第71話

海辺には老若男女と大勢の人が海で海水浴を楽しんだり、砂浜で砂遊びや日光浴などを楽しんでいた。

海辺に着くや満を持してと言わんばかりに自慢げな笑顔を浮べながらラミナは纏っていた布を取り払った。


「じゃじゃーん、どお?似合うでしょ?」


布の中から現れたの…

くすみのない白く透き通るような肌は女性らしい緩やかな曲線を描き、それは息を呑むような完成された造形美を持つ美しい身体だった。

豊満で形の良い胸を包むのは白く光沢のある布地のフレアビキニ。胸の中心には偶然にもラミナの鱗と同じ青く輝く小さな花が硝子ビーズであしらわれていた。

くびれた腰から形の美しい臀部は白く光沢のあるビキニパンツが覆い、それの上から透け感のある薄水色のパレオを腰に巻いている。


溢れ出る色香に思わずないはずの喉がごくりと鳴った気がした。


あたりを見れば視界内にいる男性の殆んどの視線がラミナに釘付けになっていた。そんな男性達の連れの女性達も男性に不満を述べた後にラミナの方を見て羨望の眼差しを向けていた。

今のラミナは男女、性別を問わず魅了する美の女神の化身とも言えた。


「ねえ、何かないの?」


先ほどのラミナの問いに見惚れて何も返さなかった私に彼女は頬を膨らませ軽く拗ねた口調で問いかける。


『似合ってる…凄く綺麗だよ』


ありきたりの回答にも関わらす、ラミナは満面の笑みを浮べていた。

輝く笑顔を見ているだけで、ないはずの心臓がドクドクと早鐘のように鳴り響いてるようだ。


何なんだこれは。


私は自身に起きた現象に戸惑い、視線を彷徨わせているとラミナに注がれる下卑た視線に気づいた。

その瞬間、内から言いようのない怒りが湧き出し、思わず下卑た視線を送る男達に殺気を飛ばしていた。私の殺気に気づいた男達はその場で腰を抜かしたり、一目散に逃走していった。


「どうしたの?怖い顔して」


『え?そんな顔してたかい?』


私に表情などないのに、ラミナにソアレとキキも私の感情の変化にすぐさま気付いてくる。


「せっかく海にきたのだから楽しみましょう」


真っ直ぐ私の目を見ながら微笑む彼女の顔を見つめ返した瞬間、頬が熱を持ち静まってきた、ない心臓の鼓動がまたドクドクと音を立て始めていた。


「波打ち際まで一緒に行きましょう」


差し出された白く柔らかな手をそっと握り私は少しばかり俯きながら波打ち際まで私達は連れ立った。




波打ち際の日よけパラソルの影から私は楽しそうに海を満喫するラミナ達を眺めていた。始めは遠慮がちにしていたエマも今は笑顔を浮べながら子供達と楽しそうに遊んでいる。


先ほどのあの状態は何だったのだろう?

そんなことをぼんやり考えていると海から上がってきたエマが空いたパラソルの日陰に収まるとポツリと呟いた。


「ラミナ様、本当に素敵な方ですね」


『あぁ、私には勿体無いくらい素敵な人だよ』


私が自嘲気味に呟くと


「アステル様も十二分に素敵な方だと姫様達から聞き及んでおります」


『デイジー達が私のことを?』


私が驚いて聞き返すとエマは少しだけ口元を綻ばせながら


「はい。ですので…アステル様はもう少しご自身に自信を持っても宜しいかと」


自分に自信を持てか…。


『周りが凄すぎて、自信なんて直ぐ打ち砕かれるよ』


苦笑する私にエマは


「勇者様と共に肩を並べられる程なのですよ。勇者様は人族でも最強といわれるお方。その方に認められているという事は十分自信を持って良いのです」


『そうか』


自信をもって良いのか。

少しだけ貰った自信のお陰で私は自分の中にしまい込んでいた想いに気付かされた。


「何話してるの?」


いつの間にか海から上がったラミナの顔が私の目の前に現れていた。艶やかでふっくらとしたラミナの愛らしい唇が私の頬に触れそうな距離にある。


まただ。


顔全体が熱くなって、刻むはずのない鼓動が物凄い速さで刻まれていく。


ソアレが幼児の頃は良く一緒に頬にキスされることはよくあった。あの頃は安らぐ、落ち着くとは思ってもこんなことは無かった。

あの日、ソフィア達の前で誓いを立てた日から少しずつ私のラミナに対する想いは変わっていった。


『たいしたことじゃないよ』


「そお?何か顔赤くない?」


そう言ってラミナが顔を寄せてくる程に私の顔は熱を持っていく。困


り果てる私に助け舟を出したのは僅かばかり口角を上げて一部始終を


見守っていたエマだった。


「ラミナ様、そろそろ時間も良い時間ですから屋敷に戻りましょうか」


言われてポーチから懐中時計を出せば時刻はユニーコン星(5時)を指していた。


「あら、もうそんな時間なのね。夕飯に間に合わないと困るわね」


やっぱり、ラミナの心配事の一番はそこか。私の苦笑をよそにラミナはまだ浜辺で遊ぶソアレとキキに声をかけた。


「ソアレ、キキ。お夕飯だから帰るわよ」


ラミナに呼ばれると二人は少しばかり名残惜しげに「はい~」と返事をすると此方に駆け寄ってきた。

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