第7話「自分のニオイを調べたい? 方法はあるが、やめろ」
ペットの話しはもういい。人間のニオイについての疑問ですか? ほお、中学生の娘さんが……そんなに大きなお子さんがいらしたのですか。お父さんのニオイを嫌がる……あ~、よくある話しですよ。はい、それで自分のニオイが気になって仕方ない。
まあ……結構多いです、そのテの問い合わせ。体臭があるかどうか調べてくれとか。臭気判定士は環境省で認めている資格で、つまりは水や空気を相手にする仕事なのですよ。人体に関係するとなると医療とか厚生労働省の管轄になっちゃう。なのでそのような関係の依頼はあまり積極的には受けませんけど。
はあ……体臭なのか着ているもののニオイなのか解らない。私はどっちも感じませんけどね。いやマジで。
だいたいの場合ですね、女性が成長してくると遺伝子的に遠い相手を選ぶ傾向が多いそうです。DNAの健全性のためですね。で、その過程の中で、やはり遺伝子が近い異性のニオイは忌避されてしまうとか。結局お父さんのニオイは本能的に嫌がられるってことですね。だから健全な反応と言えなくもありません。
気になるから調べたい? 自分のニオイを確認するのはかなり難しいですよ。嗅覚には『順応』って、言ってみれば防衛機能がありましてね。状況によって一時的に嗅覚が働かなくなる現象が起こります。
専門的な言い方をすると『連続したにおいの刺激によって、一時的に嗅覚の感度が下がる現象』と説明するのですけど、これじゃ何のことだか分かりませんよね。『同じニオイをずーっと嗅いでいると、そのニオイだけ感じにくくなる』という意味です。この順応には3つのタイプがあります。
まず。ず~っと同じにおいを嗅ぎ続けていると、その、現在嗅いでいるにおいだけに感度が低下して分かりにくくなる自己順応って現象が起こります。まあ、自分の体臭は判らない、ギョーザ食べて自分だけはニンニク臭くないってのが代表的な例です。工場に長年勤めている人が、結構強烈な工場の中のにおいに対して「あんまり気になりませんねぇ」なんて言う極端な自己順応もあります。
ずーっと嗅いでいたにおいに対して起こる現象とは違って、強烈なにおいを嗅いでしまうと、におい全体への感度が鈍くなる 場合があります。その状態は嗅覚疲労と呼びます。
嗅覚疲労はいわゆる「鼻が利かなくなる(ばかになる)」って状態で、自己順応とよく似ていますが、こっちは全てのにおいに対して感度が下がって、ニオイが何も感じなくなってしまいます。
それから、全部のにおいに対して感度が低下するのではなくて、ある特定のにおいに対してだけ感覚が低下する現象も起こることがあります。交叉順応と呼びますけど、あまり経験することはないでしょうね。
順応からの回復は、順応にかかったのと同じ程度の時間で結構早く回復します。調香師もやっぱり順応を起こします。同じような香水かぎ続けますからね。そのときどうするかって言いますと、自分の服の袖に鼻押しあてて深呼吸する。つまり自分のにおいを嗅いで回復させるんです。これ、私も臭気の調査で応用しています。
まあ、こんな理由で自分のニオイは分かりにくいのですけど、それでも調べる方法があることはあります。勧めないけど。
まず衣類のニオイの確認方法ですけど、100均なんかで売っている大きなビニール袋。あれを用意します。で、それは家には持ち込まないで外に置いておく。この実験をやる場所は、もちろんニオイがあまりなくて人目に付きにくいところに限られます。まあ、換気扇の排気が流れてこないならベランダでもできなくはないです。
それで……ニオイを調べたい衣類を外に持ってきて。ビニール袋を出して、その中に入れちゃう。それからビニール袋の中になるべく空気が入るようにして口を閉じる。で、中の空気が漏れ出さないようにして縛って、30分くらい放置する。その間は嗅覚をニュートラルにする必要があるから、できればそのまま外にいた方が良い。
で、30分経ったら。ビニール袋の口を開けて、中の空気を嗅ぐ。それがあなたの衣類に付いている固有臭。安心するか絶望するかまで責任持てません。
これの応用で、脇の下とかのニオイも確認できます。あんま勧めませんけど。まず脇の下をエタノールか、まあ水道水だって構いません。セッケンなんか使わないでとにかく清潔にする。それから、ニオイのない脱脂綿を用意して脇の下に挟む。でそのまま1時間くらいテレビでもネットでも見ていてください。
1時間経ったら、脇の下から脱脂綿を出して。今度は小さめのビニール袋に入れる。よくスーパーの自分でレジ袋に詰める台に、ロールで透明ビニール袋が置いてあるでしょ。あんなので良いです。で入れたらまた服の時みたいにベランダでもどこでも良いからニオイの少ない屋外で30分くらい鼻をニュートラルにする。
ところであのレジ袋に会計済み商品を入れる台って「サッカー台」って呼ぶそうです。ワールドカップとは全然関係なくて。サック作業、つまり袋詰め作業台って意味ですね。どーでも良いことですけど。
30分経ったら、さっきと同じく。袋の口を開けてなかの空気を嗅ぐ。たぶん、絶対何かのニオイは感じます。これで全く無臭だったら逆におかしいけど、死にたくなっても私は知らない。
もういっこ。自分の口臭チェックもこれでできます。脇の下チェックの時に使うのと同じサイズのビニール袋に息を吐き出して。その前に水でうがいぐらいはしておいた方が良いと思いますけど。それで、やっぱり外で少し待ってから中の空気を嗅ぎます。
ただしこれはね……教えておいて何ですけど、やらない方が良いです。他人の傍で話しができなくなっちゃいますから。自信をなくします。でも逆に言えば、『その程度のニオイは無視されている』ってことでもありますけどね。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます