第13話

それから暫くするとソアレの泣き声でわたしとラミナは寝室に移り、ラミナとソアレが眠るのを見届けてからわたしも部屋の隅の壁に背を預け眠った。


『ん?もう朝かな』


目が覚め軽く伸びをして、寝室の端にある物書き机の上に置いてある時計をみると針はユニコーン星の刻(5時)を指していた。


なるべく音を立てないように立ち上がり、まずはラミナのはだけた毛布をかけなおし、次いでソアレのオムツ具合を確認する。


濡れてない大丈夫。確認を終えると汚れ物の入った篭を抱えてわたしは外へ洗濯に向かった。

外に出ると昇り始めの赤い太陽が明るく地表を照らしていた。今日も良い洗濯日和だ。

洗濯を終えシンクに残った皿を洗い終えてふうと一息ついたところでガチャリと寝室の扉が開きラミナが顔を覗かせた。


『おはよう』


「おはよう」


わたしが声をかけるとラミナは笑顔で返してくれた。


「私、ご飯の用意するからソアレにミルクあげててくれないかな」


『了解した』


わたしが頷くとラミナは保存の石箱を開けると白い液体の入った小瓶を取り出し、鍋に水を入れるとコンロに火をかけ小瓶を鍋の中に置いた。

ラミナは水が沸騰する少し前にコンロの火を止めて小瓶を取り出し、蓋を外し哺乳瓶の口を小瓶にあてがった。

瓶を頬に当てて温度を確かめるとラミナは「それじゃ、お願いね」と哺乳瓶をわたしに渡し、受け取ったわたしは頷き寝室へと向かった。


ソアレの眠る篭を覗くとパッチリ目を開け、もにゃもにゃと口を動かすソアレと目が合った。

抱き上げミルクをあげるとんくんくと豪快に飲み始めた。満足するまで飲み終わるとソアレはぷいと哺乳瓶から顔を背けた。

飲み終えた哺乳瓶を傍らに置きトントンと背中を軽く叩くとけふとソアレは小さく息をはいた。

腕の中でソアレをゆらゆらと揺らしてやるとクリッと開いてた目は徐々に瞼が下がり暫くするとスウスウと心地良さそうな寝息をたてていた。

薄紅色のほっぺに触れるとプニプニと柔らかく絹糸のような細く柔らかな金髪を撫でると羽毛のようにふんわりと逆立った。

存在全てが愛おしかった。

この子はどんな大人になるのだろ?

この子が幸せならそれでも…いや、極悪非道とかになられたらそれはそれで困るなぁ。

そんな取りとめのないことを考えているとカチャリと扉が開きラミナがこちらに向かって微笑み、ベットに腰掛けると自分の隣に座るようわたしに促した。促されるまま隣に座ると


「どうしたの?何か考え事?」


『まあ、そんな所かな。この子はどんな大人になるんだろうなって』


視線をラミナからソアレに移すとラミナもソアレの顔を見つめた。


「そうね。幸せになって欲しいけど、極悪非道の魔王とかにはなって欲しくないわね」


真面目な顔で言うラミナに思わずわたしは声を上げて笑っていた。


「ちょっと、何で笑うのよ」


可愛いらしいラミナの眉間に皺が寄る。


『ごめんごめん。わたしも同じことを考えていたから』


「あら、そうだったの」


謝るわたしにラミナは少しばかり驚いた様子だった。それから意気込んだ様子で


「極悪非道になんかさせないんだからね。そのためにもしっかり教育しますから」


一度、ラミナはソアレの方をみた後わたしの方にも向き直り


「勿論、アステルもね」


『え?わたしも?』


驚いてわたしが聞き返すと


「そうよ、無知は不幸の種とも言われるの。知っていれば助かることもその知識がなかったために助からないってこともあるでしょ。だから幸せになるためには色々な知識が必要なのよ」


ちらりとラミナは寝室の本棚を一瞥すると


「わたしの持てる限りの知識を貴方とソアレには与えるつもりよ。しっかり頑張ってよね、お父さん」


『頑張ります…』


いたずらっぽい笑顔で見るラミナにわたしは少しばかり沈んだ声で答えた。

気分が沈むのはあまり座学とかはわたしは好きじゃなかたんだろうな。

まあ、そこは気持ちを切り替えて頑張っていくしかないか。

この日からわたしの日常に勉強が加わり、ないはずの脳みそが幾度となく煙を吹くことになった。

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