9.武装選択

 ギルド説明後、ひとまず俺は昼は簡単な雑務系の仕事、夜は戦闘訓練という生活を送ることを決意した。


 ということでそのまま俺は簡単なクエストを引き受けた。

 なんとレオもいっしょにきてくれて手伝ってくれるらしい。いい子過ぎる、きゅんってなる。

 仕事も初回ゆえ、あまり後に引かないものを選んだ。

 昼休み、俺たちは一度、ギルド付随の食堂で昼食を取っていた。


「――じゃあ、ジュンイチは本当に異世界人なんだ」


「ああ。まだこの世界に飛ばされてきてから一週間も経ってないんだ。そう考えると状況が目まぐるしく変わってるって思うよ」


「異世界かぁ。この世界で有名な異世界ってアーインスキアと、あとは魔法学校があるって言うマジーア・リベレーターっていう世界なんだけど――」


 残念だが、元の世界にいた頃、そのどちらの名も聞いた事が無い。


「そもそも俺の居た世界では魔法っていうのはおとぎ話みたいな架空の存在だったからなー」


 そういえば魔法学校を題材にしたファンタジー小説があったけど、あれだってあくまでファンタジーだ。

 ――まぁ、今の俺の状況だってリアルにファンタジーなんだけど。

 しかし、魔法が実際に存在していれば、あんな高層ビルが立ち並ぶ風景とはまた違ったものになった気もする。


「そうなんだね。とは言っても、僕たちも魔法がそこまで使えるわけじゃないんだ」


「そうなのか? 俺はてっきり皆使ってるもんだと思ってたんだけど」


「うーん。使えなくは無いんだけどね。ただ実用レベルまで昇華させるにはそれなりの努力が必要だし、才能も左右されるかな。人によって持ってる魔力の量って変わってくるんだ。僕を含めて一般人で魔力が高い人ってあんまりいないと思う」


 なんかスポーツみたいだ。


「魔法ってのも結構大変なんだな。俺に出来るか不安になってきたよ……」


 リーシャは割りと簡単に行っていたように見えたが、それも彼女の努力、または才能のおかげなのだろうか。

 俺が苦笑して見せるとレオはでも、と言う。


「才能を問わず、努力して魔法を主力武装にしてる人だって結構いるから、やっぱりそれはジュンイチ次第だと思うな」


「なるほどね。今夜から戦闘訓練みたいなものも受けられるらしいからそこで出来る限りやってみるよ」


「うん。応援するよ」


談笑を終えた俺たちはまた仕事へと戻り、クエストを完了させる。



●●●



「うーん、思ったほど疲れはしなかったなー」


「まあ、本当に簡単なものを選んだからね」


 クエストが完了した俺たちは報告のためギルド支部に再度戻ってきていた。

 これから俺は戦闘訓練、レオはそのまま部屋に帰って休むそうだ。

 

「――ここにいましたか」


 ふと、後ろから声をかけられた。知っている声だ。

 振り向いてみれば、そこには黄金メロンもとい、リーシャが立っていた。


「どうした? 何か俺に用事?」


 リーシャとは昨日のギルド加入の件から顔をあわせていない。

 特に悪いこともしてないから怒られることもないはずだが、いきなり拘束された件があるので、無意識に警戒してしまう。


「……ミスト支部長からあなたの戦闘訓練の教官を任されました」


「……え、マジで?」


「はい、あなたを連れてきたのが私だったということで適任だと言われました」


 連れてきただけで教官が適任とか、そんな話も無かろう。

 完全に面倒ごとを押し付けられた感じだ、と俺は思った。


「……ま、まあ、それじゃあよろしく頼む」


「はい、それでは訓練場に行きましょうか」


「そういうことでレオ、今日はありがとうな」


「――え!? あ! うん、がんばってね!」



●●●



 レオと分かれた俺はそのままリーシャについていく形で訓練場に移動した。


「で、戦闘訓練とは言っても、まずはどうするんだ? 悪いけど俺は平和な国の庶民だったから武器とか持ったこと無いぞ」


「やはりですか。では、最初は戦闘スタイルの確立からですね」


「――前衛とか、後衛とか、そういう?」


「はい。戦場における立ち位置という意味ではそうですね。ただ、もっと簡単に言えば、まずは武装の選択から始めようと思います」


 武装の選択。剣とか銃とか、そういうことか。


「私で言えば、片手剣。先ほどのレオ君は双剣。この訓練場に一通りの武器は置いてありますので、自由に試してみてください」


「おう。

 ――オーソドックスなのはやっぱ剣だよな」


 ファンタジーと言えば、やはり剣である。俺は目に付いた片手剣を持ってみた。


「――おもっ……」


 え、剣ってこんなに重いの……?

