第37話
ソフィアの店に戻る道すがらラミナは私が眠っている間のことを話してくれた。あの子ドラゴンはやはり光竜で、名前はキキというそうだ。
それから、私達を酷い目に合わせた御頭やその部下の男達はラミナ達が呼んだ衛兵に捕らえられ、この国のルールで罪を裁かれるらしい。
「2度と悪さが出来ないようにしておいたけどね」とラミナは微笑んで言っていたが、目が笑っていなかった。想像が付かないが背筋に冷たいものが走った。気にはなるが聞いてはいけないことだと直感的に理解した。
そんな話をしているうちに私達は店の前にいた。
私とラミナはソフィアの魔道具屋に戻り、2階のソフィアたちのいる部屋の扉を開くと笑顔でソフィアが出迎えてくれた。その後ろには神妙な面持ちのクックマーチとハルが待ち構えていた。
マリーとソアレとキキの姿はなく、これから起きるであろう事にマリーかソフィアが気を利かせて席をはずしてくれたのだろう。
私の姿を確認すると、クックマーチとハルは両膝を床につけ、額が床につくほど深く頭を下げると謝罪の言葉を述べた。
「本当に本当に申し訳ありませんでした」
「姉共々、申し訳ありませんでした」
頭を下げたまま二人は微動だにしない。この感じだと、私が何か言うまで何時間でも二人はこのままだろう。
どうするのが正解なのだろう?
謝罪を受け入れて許しては良いのでは?
クックマーチは家族を人質にとられての行動、私もラミナやソアレを人質に取られていたなら悪事に手を染めていたかもしれない。そう考えると同情の余地はあった。
けれど、許せない部分もある。ソアレやラミナを悲しませた。ソフィアやマリーにも迷惑をかけた。私も…辛くなかったと言えば嘘になる。
それをなかったことにするというもの出来ない。何かけじめでもあれば良いのだが。
それでも謝罪は受け入れようと思った。
『二人が深く反省してるのは態度からも分かる。だから謝罪は受け取る。ただ、まだ許すとは言えない』
私がそういうと二人そろって顔を上げ「謝罪だけでも受けてくれてありがとう」と涙ながらに呟いた。
『これで良かったんだよね…』
私は思わず、ラミナを仰ぎ見ると
「私とソアレは貴方が許すなら許すって決めてたから」
『そうか…』
後は私が許すだけか。何を持って気持ちにけじめをつけるか。悩んだ末、私の出した答えは…。
『二人を許すよ。ただし、けじめは着けさせてもらう』
「覚悟は出来てるわ」
「ボクも…」
私の言葉に二人の表情は真剣なものになり唇をぎゅっとかみ締めた。
丁度、顔を上げたクックマーチの顔の位置は今の私の胸らへんの位置にあった。ゴンという骨に硬いものがぶつかる音と同時に
「っいったぁい」
額に手を当ててクックマーチは悲鳴を上げて盛大に床に転がった。騎士たるもの女性を殴るなど言語道断。考えた末にその額目掛けて思い切りデコピンをかました。
次にハルのほうに向き直り
『しっかり口を閉じてないと舌噛むからな』
握った拳をハルの顔目掛けて振り抜く。ゴンと鈍い音ともにハルは床に転がった。床に転がったままのハルに向かって
『お前も男ならいつまでも姉に守られる存在でいるな。姉を守れる存在になれ』
私の言葉にどこかおどおどしていた感じのあったハルの雰囲気が変わり、きりりと引き締まったものになり、肯定の意で静かに首を縦に振った。
無抵抗の相手を殴る。罪悪感で拳と胸の奥が痛んだ。罪を罪で塗りつぶす。これが私が選んだ答えだった。
重くなった空気を換えたのはソフィアだった。パンと軽く手を打つと
「さ、重いことは解決したみたいだし、皆でお昼にしましょうか。ソアレ君達お腹空かせてるわよ」
「そういえば、もうそんな時間だったわね」
部屋の壁掛け時計に視線を移しながらラミナも頷いた。
『外に出るならいい加減、元に戻してくれないか?』
ため息を吐きながらソフィアのほうを向くと忘れてたのをごまかすかのように視線を逸らされた。
『ソフィア』
努めて低めの声で名を呼ぶと今度はちゃんと此方を向いてくれた。
「えー、可愛かったのに戻しちゃうの?」
『私に可愛いは必要ない』
「ホントに良いの?」
『良いと言ってるだろ』
ソフィアとのやり取りに少しばかりイラついてきた私の声に怒気が篭る。
「ごめん、ごめん、ふざけ過ぎた」
私に謝るとソフィアは顔を真面目なものに変えた。
「じゃあ、戻すわよ。《小さき幼きものよ、汝、元あるべき姿に戻ることを我は願う》」
ソフィアの言葉が終わると同時に私の周りを光が包み、白く塗り消した。光が薄まり、周りの景色に色が戻り始めた頃には私の視線は元の高いものに戻っていた。
「無事戻れたみたいね」
下から私を見上げるソフィアに『そうだな』と答えた私の声はやや高めの落ち着いた男性の声だった。
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