第114話

「おらおらおら、ムクロ様のお通りだぁ!」

「キシャアアアア!」

「グルアアアアアア!」


 大量に湧いているモンスターどもを圧倒的な力で粉砕していき、俺達はタマモ達を捜す為に王都中を駆け巡る。


「弱い、弱すぎるぞ! これではワシを満足させることなどできんわ!」


 師匠は身の丈以上の巨大な斧をぶん回し、モンスターの返り血を浴びながら叫ぶ。

 

「……あれ、私達って悪役でしたっけ」

「知りませんわ、そんな事。それよりも、あんなに強いとかあの二人は本当に妬ましいですわね」

「私達もお兄ちゃん達に負けてられないね!」


 俺と師匠が快進撃を繰り広げている後ろで、レムレス達は何やら呑気に雑談をしている。

 まったく、少しは働いたらどうなんだね。

 そんな事を考えながら移動していると、目の前に見覚えのある一団を見かける。


「あ、おいタマモ!」


 俺がタマモに向かって叫ぶと、奴はフサフサの尻尾を揺らしながらこちらを振り向く。


「死ねええええええ!」


 奴が振り向いた瞬間を狙い、俺は極大サイズの闇の塊をタマモ達の方へと放つ。

 殺す気で放った魔法は、凄まじい速度でタマモ達の元へと飛んでいった。


「符術・大火炎」


 タマモ達を闇の塊が飲みこもうとした瞬間、タマモは懐から数枚の札を取り出して凛とした声で呟く。

 すると、タマモ達を囲むように燃え盛る炎が現れ、本来燃えるはずのない闇の塊を燃やし尽くしてしまう。


「……ムクロ」


 闇の塊を燃やし尽くして役目を終えたのか、炎が収まるとタマモがこちらを見つめてくる。


「てめぇ、いきなり殺す気で魔法放つとかどういう了見だ!」


 そして、目をひんむきながらギャンギャンと騒ぎ立てる。


「うるせぇバーカ! 死んでもどうせ俺か師匠が蘇生すんだから素直に死んどけよ! お前、積み重ねすぎて一回死なないと清算できないからさ!」

「馬鹿って言った方が馬鹿だ、紙装甲野郎が!」

「んだとこら!」

「マスターマスター。口喧嘩をしている場合ではありません」


 俺とタマモが言い争いをしていると、レムレスが横から口を挟んでくる。


「ボス、時間がありません。ここは私達に任せて、先に行ってください」


 向こうでも何やら話しており、タマモが頷くと一人部下を連れて先に行ってしまう。

 ああもうほらー。レムレスが間に入ってくるからタマモが逃げちゃったじゃん。


「……というわけで、こっから先は俺達が相手だ。ボスを追いかけたきゃ、俺達を倒すんだな」


 馬鹿でかい大剣を構えた、ほどよく体が引き締まった緑髪の男がズイッと前に出てきてそう言い放つ。

 ……俺達の前に立ちはだかっているのは、緑髪を含めて五人。

 対して、こちらは俺、レムレス、アグナ、師匠、レヴィアータの五人。

 丁度一対一の流れに持ち込めそうではあるが……。


「俺は、獅子宮レオ隊隊長、千刃のガラハド。腕に覚えのある奴はきな」

「私は宝瓶宮アクエリアス隊長、キュラステラ。母なる海の力を思い知りなさい」

人馬宮サジタリウス隊長……ヨイチ。我の弓は必中也……」

磨羯宮カプリコーンのベルヴェンダイムと申します。私は魔族ゆえ、私と戦う時は覚悟なさいますようお願い致します」

「俺様は金牛宮タウロス隊長のキュラソーだ。俺様のスタイリッシュな技に打ちのめされるがいい」


 五人は、そう言ってそれぞれ名乗りだす。

 大体予想はついてたが、やはり十二幹部の奴らか。

 ……つーか、てめーら一気に出てくんじゃねーよ。ぽっと出過ぎて在庫処分セールかと疑ってしまうレベルだ。

 

「他四人もそうだが……魔族が厄介だな」


 ベルヴェンダイム以外の四人は明らかに人間だが、奴らの持つ力はそれをはるかに凌駕している。

 そして、魔族であるベルヴェンダイム。

 二本の大きな巻角が特徴で、魔族というだけだあり奴だけ明らかに別格だった。

 俺か師匠、レヴィアータでなければまず勝てないだろう。そんなレベルで、奴は強い。

 だが、こいつらに構っていればタマモは確実にナイア・ニグラスを召喚してしまう。


「ムクロ、ここはワシらに任せて先に行け」


 俺がどうしたもんか悩んでいると、師匠が何ともベタなセリフを吐いてくる。


「師匠……」

「こいつらは強い、ワシの直感がそう告げている。そして、今までにないくらい楽しい戦いができるともな……!」


 師匠は目を血走らせ、なんとも歪で楽しそうな笑みを浮かべている。

 さっきまで、モンスターどもが雑魚過ぎたせいで余計フラストレーションが溜まっているのもあり、滾っているのだろう。


「まったく、なんで私が引き立て役みたいなことをしなければならないのでしょうか。妬ましすぎて爆殺したいくらいですわ」

「レヴィアータ……」

「お兄ちゃん。お兄ちゃんは早くタマモって人を追っかけて! 大丈夫、こいつらやっつてすぐに追いつくから!」

「アグナ……」


 それはフラグなのだが、これだけの戦力が揃っているなら死亡フラグも折れるだろうな。

 そして、最後に俺はレムレスの方を見る。


「私はついて行きますよ」

「あれぇ!?」


 シレっとした顔で静かに言い放つレムレスに俺は思わずずっこける。

 そこは、流れ的に俺をカッコよく送り出す所じゃないのか?


「マスターは紙装甲ですからね。マスターの傍で守る人が居ないと戦いもままならないでしょう。……それに、タマモの方にも、もう一人幹部らしき人が居ましたからマスター一人では心配です」


 むぅ、そういえば確かにタマモの他にもう一人居たな……。

 しかし、そうなるとこっち側は三人になってしまう。師匠なら大丈夫だとは思うが、万が一ということもある。


「ムクロ、いいからレムレスを連れて行け。ワシら三人でもなんとかなるわ。それに、圧倒的すぎてもつまらんから、良いハンデになるしな」


 師匠はそう言ってニッと笑う。

 ……まったく、頼もしすぎるくらい頼もしいな。


「……分かった。レムレス、ついてこい!」

「合点承知」


 こんな場面だというのにブレないレムレスに、俺は少しだけ苦笑する。


「それじゃ、師匠達任せましたよ!」


 俺はそう叫ぶと、レムレスと共に横へと走り出す。


「逃がさぬ」


 と、そこへヨイチの放った矢がこちらへ向かって数本飛んでくる。

 しかし、それらはこちらへ届くことなく全てレムレスによって叩き落とされた。

 必中(笑)


「……さすがレムレスだ」

「でしょう? ほら、追撃が来ない内にさっさと行きますよ」


 レムレスはそう言うと、俺を横抱きすると全速力で走りだすのだった。


 



 ……やだ、カッコいい(トゥンク)

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