 漫画などで主人公が片手で軽々持ってるから軽いと思ったが、現実はそうじゃないらしい。

 それもそうだ。俺はあくまで一般的な日本人であって、軍隊で訓練していたわけでも重量挙げの選手だった訳でもない。

 しかし、片手剣でこれでは大剣など、到底無理な話だ。というか、つまりリーシャと腕相撲で勝負したら俺即負けするんじゃないのこれ。


「鍛えれば持てるようになりますし、一応今のままでも持てるようにすることはできますが……」


「……まぁ、他の武器も見てから考えるよ……」


 個人的には遠くから安全に攻撃したい気もある。


「なら、やっぱ経験がある弓だよな」


 高校、大学と興味本位から入った部活ではあったが、弓道をやっていた身だ。それなりに自身はある。

 だが、実戦用の弓を引いてみた結果、数分後には部活動の弓道と実際の戦闘で使う弓は異なる事を思い知らされる。

 ――やっぱり筋肉つけていくしかないのか……。

 そう思ったとき、俺の脳裏にある武器が浮かんだ。

 ファンタジー的には邪道な気もするが、戦いでは自分の命を賭けるのだ、そんなことも言っていられないと、俺はリーシャに尋ねてみた。


「あのさぁ、あるかわからないんだけど……『銃』ってある?」


 俺の言葉に、リーシャはすぐ反応しなかった。

 ――やっぱり無いよなぁ……。


「あるにはありますけど……」


「あるんだ!?」


「はい。しかし、一発の威力の割には手間がかかりますし、弾薬代もそれなりにかかります。それに正直言って剣の方が強いと思うのですが」


「――え、剣は銃より強しなの……」


 俺のいた世界とはまるで逆だ。魔法が存在するからだろうか。

 ともあれ、リーシャに銃を用意してもらう。

 基本的に銃の使い方はどれも似たり寄ったりなはずだ、と漫画だけの知識をもって、安易な考えを浮かべる。

 だが、俺が思っていたものとは違うものが出てきた。

 

「えーと、これはまた……」


 出てきたのはそれこそ戦国時代の火縄銃かと思うぐらいのマスケット銃だった。

 こんなもの歴史の教科書とかでしか見たことないぞ……。


「さすがに現代のアサルトライフルやサブマシンガンとかはさすがに無いだろうなと思ってたけど、ここまでか……」


「アサ……? この世界で流通してる銃としてはこれが一般的なものですし、これより攻撃力が高い種類は無いと思いますよ」


「マジかぁ……。否、この際選り好みとかできない。俺は銃使いになる!」


「――クロスボウとかも一応あるのでそちらをお勧めしますが」


 先に言ってほしいのだが……。

 かっこよく宣言してしまったので最後の言葉は忘れることにした。美少女の甘言に乗せられるような俺ではないのだ、決して。


「しかし、銃を使うとなると、私から教えられることは限られてきますね」


「え、そうなの?」


 ハンドガンなどであれば、漫画などで使い方の知識があるので、どうにかなるが、これはそうもいかないので、詳しく教えてもらおうと思っていたのだ。


「先ほども言いましたが、やはり銃より剣の方が強いのです。この世界には弓兵はそれなりにいますが、銃使いとなると本当にごく稀に見かける程度ですから、武器の使い方に関しては文献などを参考にしてもらうしかないかと。ラインアルストにも銃使いは居ないはずですし」


 やはり選択を間違えたか……。


「しかし、あなたがそれだと決めたのならば私も何も言いません」


 ……余計、やっぱり銃をやめると言えなくなってきた。


「ですが、ちょっと計画が狂いました」


「計画?」


「ええ。初心者の方はだいたい剣を選ぶので、それ用の計画を立ててきたのですが、あてがはずれました。ですので、本格的な訓練は明日からにしようと思います」


「そっか。なんかごめんな。せっかく用意してもらったのに」


「いえ、任されたことを全うしているだけですから。今日はこの辺りでお開きにしましょう」


「了解。明日以降もよろしく」


 特にする話題も無いため、俺は銃を元あった場所において宿舎に帰ろうとする。

 モテる男はここで何か雑談したりするんだろうけど、残念ながら俺にはそう言ったスキルがない。


「――あの!」


 なんて思っていたら、逆に呼び止められた。


「どうかした?」


「その……、この前は勘違いであなたを不当に拘束してしまい、申し訳ありませんでした!」


 リーシャが俺に頭を下げてきた。

 おお、オパーイが揺れてる……! 否待てそうじゃない。


「いやいや、別に良いって。色々聞いてみれば、皆が警戒するのも無理ないかなって思ったし」


「ですが、それでは私の気が納まりません……」


 美少女に言われて悪い気はしないが、こちらとしてはもっとフレンドリーになりたいのだ。


「過去のことよりこれからだよ。そうだなー、それじゃあ俺と友達になってくれよ。いきなりでなくても良いからさ。せっかく異世界に来たんだし、いろんな人と仲良くなりたいんだ」


 そう、金髪巨乳美少女と友達になりたいのは男の夢です。やましいことではないヨ、自然の摂理ダヨ。


「……わかりました、ジュンイチさん」


「うん、それでよろしい。んじゃ、まぁよろしくリーシャ」


 自然に名前を呼び捨てで呼ぶ流れも作れた。


「はい、よろしくです」


 こうして俺は、少女と友人になった。

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