第54話

安全が確保された扉の前にノーム達は並ぶと一斉に扉に向かって


『『『『『開ケテ!』』』』』


と叫ぶと厳かに扉は独りでに開いた。


開いた扉の先の光景に思わず見惚れ言葉が出なかった。今まで生きてきた中で美しいと思った光景は始めて七色湖を見た時だったが、ここの光景はそれに勝るものだった。


視界一面に色とりどりの宝石の花弁を持つ花々が咲きほこる様はただただ美しいいの一言に尽きた。


そんな花園の中に腰まである長いダークブラウンの髪を首元で一括りにし、白い飾り気のないワンピースを纏った1人の少女の姿があった。


少女と私の目が合うと


≪水よ集いて、かのものを清めよ≫


少女は私に向かって魔法を詠唱し手の平を向けると、私の頭上にバケツをひっくり返した勢いで水が流れてきた。


突然のことに驚きすぎて、怒れず唖然とする私に


「血で花園を汚さないで」


と少女は無表情で呟いた。


冷たい印象の少女に私が困惑しているとノーム達は親しげに声をかけた。


『魔晶華、頂戴』


ノームが少女にその短い腕を伸ばすと少女は無表情でノームに問う。


「どのくらい?」


問われてノーム達は両手を大きく広げて


『イッパイ!』


「却下」


即答で少女に却下された。


『一輪でも分けてもらえないだろうか?』


私が尋ねると変わらず少女は無表情だったが、「許可する」と分けてくれることとなった。


『ありがとう』


私が礼を言うと少女は淡々と言葉を紡いだ。


「表の岩喰い蚯蚓ロックイーターワームを倒してくれたのだろう。その礼だ」


ぐるりと少女は花園を見回すと私に聞いてきた。


「何色にする?」


何色が良いだろう?私が悩んでいると少女から矢継ぎ早に質問が飛んできた。


「送る相手は男?女?」


『女の子』


「髪の色は?」


『濃い青』


「瞳の色は?」


『黄緑』


「そう、分かった。これを贈ると良い」


言うと少女は薄い桃色の魔晶華を摘むと私に手渡した。

手渡された魔晶華を眺めているとほんの少しだけ少女が不機嫌そうに声をかけてきた。


「何か不満でもあるのか?」


『いや、ないよ。選んでくれてありがとう』


私が素直に礼を言うと少女は少しだけ恥ずかしげに視線を宙に迷わせた。


「まあ、土の上級精霊が選んでやったのだ。ありがたく頂戴しろ」


『そうせせてもらう』


受け取った魔晶華を腰のポーチに収め、私はノーム達に声をかけた。


『案内ありがとう』


『コッチモ、岩喰イ蚯蚓ロックイーターワーム倒シテクレテ、アリガト』


握手といわんばかりに短い手が差し出され、私がその手を握り返すと残りのノーム達も


口々に『アリガトウ』と言いながら私の足元をクルクルと回っていた。




『用も済んだし、私は帰るよ』


魔晶華を美味しそうに頬張るノーム達に別れを告げ、管理人の少女に頭を下げると私は扉の方へと歩き出した。そんな私の背中に少女の声が投げかけられた。


「元来た道をそのまま戻るのか?」


『そのつもりだが…』


振り返ると少女は呆れたという顔をして私を見た後、はあ、と盛大に少女はため息をつくき


「私の家族を助けてくれた礼だ。地上まで送ってやる」


『ありがとう。助かるよ』


言い方は尊大だが、照れているのか少女は顔を少しばかり俯かせ頬を指で掻いていた。


「この魔法陣に乗れば地上までいける」


少女の指差す先にはラミナが描いた転移陣と似たような魔法陣が地面に描かれていた。


先に陣の上に少女が立ち「早く乗れ」と急かされ、私も陣の上に乗ると少女は転移陣を起動させるための呪文を唱え始めた。

呪文が唱え終わると陣から眩い光があふれ出し視界を白一色に覆った。


光が収まり、徐々に色彩が戻るとそこは魔晶華の花園ではなく、月明かりに照らされた鉱山の麓だった。

もう、こんなに遅くなっていたのか。早く帰らないとラミナが心配してしまう。


『送ってくれてありがとう。早く帰らないと家族が心配するから』


「うむ。家族は大切にすると良い」


少女を背に帰路を急ぐ私を少女は僅かに口元を綻ばせながら小さく手を振り見送ってくれていた。





『ただいま』


そっと、内扉を開くと子供達は既に寝ているようで寝巻き姿のラミナが迎え入れてくれた。


「お帰り。怪我とかしてない?」


私に歩み寄り頬に触れるラミナの顔は少しばかり不安げだった。そっと触れるラミナの手を握り、空いている手でポーチから魔晶華を取り出した。


『大丈夫だよ。魔晶華も摘んできたよ』


明るい声で私が話すとラミナの不安も解消されたようで口元に笑みが浮かぶ。


「そう、良かった」


貰ってきた魔晶華をラミナに手渡すと、ラミナは両手で魔晶華を掬うように受け取った。


卵を運ぶように大事に魔晶華を手で包み込むとラミナは寝室の方へ向かい


「明日は私達が探す番ね。今日はもう寝ましょうか」


『そうだね』


頷き私は寝室の扉を開くとラミナを先に通し、後から部屋に入るとスヤスヤと気持ち良さそうに眠るソアレとキキの姿があった。


作業机の木箱に魔晶華を収めるとラミナも2人の眠るベットに横になり「お休み」と呟くとすぐに寝息をたてていた。


『お休み』


私も呟き座り込み部屋の壁に背を預け眠りについた。


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