第16話

 賢一くんが、廿六木さんとふたりで雄二を別の場所へ運んでいるのを横目に、わたしはゆき容疑者とその場に残された。いろいろと疑問はあるけど、まずはひとつ。


「ねえ、ゆき。どうして下着姿なの? もしかして家ではそれが普段着なの?」


「さすがにそれはないわ。確かに夏場で暑くて仕方ないときはこんな感じだけれど、今日は寝汗を掻いて気持ち悪かったから、お風呂に入ろうとしたのよ」


「なるほど。それで、裸になる前になぜか雄二が入ってきたと」


 なんて奇跡的なタイミングなのだろう。雄二がそんな、少年漫画のラブコメみたいなトラブルに巻き込まれるとは。その瞬間の映像があったら、ぜひとも観てみたい。


「本当にびっくりしたわ。びっくりし過ぎて、むしろあの場面は冷静だったわね」


「確かにゆきの叫び声は聞こえてこなかったね……ふーん、冷静だったんだ」


「な、なによ……その、疑いの目は。別に弐宮くんの反応が、初心で可愛いなとは思ってないんだから!」


 まだ何も言っていないのに、聞きたかったことがどんどん出てくる。まさに入れ食い状態だ。ちょっと突けば簡単にボロを出してくれる。悪い言い方だけど、いいカモだ。


 賢一くんはゆきのことをクール系の美人と言っていたけど、皮を剥がせばこの通り。わりとポンコツの素質があったりするが、それがゆきの可愛いところでもある。

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