第135話 失くした傘を嘆いても、雨はやまない

僕はその時、うっかり言ってはいけない言葉を使ってしまった

”あなたは人の気持ちがわかっていない”


因果応報である

”あなたに私の何がわかるの?”という言葉を数か月前に大勢の前で言われて、僕はずっとそのことが気になっていた


その人との関係はすっかり壊れてしまったのだけれども、それでもなんとか修復しようと試みて、僕もどこかで諦めてしまったこともあって、尚のこと心残りになっていたことも、言い訳としては、僕の深層心理に深く刻み込まれてしまっていたのかもしれない


僕はその人の何がわかるのかを考えた

そう、”相手のことをわかったつもりで話をするのは危険だ”なんて話をよく一緒にしていたっけ

僕にはなんでも相談しているようで、僕に伝えきれてない、或いは僕が受け取れていない何かがあったのだろう


そしてそれがふたりの溝を決定的なものにしたのかどうか、もともと合うはずのない唯一の接点をぶった切るのに十分な溝だったのか、或いはどんなに他の面で接合していても、その柱を折ってしまったら、総崩れになってしまうようなものか


まぁ、その話はさておき、散々言い訳がましいことを書いてきたけれども、今度は自分が同じようなことを他の人にしてしまった


つまり、互いに理解しあえている関係だと思っていたところに、何かのきっかけで僕の気持ちが相手に伝わらなかったり、受け取ってもらえなかったと聞き、僕はそれを使ってしまった


どんなに頑丈なロープでも一振りで切断するような重い一撃


そして、もしかしたら僕に”あなたに私の何がわかるの?”と言った人が、そのことを訂正しなかったように、僕も今の時点で”あなたは人の気持ちがわかっていない”という言葉を訂正する気にはなれない


その人が僕にしたこと――つまり僕がその言葉を使わざるを得ない状況を作ったことは、いくらでも許すことはできるけれど、それでもこの言葉は訂正すべきではないのだと思う


言われたときには困惑したけれども、使ってみてわかることがあるというのは、何とも不思議に思うのだけれども、だからと言って、何らすっきりもしていない


そうなのだ

それは薄々感じていたささくれのような小さな違和感であり、僕は違う言葉で、なんどかそれを注意或いは意見したことがあった

僕がとても傷つくこと――僕が愛してやまない、好きで仕方がないことに対して”どうでもいい”或いは”不当に冒涜”するようなことを言われたり、そういう態度を取られたとき


逆に言えば、そうしたものに興味を抱いて、敬意を示して貰えればこれほどうれしいことはない

ネットで自由に意見が言える時代になったからこそ、そのようなコミュニティは当たり前に拡大し、増殖していくのだけれども、同時に摩擦も増えてくる


いや、そんな大仰な話ではなく、密に連絡をとってお互いのことがよく理解しているような、そんな錯覚に陥ってしまった時にこそ、うっかり地雷を踏んでしまうと”あなたは人の気持ちがわかっていない”や”あなたに私の何がわかるの?”という思いが突き上げてきてしまうのである


そうなのだ

期待してしまって、それを裏切られたときの反動は大きい


言わせた僕が悪い、そして言ってしまった僕も悪いのである

それを言ったその人が悪い、言わせたあの人が悪いと全部他人に責任を押し付けようでもしたら、僕はいろんなものを失ってしまうのだろう


だけど思いや考えを訂正する必要はない


”感じたこと、考えたことは正確に伝えるべき”なのである


それが我がままでも、思い込みでも、拙くても、拙速でも、そんな重い言葉を口に出してしまうような状況になったときは、そうすべきなのである


それで未熟な自分を知ればいいし、思慮が足りない自分に気付けばいい


どう相手に伝えるか、どう受け取ってもらうかを創意工夫すること

そしてそれでもだめなら、諦める、リセットすることを怖がらないことこそ肝要なのではないだろうか


失くした傘を嘆いても、雨はやまない

新しい傘を手にするか、雨風をしのげる場所に移動するか、或いは雨が止むように天に祈りを捧げるのか


しかしやまない雨はない

時間が解決してくれるということも確かにあるのだけれども・・・

でも雨が降らないと、傘を失くしていたことを忘れてしまうということもある


そうやって人は過ちを繰り返すのだから、僕はこうして言葉に残すのだ


では、また次回

虚実交えて問わず語り

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暗い過去と明るい未来の狭間 めけめけ @meque_meque

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