラはふと、家族と住んでいた森の事を思い出した。妹や婆ちゃんと住んでいた、豊かな森。
残ったのは、ただの森と、出涸らしのような自分だけ。
「バートンさん。私もその作戦には反対です。家を……家族を失うのは、悲しい事なので。他の方法を探しましょう」
「そうですね。心無い事を言ってしまいました。パトラ様、トリーヌ様。申し訳ありません。作戦は中止します。それでは、どのようにして影の女王に対抗しましょうか。それと、コロニー上部で待機しているのが数名いるので、作戦中止の連絡をしなくてはなりません」
再び訪れる沈黙。しなくてはならないことが多すぎて、頭の中の整理が追い付いていない。
もう一度女王と話すことは出来ないだろうか。
「あの、影の女王はどこにいるのでしょうか? もう一度話してみたいのですが」
「おそらく、遥か上部、この大樹の頂上付近でしょう。絶えることなくあり続ける雲のお陰で日光が薄い筈ですから。ところで、何を話すおつもりですか?」
教えてくれたパトラに対して軽く頭を下げながら、ミノーラは告げる。
「聞きたいことが沢山あって、何を話そうか悩んでいますが、まずは皆さんの事を話してみようと思います。それと、どうせ上に行くのなら、私が待機中の方々に連絡に行きましょう」
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