青春ノスタルジック

作者 天野 蒼

錯綜するファンタジー、迷走するリアリティ

  • ★★★ Excellent!!!

センス・オブ・ワンダーを煮詰めたような作品である。
最初は、とある自主企画でお見掛けした本作品――ちょっとした興味で覗いてからこっち、その世界観にどっぷりとつかっている。「星屑の病」というウイルス性の奇病に端を発する世界観。一瞬、陰鬱さを感じさせるが、描かれるのは極めて爽やかで、どこか懐かしい……若者たちによる青春の日々のそれだ。

いうなれば学生時代――夏休みに突入する七月の、あの高気圧に呑まれてゆくような高揚感、そして情熱的な解放感がある。日本人の若者であれば、その大半が体験するであろう青臭い日々が、ちょっとファンタジックな要素とともに展開されてゆく前半は、ただただ気持ちいいの一言である。どこか郷愁めいたものを感じさせるのは、これは作者の手腕のなせる業であろう。

しかして――物語はその「真実」が顕現する後半から、そのよそおいをがらりと変える。
そこまで周到に張り巡らされていた伏線の存在に、読者はここでようやく気づくこととなり、そして大きな衝撃を受けることになる。描かれるのは極めて残酷で凄惨な現実――今まで登場人物に感情(存在)移入し、この素敵な世界を謳歌していた読者ほど、おそらくは大いに打ちのめされることであろう。これはまさしくSFの醍醐味である。

タイトルにもなっている「ノスタルジー」――郷愁とは、いうなれば「良い思い出」のことだ。嫌な記憶、苦い経験はそこには含まれない。そして、何度も良い思い出だけを反芻することをノスタルジア(懐古、追憶)という。
では、本作品がそういった懐古主義者の内省なのか? と言ったら、答えはNoである。作中で、登場人物たちは何度も、直視したくない、でもせざるを得ない現実と向き合うことになる。お約束のように嫌なやつも出てくる。感情を揺さぶられ、迷い、悩み苦しむ。しかしそれでも前進しようとする……。
ライトノベル風味と謳われてはいるが、決して砂糖菓子のように甘いだけではない「人間の感動」がここにはある。通読された後、貴方ならどういう風に、自分自身の現実と向き合うだろうか。


※末尾ながら追記させていただくと、本作品はすでに完結し、作者の個人誌という形で「書籍」として世に出ている。なので、一刻も早く結末を知りたい! という方には是非購入をお勧めしたい。今なら素敵なおまけつきだゾ。

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