44話 美女と夢魔
「……さっきも思ったけれど、これはどういう仕組みになっているんだ?」
「
魚料理、そして蒸留酒と果実の汁を混ぜた地酒を堪能した三人は一度宿へ戻り、
再びツバの広い帽子を被せられたアビスモは、美しい顔を曇らせながら悪態を吐く。
そんな彼の不満を無視して、タンペットはほんのりと膨らんだ胸を張り、腰に手を当てて得意げな表情をして答えた。
「これはな、なんと身に付けた者を弱く見せるものだ。お前らが身に付ける場合は、その綺麗すぎる顔を隠さねば効果半減というのが改良点だが……」
「通気性が最悪だという部分も改良点にしておくべきだな」
「視野も悪いね……。これでは
「ふん。これがどんな偉大な発明かわからんやつらめ」
そっぽを向いたタンペットは、少しだけ胸元が開いた服を身につけ、唇に薄く紅を引いた。
ツバの広い帽子で顔を隠すようにしている二人の目の前で、タンペットは丈の長い
らせん状の縫い目が付けられた裾がふわりとういて、花の香りが漂った。
「では、聖女にちょっかいを出しているらしいあの
日が傾き、港街には夜の気配が近付いていた。
華やかな格好をしたタンペットと、ツバの広い帽子を被ったアビスモとルリジオは宿を出て町の片隅へと繰り出していく。
「あっれー?さっき神殿の前にいたお姉さんじゃない?」
タンペットたちはこっそりと目配せをしあってから、声をかけてきた男たちがいる方へ顔を向ける。
三人の男たちは揃いの赤茶けた髪をしていた。再び帽子を目深く被っていたアビスモとルリジオを押しのけて、男たちはタンペットを取り囲む。
「あら、
タンペットの細い手首を無遠慮に取った男たちは、ルリジオとアビスモの腕に肘打ちをして輪から閉め出した。
黙ったままの二人を確認したタンペットは、困ったような演技をしながら男たちに微笑んでみせる。
「いやあー、さっき神殿の前で見かけて綺麗だと思ってたんだよね。このダサいお兄さんたちなんて放っておいてオレたちと遊ばない?」
「弟たちなら、もう大人ですし、別にいいのですが、あの」
ルリジオとアビスモが微妙に肩を揺らす。しおらしい演技を続けるタンペットは、二人に視線を送った後に、何も気付いていない様子の男たちへ視線を戻した。
「じゃあさ、あっちの店でお酒でも飲もうよー!ほら」
「あの、その、でも」
「弟くんたちぃ!君のお姉さんをちょっと借りていくよお」
男たちに囲まれて、タンペットはそのまま連れ出されていく。
一人の男が、彼女を連れ出す時に腰に手を回す。一瞬だけタンペットが眉を顰める※、すぐにしおらしい慌てた演技に戻ったようだ。
三人の赤茶けた髪の男たちに囲まれて、タンペットは店から出て行った。
「お兄さんたち、大丈夫なのかい?絡まれていたようだけど。番兵を呼ぼうか?」
飲み物を持ってきた店主が、残された二人に声をかける。
ふう……と溜息を吐きながら、深く被っていた帽子を取った二人は、店主から手渡された果実酒を一気に呷る。
ゴブレットを机に置いたアビスモは、懐から取り出した金貨を出して店主に手渡した。
「いや、かまわんさ。世話になったな」
「さて、じゃあ行こうか」
太陽から紡いだような髪をサラサラと揺らして微笑むルリジオに、店の中にいた女性客が小さな声を上げる。
突然、目の前でそこら辺の女性よりも美しい男性二人が現れたことに驚いたのか、店主は目と口を開いて呆けている。
飲み物の代金にしては多すぎる料金を貰ったことを言い出せない店主を気にする様子もなく、素顔を露わにした美男子二人は港街を悠々と歩いて行く。
冷えた風がアビスモの頬を撫でた。
鼻を鳴らしたアビスモが、先を歩くルリジオの肩を叩き、行くべき場所を指で示す。
細くて白い彼の指が指していたのは、港から少し離れた岩場だった。
少しべたつく潮風が吹き付けてくるのを感じながら、二人は気配を殺しながらタンペットたちを探す。
入り江から離れた場所には、大きな洞窟が口を開いている。
「多分この奥だ」
長い紫色の髪を靡かせて、アビスモが洞窟へと入っていく。頼りない月明かりがどんどん届かなくなり、周囲はどんどん暗くなる。
夜目が効くアビスモがどんどん進んでいくのを、ルリジオがゆっくりと追っていった。
「な、てめえ」
波と風の音しか響いていなかった洞窟に男の声が響いた。
アビスモとルリジオは、顔を見合わせると声の方へ駆ける。
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