第93話 ボールは友達とドーハの悲劇と

 さて、前回は1990年のイタリア大会が初めて生で見たワールドカップというお話をしましたが、時代を10年ほどさかのぼりましょうか

 1981年から1988年まで少年週刊ジャンプに連載された人気コミック『キャプテン翼』について語ることは日本のサッカーの歴史においてどうしても必要なことでしょう

 『アタックNo1』がバレーボールを、『エースをねらえ』や『テニスの王子様』がテニスブームを、『スラムダンク』がバスケットブームを生んだように『キャプテン翼』もサッカーブームを巻き起こしました


 1983年にはアニメがスタートし、原作が終わった後にはファミコンやスーパーファミコンといったゲームによるストーリーが展開され、みんな翼くんやそのライバルたちと一緒に成長をしていきました


 ここがたぶん、他の漫画と違うところで、『ボールはともだち』というサッカーオタクが『ワールドカップに出るんだ!』と夢を語りながら成長していき、高校を卒業とともにブラジルに渡るところで原作は終わっています


 そしてそこからまさかのゲームソフトによる後日談が語られブラジルのクラブチームや世界のクラブチーム、そしてワールドユースという展開になっていくのですが、これがまた、1986年のメキシコ大会の予選との兼ね合いで、もしかしたらワールドカップに行けるかもという現実とのリンクが発生します


 ”木村和司の伝説のフリーキック”


 ずっと一次予選で敗れていた日本がアジア最終予選まで進み、韓国戦でのミスター・マリノス と呼ばれた男がみせたそのシュートの軌道は、もしかしたらあの壁の向こう側に行ければ、日本もワールドカップに行けるかもしれないという”希望”をみせてくれました


 さながら翼くんのドライブシュートということになるでしょうか


 さて、イタリア大会では再び一時予選で敗退した日本はいよいよプロ化を進めることになりますが、この『キャプテン翼』の連載が始まった1981年に一人の男が単身ブラジルにわたり、ついにはプロサッカー選手として契約するにいたります


 それがキングカズこと三浦知良なのですが、彼がJリーグ発足と代表入りに向けて日本に帰国したのが1990年


 さらに言うとテクモからファミコン用ソフト『キャプテン翼II スーパーストライカー』が発売されたのもこの年なわけで、このゲームに熱中した子供たちや大学生あたりは、知らず知らずのうちに世界のサッカーというものを身近に感じていたはずなのです


 そして1993年にJリーグ開幕、その年の10月28日、日本はドーハの悲劇に落胆し、世界の壁の高さを知ることとなります


 ”この消失感は二度と味わいたくない”

 誰もがそう思ったことでしょう


 でもだからこそ、僕は日本が行けなかった1994年のアメリカ大会は真剣に見たものです――アジアのレベルはどこまで世界に通用するのかと

 韓国はグループC ドイツ、スペイン、ボリビアと同じ組

 サウジアラビアはグループF オランダ、ベルギー、モロッコと同じ組になりました

 今は32か国で争うワールドカップですが、この大会までは24各国なのでアジアは2枠でしたし、グループ突破も2位までの12チームプラス3位の上位4チームによるトーナメントという形でしたが、見事サウジアラビアはベスト16という成績を収めました

 韓国もしぶとく闘いスペイン、ボリビアと引き分け高齢化の進んだドイツを苦しめましたがエースストライカー、クリンスマンの前に粉砕されます(あんなきれいで力強いボレーシュートは観たことがない!)


 アジアがどこまで通用するのか、いや、日本だったらここまで戦えたのだろうか

 世界との距離を本当の意味で感じた大会でした


 そしてカテナチオというプレイスタイルがあまり好きではなかったイタリアのサッカーの中にあって、イタリアの至宝、ロベルト・バッジオのドラマに心を打たれるのでした


 今でこそウイイレと言えば、コナミの世界的人気サッカーゲームですが、そのもととなるSFC『実況ワールドサッカー PERFECT ELEVEN』が1994年(大会前)、『実況ワールドサッカー2 FIGHTING ELEVEN』(アメリカ大会で実際に起きた条件から勝利をつかむシナリオモードが秀逸)が1995年に発売され、僕はイタリア代表と日本代表を自分好みで作って遊び倒したものです


 そうやって次のフランス大会への夢と希望を胸に秘めていたのでした


 では、また次回

 虚実交えて問わず語り

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