第9話

「ねえ、そこのおふたりさん。さっきのことでちょっと詳しい話が聞きたいな。わたしの中にある幼馴染的好奇心が抑えられないんだよぅ」


「オレは好奇心というか、単純にお前が心配だよ、雄二。どういうことをしたらいきなり五反田とビンタし合うことになるんだ?」


 ホームルームが終わってすぐ、案の定ふたりがビンタの経緯を聞きに迫ってきた。僕からしても意味不明だったのに、説明を求められるとはこれ如何に。


 五反田さんの提案にまんまと乗せられた僕も僕だけど、昨日からずっと冷静な判断ができていないのも確かだ。ふたりが傍に居ると、正常な思考ができなくなる。


「いわゆるビンタゲームってやつよ。知らない? いま巷で大流行しているらしいわよ。先生の話が退屈だったので、隣の弐宮くんを誘ってみたのよ」


「ああ、実はそういうことなんだよ。暇つぶしにできるゲームだったからしてみることにしたんだけど、思いのほか音が大きくて吃驚しちゃったよ」


 五反田さんからのビンタが意外と強かったお陰で、まだ僕の頬はじんじんと痛みが続いている。鏡でも見たら、彼女の手の跡が付いていそうなほどに痛い。


 というか、ビンタゲームなんて初めて聞いたけど。それが五反田さんが苦し紛れに思いついた言い訳なら、僕もそれに上手く便乗しなくてはならない。


「ビンタゲーム? なにそれ、面白そう!」


「なあ、五反田。ルール教えてくれよ。巷で大流行してんだろ!?」


 僕と、たぶん五反田さんも、ふたりが謎のビンタゲームに興味を持つことに動揺を隠せなくて、お互い顔を見合わせた。ポーカーフェイスは得意なほうじゃない。ここはぜんぶ五反田さんに任せることにして、僕は便乗でその場を凌ぐ。

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