第86話
「この小屋の存在は王族とそれに近しいものしか知りません。ここなら暫く追っ手や迎撃のものも来ないでしょう」
アイナの言うとおりこの付近には不死族特有の闇の魔力の気配は感じられない。
『同族の……気配もない…、ここなら少しは…休めそうだ……』
「そいつはありがたい」
言いながらノティヴァンは壁にもたれながら座り込み、腰のポーチから水筒を取り出すと一気に飲み干し、キキとアイナも床に腰を下ろすと小さな肩掛け鞄から水筒を取り出し口に運びぷはぁと小さく息を吐いた。
私も腰を下ろし壁に身を預け目を閉じる。
普通の
生物が毒を摂取すればやがて死に至るがその点私は大丈夫。ただ、自然に浄化し終わるまでその毒に痛めつけられる程度だ。
何かが肩に触れる感触に目を開けば、心配そうな顔でキキが私の顔を覗き込んでいた。
「お父ちゃん大丈夫?」
『大丈夫だよ。キキはもう動けるかい?』
眉を下げ眉間に皺を寄せている頭を撫でてやるとその顔を僅かにほころばせ笑みを浮べる。
「うちは大丈夫」
『そうか。ノティヴァンとアイナは動けそうか?』
2人に視線を向ければにかっと笑顔を向けるノティヴァンと気丈に微笑むアイナの姿があった。ノティヴァンの方は大丈夫そうだが、アイナの方は頑張ろうとする気持ちは伝わるが身体の方が追いついてないな。私が背負っていくしかないか。
そんなことを考えていると不意に小屋の扉が叩かれた。
それと同時に濃厚な闇の魔力が小屋に流れ込んでくる。
反射的に私は剣を抜き構える。すぐさまノティヴァンも槍を構え扉を見据えた。
「誰だ!」
ノティヴァンの厳しい声の問いに扉の向こうの存在はしゃがれた老人の声でいたって平常と言う口ぶりで問いかけてくる。
『そちらに姫様はおいででしょうか?』
姫様?アイナのことか?私とノティヴァンの視線がアイナに向く前に彼女は声を発していた。
「その声は爺ですか?」
『おぉ、姫様お元気そうで。爺は嬉しゅうございます』
扉の向こうから歓喜に打ち震える声が響いた。アイナの爺の声をまねた罠かもしれない。1歩前に出た私の目配せに意図を理解したノティヴァンが頷く。右手の剣を鞘に戻し、左手はいつでも反応できるように構えたまま扉を開く。
扉を開くとくすんだ朱色の神官服に身を包んだ黄土色に染まった骸骨が杖を手に地に伏し咽び泣いていた。
『爺は爺は姫様の無事だけが何よりの未練ございました。これで心置きなく昇天出来ます』
先ほどまで辺りに漂っていた濃厚な闇の魔力はすっかり薄れ、
ということは、目の前の
「何かこの
突然のことに皆呆然とするなかぼぞりとノティヴァンが呟くと慌ててアイナが
「爺、本当に爺なのですね。せっかく再会できたのにもう消えてしまうのですか?」
切なげなアイナの声に
『これで良いのです。爺達はもう、この世にいてはならない存在なのです』
少しずつ
もう少しで
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