昔々の物語に物申す

第104話 カチカチ山の恋物語

 昔々の物語

 あるところにおじいさんとおばあさんがいました

 おばあさんは殺されました

 殺したのは畑を荒らしていたタヌキです


 悪さをしたタヌキを捕まえたお爺さん

 タヌキ汁にしようと生け捕りにしたタヌキを縄で縛りつけていたのですが、それがそもそもの間違いです


 タヌキの肉は臭いという話があるのですが、あれはどうやら違うらしく、興奮させるとスカンクのように肛門腺から臭い分泌液を出すらしいんですね


 おそらく罠にかけて怖い思いをさせたタヌキはさぞかし臭かったことでしょう


 そこでおじいさんはタヌキをすぐには殺さずにちょっと落ち着かせて匂いが無くなったところを水にでもつけて窒息死させることで、美味しくタヌキ汁を作ろうとしたのかもしれませんね


 しかし計算が狂ったのはおばあさんが情にもろかったことと、タヌキがズル賢かったことでしょうかね


 さて、タヌキ

 よせばいいのにおばあさんを殺して、今度はおじいさんを懲らしめようとします

 まぁ、自分は殺されかけたのだから、復讐するというのもわからない話ではないです

 そりゃ、畑を荒らしたタヌキが悪いのかもしれませんがね

 もともとタヌキが暮らしていた土地を最初に奪ったのは人間たちです

 そこでできた農作物を多少タヌキたちが食べたとしても、人間は文句を言えないんじゃないんですかね


 まぁ、このタヌキ、へまをやって人間に捕まったわけですが、もしかしたら親兄弟もそうやって人間に捉えられて、皮をはがれて、毛皮として売られたかもしれないし、この物語にはないタヌキの事情ってやつが、在ったのかもしれませんね


 おばあさんを言葉巧みに騙してまんまと自由の身となったタヌキはおばあさんを殺し、タヌキ汁ならぬおばあさん汁を作っておじいさんに食べさせます

 もうほとんどホラーというかアンソニー・ホプキンス演じるレクター博士を思い出しちゃいますね


 おじいさん、おばあさんが殺され、それを食べさせられたことを知り寝込んでしまいます

 おそらくはそれに見合うだけのタヌキには恨みがあったのでしょうね


 さぁ、ここでウサギの登場です

 おじいさんの話を聞いて、これは酷いと、タヌキを懲らしめにかかります


 いや、そこおかしいだろう?

 なんでそんなおせっかいをやくのかしらね

 ウサギにはウサギの打算があったのでしょう


 うさぎ追いしかの山 小鮒釣りし、かの川

 そう、ウサギはタヌキ以上に人間に狩られる動物ですね

 そしてタヌキは雑食ですがウサギは草食です

 そしてめっちゃ繁殖します


 ここでタヌキを懲らしめたら、しめしめ食いっぱぐれないくらいのことは、当然考えたでしょうね


 それにしても合点がいかないのは、タヌキがウサギにころりと騙されたことですね


 カチカチ音がするからかちかち山だとか、傷口に塩を塗るとか、泥の船とかもう見え透いているにもほどがあります


 そこで僕は思ったのです


 嗚呼、タヌキはそのウサギに惚れてしまったのだろうと


 若い娘に惚れ込んだ、中年男のように


 と僕は考えをめぐらせたのですが、僕よりもずっと前にその考えにたどり着いた人がいます(※1)


 太宰治という人なんですがね(※2)


 彼もまた、僕と同じ酒飲みで、おとぎ話を聞いても、いやそれは、ちょっとおかしいんじゃないかなぁ と思ってしまう人だったようですね


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り


 ※1新約・カチカチ山 僕の初期の作品です

 https://ncode.syosetu.com/n0458o/


 ※2『お伽草紙』

 瘤取り、浦島さん、カチカチ山、舌切雀が収録され、それぞれ太宰治らしい解釈で書かれています

 僕のお勧めは舌切雀

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