第12話
「わあっ、見てみて賢一君! 遊園地が一望できるよ!!」
「そりゃあ、観覧車だからな。周りを見渡せるなんて当然だろ」
「もー。そういうことじゃないよっ! 賢一君はムードの欠片もないの!?」
「それにしても、観覧車なんて久しぶりだな。幼稚園で乗ったとき以来か」
「無視しないで! せっかく隣同士なんだからいちゃいちゃしようよ~」
賢一と四葉さんは初々しいカップルみたいで、僕としてはとても同じ空間に居づらい。五反田さんは完全にふたりを冷たい目で見ていた。
「別にふたりでいちゃついているのは構わないのだけど、こっちにはあたしと弐宮くんも居るんだから、少しは配慮して頂戴。喧しいったらありゃしないわ」
「だったら、ゆきも弐宮といちゃつけばいいじゃん! ちょうどお誂え向きになつが居ないんだし、気遣わずに弐宮と、らぶらぶちゅっちゅできるよ?」
「バ、バカじゃないの!? 誰がらぶらぶちゅっちゅなんか! 恋人じゃあるまいし」
「えー。恋人じゃなくてもいちゃいちゃはするよー。ねえ、賢一君☆」
ふと、4月の騒動について思い出す。なつと賢一がある日の放課後、それはもうこんな風に恋人のようだった。いまではすっかり、誤解なのだと分かったけど。
「ま、まあホステスと客みたいなことなんてよくあるよな。ある種のコミュニケーションってやつだ。男女の友情とも言うけど、四葉のはやり過ぎだと思うぜ」
「だって、賢一君ともっと仲良くなりたいんだもん。気持ちがつい先走っちゃったけど、もしかして迷惑だった……?」
五反田さんの目が再び鋭くなる。その冷たさはたぶん、ドライアイスを上回るだろう。心なしか、冷気が立ち込めている気がする。でもきっと、気のせいじゃない。
「い、いや、そんなことはないぞ。オレも内心は嬉しかったし……でもな、四葉。オレに身体をくっつけるようなことは、なるだけ控えてほしいんだ。正直に言うが、それをやられるとオレの心臓がヤヴァイんだ。だからやめてくれ」
「これはコミュニケーションだよ、賢一君っ。言葉の会話と同時に、身体でも会話をするの。それって、とっても素敵なことだと思うの。賢一君もそう思うでしょ?」
「お前がそう言うんだったらいいが……人前では避けような。恥ずかしいし」
僕にだけは刺さった。五反田さんがぼそりと呟いた、「変態」という言葉が。おそらく、先ほど言われたことが強制的にリフレインしたのだろう。ああ、怖い。
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