8.隣人とランク
「――っと、ここが俺の部屋か」
流れでギルド加入が決まった日、俺は早速、頂いた準備金で街に出かけた。
目的は服を買うためだ。今のままの服装では、周囲から目を引くし、力仕事をするための服装という訳でもない。
数日で着回せる最低限の物を買って宿舎に着けば、もう夜になっていた。
「さてと、どんな感じかな?」
ドアを開けて入ってみれば、ミストが言っていたとおりの最低限の物しか置いていない。
「ベッドにテーブルとイス、あとは鏡か」
それだけあれば十分だ。元々、言うほどお洒落をする気質でもない。
「じゃあ、まあ。よろしくお願いします、っと」
これからしばらく世話になる部屋だ。ギルドメンバーはランクが高くなるほど収入が増えるため、持ち家を構える人が多いらしいが、俺がそこまでいけるのはずっと先になりそうだ。
……そういや、日本だと引越ししたらお隣さんに挨拶とかしに行くけど、この世界だとどうなってるのかな。
礼儀としていくべきだとは思うが、それはあくまで俺の思考だ。世界が変わればそういうのも変わってくるはずだが――。
そんなことを思ったとき、ドアがノックされた。
「はい」
出てみれば、そこには女の子が立っていた。
「君が例の新人さんだね? ボクは隣に住んでるレオ・ヒューエイって言うんだ。今日からよろしく」
そのまま握手を求められる。
……あれ、一応ギルドの宿舎って男女に分かれてて、ここは男性宿舎のはずだけど……ってことはこの子は男の子か!?
また異世界の不思議を見た気がするが、初対面の印象は大事だ、しっかり挨拶を返さなくては。
「ああ、俺は清堂 純一――純一 清堂って言った方が良いのかな? ともかく純一って呼んでくれ。今日からここで世話になる。色々わからないことが多いから面倒かけてしまうかもしれないが、よろしく頼む」
握手に応じながら返答する。
「うん、よろしくジュンイチ。……ふふ、歳の近い知り合いってあんまり居ないからちょっとうれしいな」
――うん? 歳が近い……? まだ十代に見えるけど……
そこで俺はスキルにより若返っているという現実を思い出した。
俺は今、傍目から見たら高校生か大学生ぐらいなはずだ。
ちょっと違和感があるけど、わざわざ言わなくてもいいか、言ってどうにかなるわけでもないし……。
逆に実際の年齢が離れてるからと余所余所しくされるのも俺としては不本意だ。
だから俺はそのまま、
「そうだな、俺も知り合いって言う知り合いはほんとにいないから仲良くしてくれるとうれしい」
そんなこんなで、隣人との関係は良くなりそうだ。
●●●
次の日、俺はギルドについて詳しい説明を受けるために朝から支部に出向いた。
となりには隣部屋のレオがいる。一人で困ると大変ということで、ついて来てくれたのだ、ありがたい。
俺への対応は、支部長のミストではなく、副支部長のケインという男性がするようだ。
まぁ、ミストさんもここのトップだもんな……。
彼女とて、忙しい身のはずだ。
さて、俺が受けた内容をかいつまんで説明するとこうだ。
まず、ギルドが俺たちギルドメンバーに紹介するクエストには受注制限が設けられている。上の難易度を受けるためにはそれ相応のランクに昇格しなければならないらしい。
ランクは全部で、S、A、B、C、D、E、Fの七種類あって、それぞれがドラゴン、デーモン、キメラ、エレメンタル、オーク、ゴブリン、ラビットを一人で討伐できることがだいたいの基準となっているらしい。
尤も、一人でドラゴンを討伐できる人間はこの世界でも数人しか居ないらしく、ギルドに所属してる人間でもトップクラスはランクAが数人しかいないという。
もちろん俺は最下位であるランクFで且つ戦闘訓練なども積んでいないため、まだ討伐クエストは例え目標がただの動物でも許可が下りない。
ちなみにレオはランクE、俺を助けてくれたリーシャがランクDでここのトップであるミストがランクCらしい。俺を襲ってきた、あのガルフとかいう狼の魔物はゴブリン以上オーク以下、アレでかよ。
ランクを上げるためには昇進試験なるものを受けなければならないらしいが、ある程度のクエスト実績が無ければそれも受けられないと言われた。
「ということは、とりあえず簡単でも何でも良いから、できるクエストを受けていって実績を積んでいくしかないわけだ。いいじゃん、わかりやすくて」
「そうだね、討伐クエストが受けられるようにあってもランクEまでは討伐対象も魔物が出るわけじゃないからそこまで緊張しなくていいと思うよ」
目標は決まった。とりあえずレオと同じランクEになることだ。
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