コンソメ・ラプソディ②

「さあ、ここにあるのですべてよ。煮るなり焼くなり好きにして頂戴!」


「おいおい。聞いていた話とだいぶ違うぞ。何袋あるんだよ?」


 指を差して数えてみる。茶色っぽい紙袋に「ばれいしょ」と書いてある袋が1、2、3。ぜんぶで6袋。ひとつあたりの重さが10キロなので、合わせて60キロ。


「しかも、業務用かよ。そんな芋ばっか食えんだろ。おなら大臣になっちまうぞ」


「じゃあ、ひとり当たり1袋でいいわよ。残りは学校給食にでも手配するから」


「だったら、最初から学校に提供すればよかったんじゃね?」


「なつが、お芋さんをたくさん食べたいって言うから、わざわざパパに無理を言って残してもらったのよ? あなたが要らないなら、なつと弐宮くんで処理してもらうけれど……いいのかしら? あなたのせいで、ふたりがおなら大臣になっても?」


 そもそも、おなら大臣ってなんだ。僕となつがそうなるのは確定なのか。しばらくポテト生活になるのは覚悟していたつもりだけど、それを考慮していなかった。


「くそぅ。卑怯だぞ、五反田……っ!」


「誤解しているようだけど、無理強いをしている訳ではないわよ? あなたが居ればひとりふたつで済むってだけで。さすがにひとりみっつは拷問レベルだと思うわ」


「この、悪魔め……っ! そんなこと言われたら、食うしかねえ……っ」


 年不相応な茶番劇に身を投じるふたりはともかく、僕はひとりで芋の袋に手をつける。――米袋と違って中身がごろごろしているうえに、硬い。腕が疲れる。


「雄二、大丈夫? わたしの家まで持っていける?」


「無理かも。腕が死にそう……いま圧倒的に台車が欲しいよ」


「台車なら、ないわよ。廿六木さんがひとりでここまで運んじゃったから」


 さすがは五反田家の召使い。なんでもできる。そのくせ、イケメンときた。異世界に転生したら、スキルなしでも無双できるんじゃないかってくらい凄い。


「じゃあさ。いっそのこと、ここであらかた食べていくって言うのはどうかな? ゆき、キッチン使っていい? わたしが料理をして振る舞ってあげられるよ?」


「別に構わないけれど、いいの? けっきょくのところ、そこまで芋を運ばないと食べることすらできないわよ。既にギブアップの弐宮くんは使い物にならないし」


「問題なし! なんのために男子ふたりを連れてきたと思っているの!」


「ま、まさか……壱河くん!?」


 そのまさかだ――と、カッコつけて賢一が出てきた。いやいや、そういうのはいいから早く芋を運んじゃおうよ。せっかくの休日になんの時間を過ごしているんだ。

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