7.ギルド加入

「申し訳ございませんでした!」


 ミストは部屋に入ってくるなり、そう言って俺に頭を下げてきた。

 話を聞いてみたところ、あれから、俺が発見されたところやその周辺を探索したらしいのだが、件のアーインスキアにつながるようなものは発見されず、また、監視中の様子から見ても、危険人物だとは思われなかったらしい。

 結果、俺は無実だと判断されたようだ。


「それと、ジュンイチさんの仰っていた話ですが――」


「そうだ、支部長さんは俺のここまでの経緯について何か心当たりがあるって言ってましたね」


「はい。とは言っても人伝に聞いた話なので、実際に目の当たりにしたのは今回の、ジュンイチさんが初めてなので確証というものは無いのですが……」


 ミストは続ける。

 偶に、異世界から転移してきてしまう人間が居ると。本来は魔法でゲートを開けねば、異世界に移動することは出来ないのだが、条件が重なり、偶発的に俺はこの世界に来てしまったのではないか、とミストが推測した。


「世界はこのレイ・ウィングズの他に9つあるといわれているのですが、なにぶん『異世界』というものはこの世界でも一般人には縁遠い話でして、他の世界にどのようなものがあるかは一部を除いて私たちもわからないのです」


 『異世界』関係の管理は中央政府の高官が担当しているらしく、一筋縄ではいかないようだ。


「それと、これもあくまで噂なのですが、ここ最近になって、魔法による異世界とのゲートがまったく開けなくなってしまったという噂もあるのです」


 つまり俺がすぐに元の世界に帰れる可能性はかなり低い、という訳だ。

 それに強いて言えば、その九つの異世界の中に俺のいた世界があるという確証はない。もしかしたら俺はその九つの世界以外から飛ばされてきた可能性だってあるのだ。

 仮にゲートが開けたとしても、確実に俺のいた世界、日本に繋がるって保証はない。


「つまり、とりあえずはこの世界に居るしかない、というわけですね?」


「……そうなります。状況が状況だけに、このままギルドの方で保護させていただき、後々の対応を模索する形を取らせていただこうと思っています」


 む、マジか……。

 正直に言えば、かなり不安だったところだ。これから見知らぬ土地で一人で暮らしていかねばならない、しかも文無し。


「じゃあ、それで――」


 言いかけて、ここでふと、言葉をとめた。

 ただ、厄介になるにも申し訳が無い気がする。いや、本音を言えばいきなり拘束されて監禁生活させられたのだから、それなりの代価は要求してもいいと思う。

 だが、ここにはパソコンやらインターネット、テレビなどの現代的な娯楽はまず存在しないだろう。ただぐうたらしていても、数日で飽きる気がする。

 せっかく、異世界――しかも魔法やらなにやらが存在する世界に来たのだ。ポジティブにいこう、こうなったら状況を楽しむべきだ。


「――それもいいかなとは思ったんですが、ずっとお世話になるわけにもいきませんし、何か働ける場所とか無いんですかね」


 もちろん、それなりの報酬が出るところだ。贅沢したいわけではないが、それなりの生活をするには結局お金が必要だ。

 俺の言葉に少し考えたミストは人差し指を立てて提案してきた。


「では、ギルドに加入していただくのはどうでしょう?」


「支部長!?」


 突然の提案に驚いたのは俺よりリーシャの方だった。

 え、そんな驚くこと?


「本来はギルド加入には適正試験――要はその人の性格をみる試験があるのですが、数日見た感じでもジュンイチさんは問題のあるような人には見えませんし」


 まぁ、性格に問題あったら今こんな対応されて無いだろう。

 冷静でいたことが功を奏したようだ。


「最初は荷物運びや掃除など、雑務系の仕事が主になると思いますが、そういったものをこなして実績を積みつつ、戦闘訓練をしていけば、ゆくゆくは魔物討伐などの高ランクの仕事もできるようになりますし、収入も増えていくかと思います」


 ――よし、それでいこう。

 俺は即決した。


「その方向でお願いします――で、あのー、すごい言いにくいんですが、俺、この世界のお金とか持ってないんですけど――」


 肝心なことだ。話を聞く限り、ギルドの仕事は日払いではあるだろうが、それでも今日、今からこの世界で暮らすためにはそれなりの資本金はいるだろう。


「はい、それは問題ありません。ギルドに加入する方には準備金としてある程度の金額はお渡ししています。そのままギルドに所属して仕事をしていただければ返済不要なものです。とは言っても、ご迷惑をおかけしたことを考えて、こちらの方で手を加えさせていただきますので御安心を」


 よしよし。ある程度の賠償は確約した。

 そんなことを思った俺だが、さらにミストは言葉を続けた。


「それと、住居に関してですが。よろしければ、ギルドで管理している宿舎がありますので、そこの一室をご利用ください。部屋には最低限の備品しか備えていませんが、これもギルドに所属して仕事――クエストを達成し続けていただければ家賃などはいただきません」


 いいんですかそんな美味しい話。俺にとってはこの上ない。


「じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」


 話はまとまった。一時はどうなるかと思ったが、俺の本当の意味での異世界生活は良いスタートを切れそうだ。


「ところで、少し質問なんですけど……結局、アーインスキア? ってなんなんですかね?」


「――アーインスキアとは数年前まで、このレイ・ウィングズを不当に支配していた異世界のことです。とある方々によって、それもなくなったのですが、今でも各地に軍の残党が残っているようでして……」


 なるほど、俺はそれに間違えられたのか……。一応その名前には留意しておこう。


「それと最後にもう一つ――」


 俺は、自分の今の姿について聞いてみた。この世界に来てからいきなり若返ったのだと。


「魔法でないのならば、考えられる可能性は『スキル』ですね」


「スキル?」


「はい、魔法とはまた違う、特殊な能力です。レイ・ウィングズでも確認はされています。ただ、『スキル』というものは異世界転移よりも珍しく、私としては何も言えません。スキルを持っている御方は知っていますが、簡単に会える方ではないですし」


 なるほど、やはりそう言った類のものか……。

 だが、詳しいことはわからないままだ。スッキリしないまま、ありがとうございます、と答えた。

 ともあれ、俺のギルド生活がここからスタートするのだ。

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