第7話

「ゆーじ……何があったの? 二取くんが走っていっちゃったみたいだけど」


「い、いや。特に騒ぐようなことは起きていないよ。ケンカとかではないから」


「……男子が妙に喧しい気がするけど、ほんとに何もないの? わたしのところからだと、詳しい状況が見えなかったんだよね。二取くんって、だったの?」


 ――ばっちり見えているじゃないか、と内心で呟く。


 なつの言う通り、二取くんは二取さんだった。男子にあるまじきものを持っていたのだから。シャツの上からでも分かるレベルで、それらは主張が激しかった。


「二取さん……って呼ぶの、違和感がありまくりだなあ。下の名前も知らないし。どうすればいいんだろ。いまさら呼び方を変えてもしょうがないのかな」


「普段通りで良いんじゃないの。明らかに気を遣われているようで、むこうもきっと気まずいと思うよ。急にさん付けで呼ばれる身にもなりなよ、三沢さん」


「いまそれを知ったよぅ。確かに距離を急に置かれたみたいで、居心地が悪いかな! ゆーじはバツとしてわたしに最近流行りの森を開拓するゲームを買ってね!」


 機械音痴がなにを言っているんだ。スマホの触り方もまともに覚えていないくせに。――それよりも、彼のことが気掛かりだ。彼はいまどこに居るんだろう。


「……あれ。二取くんが居たところに何かが落ちているな。なんだろ、これ」


 メッキの剥がれた金属の塊が落ちていることに気付き、身を屈める。それを拾おうとして、しかし僕よりも先に五反田さんが手を伸ばしていた。


「……けい、なの?」


「……え、だれ?」


 僕の粗末な問いに答えることなく、五反田さんは深く考え込む。金属の塊をしばらく眺めたあと、ふと思い付いたかのように顔を上げ――


「あたし、を探してくるわね。みおちゃんには『致命傷レベルの腹痛でふたりともトイレに籠りっきり』だとでも伝えてちょうだい。しばらく戻ってこないから」


「う、うん。分かった、伝えておくよ」


 それはそれで心配な理由の気もするけど。致命傷なら病院に担ぎ込んだほうが良いんじゃないかな。――教室を去る彼女の姿をただ、見送るしかできなかった。

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